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第10章 その頃

芦屋日向(あしやひなた)が日本から、いや、地球から消えた一週間後。


荒木相馬(あらきそうま)はたぶん日向が最後にいたであろう場所、あの山に来ていた。


「日向……。」


後悔で胸が押しつぶされそうだった。どうして、あの時家に帰ってしまったのだろうか。もっとよく探していれば、日向はこんなことにならなかったのではないか。あの日から頭の中は混乱しっぱなしだ。


「どこ、行っちまったんだよ。日向……。」


地面に膝をつく。土で制服が汚れたが、今の相馬にそんな事を気にしている余裕などありはしなかった。あれから学校が終わり放課後になると、毎日日向を探しにあちらこちらを回っていた。そして、この山には欠かさずきている。


「あの子にもっと話を聞いとけばよかった。」


あの不思議なことを言っていた少女。あの少女は日向のことを知っているようだったのに。どうして、詳しく聞かずに帰ってしまったのか。いつもの気まぐれだと思ってしまったのか。


「もし、日向に何かあったら俺のせいだ。」


助けられたのはきっと、俺だけだった。俺だけがあいつを助けられたのに……。


「くそっ!!」


地面をこぶしで思いっきり叩く。何度も、何度も、こぶしをたたき続けた。

その時、不意に地面を踏む足音が聞こえた。


「ケガしてしまいますわよ。」


幼く、甘ったるい声。あの日、日向がいなくなった日に聞いた声だった。

相馬はばっと顔を勢いよく上げ、後ろを振り向いた。


「き、君は、あの時の!」


後ろにはあの時、あの場所にいた、どこか変わった娘が立っていた。あの日と同じヒラヒラのスカート、そして、日本人とはかけ離れた容姿。碧い眼をした女の子。


「き、君、日向の居場所、知ってるんだろう?どこにいるんだよ、あいつは?」


相馬はたった一本の蜘蛛の糸をつかむように必死に彼女に詰め寄った。きっと彼女だけが唯一の手掛かりだと直感していた。だから、ここで彼女に逃げられるわけにはいかないと焦って腕を掴んだ。


だが、強くつかみ過ぎたらしく、女の子の顔が少し苦痛に歪んだ。

その表情にはっと我にかえる。


「ご、ごめん。」


すぐに腕を離した。罪悪感で目の前の女の子の顔がまっすぐ見れない。それでも言わないと、聞かないといけないことがある。


「きみ、ここで日向と会ったんだろう?あの日から、あいつ家にも帰ってなくて、行方不明なんだ。もし、居場所を知っているなら、なんでもいい教えてほしんだ……」


最初の勢いはどこに行ったのかと思うほど、沈んだ声しか出なかった。もし、彼女もダメっだったら、一体どうすればいいのか、何をすればいいのか、自分にはもう分からない。

本当に最後の望みだった。


だが、そんな彼女から一向に言葉は帰ってこない。不安になり、相馬は顔をあげた。目の前には、悲しげな瞳で相馬を見つめる女の子の顔があった。


「…………。」


その瞳に相馬は言葉を失った。


なんで、どうして、そんな顔するんだ。やめてくれ、君は、君は最後の糸口なのに……。頼むから、そんな憐れんだ顔で見ないでくれ。


「……ごめんなさい、ですわ。」

「え?な、なんで、謝るんだよ。」

「…………。」


少女は答えない。ただ相馬の目の前に何か木の棒みたいなものを差し出した。

良く見てみると、その棒は真中から真っ二つに折れていて、その掌の中には折れた時にできたであろう、細かい木くずもあった。


「これは?」

「杖、だったものですわ。」

「杖?」


少女はそれを宝物のように、優しく胸に抱いた。たったそれだけで本当に大事なものだったのだと相馬も感じた。


「それ、壊れたのか?」

「はい、日向さんを飛ばした時に。」

「えっ?そ、それってどういう意味?」

「あの移動は私が思ったよりも魔力を使う行為でしたの。だから、その力に杖が耐えられず、折れてしまったのですわ。」


この子の言っていることは、チンプンカンプンで相馬にはどういう意味なのか分からない。


「ねぇ、日向を飛ばしたってどういう意味?」


相馬がそう聞いても少女は答えない。ただ胸元の杖の残骸をみつめているだけ。それでも相馬は辛抱強く待った。この子は絶対に何か知っている。それを聞きださなくてはならないと強く心に秘めて。


そのうち、少女の口がゆっくりと開いた。まるで、泣きたいのを我慢しているような無表情さで相馬にこう告げた。


「日向さんは私にどこか遠くへ行きたいと願いましたの。そして、私はそれを叶えて差し上げただけですわ。」

「どこか、遠く……。」


そして、その一言を発した後、少女は何もしゃべらなくなってしまった。まるで、目の前にいるのは人形のようだった。可愛らしが何を考えているのか分からない、そんな人形。


いつも、昔から日向はときどき遠い目をする時があった。何を考えているのかは分からなかったけど。

彼女がこの町を嫌っているのを相馬は知っていた。それでも、本当に日向が出ていくとは思わなかった。なんだかんだ言って日向はこの町を、思いあがりかもしれないけれど、自分たちをそれなりに気に入っていると思っていたから。


そんなことを本気で願ったなどと、信じたくなかった。それに、日向が願ったとして、この少女はどうやってそれを叶えたというのだ。飛ばしたと言っていたが、どこに?どうやって?

あぁ、ますます何も分からなくなっていた。全然前に進めていない気がする。逆に後退しているのではないだろうか。


ごめんな、日向。まだ、お前を見つけられそうにないよ……。


読んで頂き、ありがとうございました。

皆様、大変お久しぶりです。今回はちょっと短めですが、「その頃日本では」みたいな話でした。久しぶりに相馬とルーナを書いたので、きっと忘れている人は多々いると思います。そんな時はお手数ですが、第1章をチラッとでも見直してみてください。


さて、そして、次回はまた魔界での話に戻ります。彼らの活躍というか相馬の苦悩はまた、そのうちに書きたいと思っていますので、そーいうことでよろしくお願いします。

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