第1章 私はどこへ?
読みにくいところもあるかと思いますが、どうかよろしくお願いします。
この町から出たい。
誰も自分のことを知らないところに行きたい。
でも、
と、この物語の主人公である芦屋日向はため息をつきながら考える。
(でも、そんな行動力があったら、もうここにはいないんだろうな・・・・。)
と、もう一度ため息をついた。
彼女にとってこの町はせまく感じる。人付き合いが苦手な彼女はちょっと店に出かければ、知り合いに会うというこの町が嫌いなのだ。
そんなため息ばかりをついている日向を横目でチラチラ見ているのは、彼女とは幼なじみで、たった一人の男友達。 荒木相馬
小中高とずっと同じ学校で同じクラス。まさに腐れ縁という仲だ。
そして、なぜ彼が日向を見ているのかというと、まぁ、なんというか、相馬は日向にほのかな恋心を抱いているからである。
小学校のころからずっとなのだから、その想いは偽りのない恋であろう。だが、こんなに長い間一緒にいたのに告白もせず、何もしなかったのは、ただ単に彼がヘタレと呼ばれる人種であるからだ。
ちなみに、今は授業中なのだが、この二人は全く話を聞いていなかった。日向はずっとぼーっと窓の外を眺め、相馬はそんな日向をチラ見。
先生はそんな二人の様子に気づいていたが、めんどくさいので何も言わないでおこうと心に決め、授業を進めている。そんな先生の内心を知ってか知らずか、日向の目線は窓の外で全く別のことを考えていた。
(あーあ、早く卒業したい、進路決めてないけど。ここから逃げられるならどこでもいいし。沖縄とかいいかも・・・・。)
なんてことをぼーっと考える。そして、その日向を見ながら相馬もぼーっと妄想していた。
(日向とデートするなら、やっぱ映画かな?遊園地とか好きじゃなさそうだし。というか、キャーキャー騒ぐ日向の姿が想像できない・・・。 日向はインドアだし。となると、デートは家!?俺の家!?いや、待て、ダメだ。それはさすがに急展開すぎる。)
なーんて、くだらない妄想の世界に入り込んでいた。そんな時、
キーンコーンカーンコーン
と、授業終了のチャイムがなる。
「今日はここまで。日直。」
「はい、起立、礼、ありがとうございました。」
先生は最後までこちらを見なかった日向を一瞥し、教室を出て行った。
日向は放課後だというのに、まだ窓の外を見ていた。
「日向、放課後だぞ。帰らないのか?」
隣の席の相馬が日向に声をかける。
「はぁ?帰るに決まってるでしょ、当り前のこと聞かないで。」
「うっ、いや、だって、お前がいつまでも外を見て動かないからさ。」
「別にそんなに急いで帰る理由もないんだから、動かない時くらいあるでしょ。」
「そ、そうだな。」
この二人の関係は日向>相馬って感じ。それでも相馬はそんな日向が好きなのです。
「ま、まぁ、帰るならどっかファーストフードとか寄ってかねぇ?」
「うーん、今日は遠慮しとく。お金ないから。」
「俺、おごるけど。」
「んー、いいわ。他に寄りたいところあるし。」
こんな二人の会話をクラスの皆は生温かい目で見守っている。相馬の恋はクラスメイトにもろバレで、結構前から応援されているのだ。
「寄るって、またあそこ?」
「うん、そう。」
「じゃあ、俺も・・・。」
「相馬、あそこには一人で行きたいの。知ってるでしょ?一人じゃなきゃ意味ないから。」
「あぁ、そっか。そうだったな。」
「それじゃあ、私行くから。また明日。」
「あぁ、じゃあな。」
日向は軽く手を振り、教室から出て行った。
相馬に集まる皆の視線は優しいものだった……。
◆
「はぁー、今日も退屈だった。」
また、ため息をつきながら、日向は例のあそこへと向かう。
そこは人が全くいない場所。唯一、町が広く感じる場所だった。
その場所へ行くため、日向は坂道をひたすら登る。
登って登って登りつづけ、やっとその場所に着く。
「すぅーーー、はぁーーーー。」
日向は少し乱れた呼吸を整えるために、とりあえず深呼吸をした。
「やっぱり、ここは落ち着くわ。」
と、ぽつりと、独り言を呟いた。
そして、日向が今いるあそことは、皆がヤッホーと言いたくなる場所。そう山の上である。
まぁ、そんなに高くはないが、町全体を見回せるのだ。
こんな時間に山に登ってくる人はそうそういないし、元々、人気がない山なので、日向以外人っ子一人いない。
だからこそ、ここは彼女のお気に入りだ。なぜ、相馬もこの場所を知っているのかというと、ここはそもそも、小学校の時に相馬と見つけた秘密の場所だからだ。というか、小学校のころから人付き合いが苦手だった日向の友達は相馬だけだったので、いつも二人で遊んでいたら、たまたまここを見つけただけである。
ここを見つけてからというものひなたはちょくちょくここに来る。ここに来たときだけは、この町がちょっと好きになるから。
ちなみに相馬は何度も一緒に着いてこようとしていたが、そのたびに日向に断られていたりする。
ほら、ヘタレだからさ。
日向は町を見渡す。
「広いな…。本当はこんなに広いのに、なんで下に降りると狭く感じるんだろう。」
また、溜息をつく。一体、今日何回目のため息だろうか。
そして、近くの木のベンチに腰かけ、遠くの空を見る。
(あぁ、鳥になりたいかも。そしたら、自由になれるのかな。)
なんてことを考えていると、どこからか、ヒューーーという音がする。
日向がキョロキョロしても、何も見当たらないが、その音はどんどんでかくなり、なんだかこちらに近づいてきているようだった。
そして、
「あぁ、そこの人間さん、どいてくれるとうれしいですわぁ~。」
という、何か慌てているような人の声がする。だが、周りには誰もいない。
もしやと思い、日向がそろりと上を見上げると……、
そこには、真っ白なパンツと傘状に広がったフリフリのスカートが見えた。
「えっ?」
と、日向が声を出した瞬間、思いっきり、顔面にパンツがあたり、日向達は地面に倒れた。
「痛いのですわ。だから、どいてと申しましたのに……。」
その、落ちてきた謎の少女、かなりの美少女だ。目は深い青で、髪は漆黒のように黒い、そして、長くて艶やか。顔全体は、整っていて、日本人では絶対ない容姿だった。
すると、その少女のお尻の下から、
「ふがーー、ふっが、ふっがー。」
という音が聞こえてきた。
「えっ?キャーーーー。」
少女はびっくりして飛びのいた。お尻の下にもぞもぞした感覚があれば、誰でも飛びのきます。
「キャーじゃない、キャーじゃ!!人の顔尻に敷いといて。ていうか、なんで空から降ってくんのよ。あんた何も、の…………。」
と顔を上げながら、怒鳴りつけていた日向は、相手の顔を見て硬直しました。
あまりの美しい容姿に言葉を失ってしまったのです。
そして、そんな日向をみて、なぜ固まっているのか?と疑問符を浮かべながら、首をかしげている美少女。なんともかわいらしいその姿にますます固まる日向。
少女は、八ッと謝らなければいけないことを思い出し、勢いよく頭を下げる。
「ごめんなさいですわ。下に人間がいるなんて思わず、落ちてきてしまいましたの。そ、その、お尻で、その、本当にすいませんでしたのですわ。」
何度も頭を下げる少女を見て、日向は覚醒する。
「いや、えっと、べべべ、別に、いい、いいよ。怪我とかしてないし、ハハハ。」
覚醒しているというわけではなかったようだ。壊れたまま、ぎこちない笑みで答えている。そんな日向を見て、
「なんて、良い人間なのでしょうか。あの、何かお詫びに一つだけ願いをかなえて差し上げますわ。」
「願い?」
やっと、本当に日向は目を覚ました。
「えっ、待って。あの、あなたは何者なの?急に空から降ってきて、願いって何なの?」
「あっ、そうでしたわ。自己紹介がまだでした。わたくしは人間界に修行にきた、見習魔女、ルーナ・アルセロワ・エリオンですわ。以後、お見知りおきを。」
唖然と、口をあけている日向。まさに、開いた口がふさがらない状態だ。
「えっ?い、今、なんて言った?魔女?何かの冗談?」
「冗談などではありませんわ。わたくしは、正真正銘の見習魔女ルーナ・アルセロワ・エリオンですわ。」
と、堂々とそう言ってのける自称魔女の美少女。
「あなたは?」
そう聞いてくるので、仕方なく日向も混乱しながら答える。
「わ、私は、芦屋日向。高校一年だけど……。」
「ヒナタさんとおっしゃるのですね。よろしくお願いしますわ。仲良くしましょうですの。」
と、魔女っ子ルーナは手を差し出す。日向は少し躊躇ったが、その手を握った。
「う、うん、こちらこそ。」
そして、手を離す。ルーナは日向を見ながらニコニコしている。その愛らしさに日向は頬が緩みそうになるが、ハッと今の状況を思い出し、ルーナに聞く。
「あっ、それで魔女ってどうゆうこと?魔女って、あの魔女だよね?」
「あの魔女というのがどの魔女か分かりませんが、魔女と呼ばれているのなら、その魔女だと思いますわ。でも、わたくしは見習い魔女ですわ。だから、人間界に降りてきたんですの。」
と平然と変なことを言ってのける。ちなみに日向は見習魔女と聞き、日曜日の朝にやっていた某お〇ゃ魔女を思い浮かべていた。
(この子、何?正気じゃないよね?それとも、ボケているのかな?ツッコむべきなの?いや、それにしても、見た目超可愛いんですけど。もしかして、外人なのかも。あっ、だから、わけのわからないこと言っているのかな。見た目的に中学生くらい?ここは大人な対応しなきゃね。)
「えーっと、ルーナちゃん、だっけ?」
「はい、そうですわ。」
「もしかして、迷子になったのかな?よかったら、家まで送るけど?」
「いいえ、わたくしは迷子になってなどいませんわ。そんなことより、あなたの願いを聞かせてほしいのですわ。ヒナタさんの上に落ちてしまったお詫びをさせてほしいのです。……本当は違法なのですけど。」
と最後のつぶやきは小さく、ひなたには聞こえなかった。
「なんでもいいのですわ。人間のささやかな願いを叶えて差し上げますですの。」
(ささやかって。)
と思いながら、とりあえず何か言えばおとなしくなるだろうと考えた。
「えーっと、じゃあ、こことは別のどこか遠くに行きたい……とか?」
と適当にでも本当に叶ったらいいなという願いを呟いた。ルーナはちょっと考える顔をしたが、すぐに笑顔になり、ふとももに隠し持っていた杖を取り出し、振り上げる。
「分かりましたわ。わたくしがその願いを叶えて差し上げますわ。」
と杖を私の前で、振り回し、呪文みたいな理解できない言葉を呟き始めた。
「ルファルス、フラル、ケナロファルス、ノルカルラス、ライキタカス…………。」
(なんだこれ……。マジで魔法みたいなんですけど……。どーしよ、逃げたくなってきた。でも、なんかこの子泣いちゃいそうだし、相馬でも呼ぼうか。)
そう考え、ルーナを横目に携帯を開いた。
[今、山の上にいるからちょっと来て。]
とても簡潔な文だった。でも、相馬は絶対来てくれる。日向にはそんな確信があった。なんだかんだ言っても、相馬とは付き合いが長く、それなりに信頼しているのだ。
だが、そんな間にもルーナは呪文を唱え続けていた。
「アルファル、ケラミル、ローラル、ルーカス!!」
そして、ルーナは杖を天高く振り上げた。すると、空にぽつんと黒い点が出現し、その点が徐々に広がり、黒い穴となった。まるで、ブラックホールのように。
「な、なな、何、これ?」
ごもっともな質問。それにルーナが答える。
「何って、ヒナタさんの願いを叶えるための穴ですわ。どこか遠い場所、すなわち、魔界への扉を開いてみましたのですわ。」
「ま、魔界!?そ、そんなとこ、本当にあるの?」
「あるもなにも、わたくしは魔界から来ましたし、あるに決まってますわ。それよりも、閉じちゃう前に早く入ってくださいですの。」
そう言いながら、ルーナは日向の背を押す。
「わっ、ちょっと、危ないっ!」
と、急にふわっと日向の身体が浮かび上がりそうになった。
「や、やばいっって。助けて!!」
とルーナに言うが、ルーナは?を浮かべ首をかしげる。
「なぜですの?あなたは遠い場所に行きたいとわたくしに願ったから、叶えて差し上げていますのに。安心してその穴に飛び込んでくださいな。」
「魔界に行くって言われて、安心できるか!!!」
と言ってみたが、ルーナは、
「大丈夫ですの。たぶん、死にはしませんわ。他の何かを失うかもしれませんが…………。」
「全然、大丈夫じゃなーーーーい!!」
最後の叫びを残し、日向は黒い穴に吸い込まれ、消えて行った。
◆
そのころ、相馬は山に向かって自転車をこいでいた。
「たくー、いつもこんなメールばっかなんだよなー。それで行く、俺も俺だけどさ。」
と少し文句を言いながら全力で山へと向かっていた。そして、数分で山のふもとにつき。自転車を置いて山に登る。
「あー、久しぶりかもな、この山に登るのは。いつも日向に来るなって言われるし。あれっ、やっぱ、俺、嫌われてる?」
ちょっと涙目になりながら、山の頂上、日向がいるはずの場所に着いたがそこにいたのは…………
フリフリの服を着て、手には木の棒みたいなものを持っている、超絶綺麗な少女が空を見上げながらそこに立っていた。
あきらかに、日向ではない。日向は絶対、そんな恰好はしないし、何より背が小さい。そして、幼さを漂わせていた。年齢は、12~14歳といったところか。
その美少女は空を見上げたままずっとニコニコしていた。相馬は頭に?を浮かべながらも、日向はどこにいるんだろうとキョロキョロと辺りを見回すが、不思議少女しか見当たらない。
「おっかしいな~、いないのかな?」
と携帯を取り出して、メールを確認してみるが、
「やっぱ、ここだよな。あいつが呼び出して帰るなんてことしねぇだろうし。」
と再び周りを見回す。すると、いつのまにかこっちを見ていた不思議少女と目が合った。距離は少し遠いのにその深い青色の瞳に吸い込まれそうになる。やはり、不思議な少女だと相馬は思う。
なんだか気まずくなってその少女から目をそらし、日向に電話をかけることにした。
何度かけてみても日向が出ることはなかった。
「うーん、マジで何かあったとか?」
と本気で心配になり始めたとき、
「どうかしましたの?」
とすごく可愛らしい声が聞こえた。
「えっ?」
顔をあげると目の前には不思議少女のつぶらな瞳があった。
「うわぁっ!?」
相馬は勢いよく後ろに飛んだ。少女はそんな相馬の行動に首をかしげる。
(か、可愛い……)
間近で見る少女は本当に愛らしく、少しドキドキしながらも相馬は声をかける。
「えっと、何?」
少女は律義にもう一度相馬の前まで来てこう言った。
「何かお困りなのですか?」
「えっ?あっ、えっと、ここにさ、高校生くらいのお姉さんがいなかった?」
「あぁ、ヒナタさんのことですか?」
予想外にさらっと少女は答えた。
「えっ!そうそう。日向を知ってるの?」
「ええ、さきほどまで一緒にいたのですわ。」
(一緒に?日向がこの場所で誰かといるなんてめずらしいな。まぁ、そもそもここにあいつ以外の人がいることが珍しいんだけど。)
「そうなんだ。どこに行ったのかわかるかな?」
「はい。魔界ですわ。」
「………………えっ?」
(今のって、聞き間違いだよな?)
「ご、ごめん。い、今ちょっとよく聞こえなかったんだけど。もう一度言ってくれる?」
「ですから、ヒナタさんは魔界にいますわ。わたくしが送って差し上げたのですの。」
と少女はことも何気に平然と言っている。
(じょ、冗談だよな?最近の子どもの考えることはわからん。普通にこの辺りを探してみるか……。)
「ははは、そっか、ありがとう。じゃあ、俺はこのへんで。」
「あの、ヒナタさんを探しているのでしょう?」
「まぁ、そうだけど。」
「あなたも送って差し上げましょうか?」
少女の瞳はどこまでも真っ直ぐで冗談を言っているようには思えなかったが、それゆえに相馬にはなんだか嫌な予感がしていた。
「い、いや、いいよ。自分で探すから。じゃあな。」
と逃げるように相馬はその場を去り、山を下りた。
(日向はどうしよう?電話も出ないし、とりあえず、メールでもしておこうか。)
相馬は日向にいないみたいだから、帰るとメールで伝えた。ずっと嫌な予感が消えなかったが、それを振り払い相馬は帰っていった。
読んでくださってありがとうございました。この小説は不定期更新となります。
なので、次回はいきなり遅くなってしまうかもしれませんが、お付き合いお願いします。頑張って書いていこうと思います。