第三話 播磨型戦艦の原型
艦政本部ではロンドン海軍軍縮条約の結果、金剛型戦艦について代艦の建造が認められたことで議論が白熱していく。
艦隊派と条約派の軍政をめぐる政争を脇において、金剛代艦としてまとまった案は3つだった。まず用兵側からの要求をまとめると
・28ノット以上の高速
・14インチ砲10門以上
のふたつに集約される
艦政本部がまとめた三案
この要求を受け、艦政本部は複数の検討案を整理し、最終的に三つの案を提示する。
いずれも条約の制限内、標準排水量35,000トンを厳守した設計である。
A案:保守本流案
排水量:35,000トン
主砲:14インチ連装砲 ×5基(計10門)
速力:28ノット
メリット
実績ある連装砲による高い信頼性
技術的リスクが最も低い
デメリット
砲塔数が多く、防御重量が増大
機関配置が制約され、将来的な発展性に乏しい
最も保守的で、最も分かりやすい案であった。外見は、かつて計画された加賀型戦艦を一回り縮小した姿に近い。将来的な拡大の余地小
B案:折衷・主力案
排水量:35,000トン
主砲:14インチ三連装砲 ×4基(計12門)
速力:29ノット
メリット
砲塔基数を抑えつつ、最大の門数を確保
防御区画を短縮でき、その分を速力に振り向けられる
デメリット
三連装主砲に日本海軍としての実績がない
将来的に拡大の余地もあるが16インチ化には相当の無理が必要
C案:高速特化案
排水量:35,000トン
主砲:14インチ三連装砲 ×3基(計9門)
速力:31ノット
メリット
主砲をさらに集約することで高速化を実現
防御区画内は相応の重装甲を確保可能
デメリット
主砲門数が10門を下回る
三連装主砲の実績がない
腹案
将来的に条約破棄された場合全体延長と主砲を1基追加し、16インチ連装4基8門化する余地あり。
以上のような3案が出揃ったが、お気付きのようにA案は保守的、B案は金剛代艦の平賀案デザインXの焼き直し、C案は急逝した藤本案の焼き直しである。
平賀は自身の権威と経験を前に立てて、議論をリードしていき、きわめて日本的な配慮と波風を立たせないという会議室の空気のなかで、B案が採択されることに。
ここで英国から秘密交渉が持ちかけられた。「英国で廃棄する旧式戦艦の15インチ連装砲を1基買い取らないか」という極秘の技術供与案だった。
既に16インチ砲を実用化している日本にとって特に旨味がないと思われるかもしれないが、条約型の排水量制限内で建造する艦にとってエスカレーター条項発動時に拡張する際、旧型の重い16インチを積むよりは新型の軽量高性能15インチも研究すべきだ、という意見が出たことで極秘輸入を決意する。
この騒動は金剛代艦の設計にも大きく影響することになった。用兵側からの将来的な主砲換装要求、特に16インチにこだわる鉄砲屋からの圧力をかわしながらむしろより高性能を目指せるという点にかけてバーベットを拡大し余地を残した設計になった。
もちろん突然の指令に設計局は徹夜続きの大突貫で仕上げることになったが、月月火水木金金の日本海軍においてブラック労働などという言葉は存在すら許されない。重いまぶたをたばこの煙にまみれて擦りながら何とか仕上がってきた設計が、のちの播磨型戦艦である。




