第十六話 播磨型の本領〜第三次ソロモン海戦第二会戦①〜
播磨は美濃、霧島を引き連れショートランド泊地に帰投していた。掃討隊の各艦もはぐれつつも順次帰投してきて、艦隊は威容を取り戻していた。しかしよく見れば大小様々な被弾後が残り、負傷者の後送に追われている。播磨も一見するといつも通りだがよく見れば艦後方のカタパルトとクレーンは無く、右舷側に4基あるはずの高角砲も半分が機能を停止している。そして最大の問題は電探が作動不良を起こしていることだった。機銃弾がケーブル類を直撃したようで、うまく動作しない状態が続いている。応急手当として予備配線を繋ぎ直したものの、作動状況は万全とは言えない。そんな中で駆逐艦への燃料補給と弾薬の再搭載作業が続いていた。
前日被弾炎上し落伍した比叡は帰投しなかった。低速で脱出しようとしたものの夜明けとともにヘンダーソン飛行場からの航空攻撃で舵を損傷し、とどめを刺されるように潜水艦に雷撃を受けたのだ。夕暮れ時には生還を諦めて自沈処分となった。生存者は駆逐艦に収容されて遅れてショートランド泊地に戻ってくることができた。
艦隊の雰囲気は士気も高く、昨夜の大戦果に大いに沸いていた。初めての艦隊決戦で敵巡洋艦隊を粉砕し、それぞれ複数の敵艦撃沈の手応えを感じていた。連合艦隊司令部は昨夜の大戦果を受けて、もはや飛行場砲撃への障害は取り除かれたと判断し、再度の突入命令が下された。増援として前日空母隼鷹の直衛として後方支援に当たっていた重巡愛宕、高雄が編入された。
編制は以下の通り
主隊
戦艦 播磨(旗艦)、美濃、霧島
重巡 愛宕 高雄
駆逐艦 照月
掃討隊
軽巡
長良 川内
駆逐艦
電、五月雨
白雪、初雪
浦波、敷波、綾波
朝雲
播磨艦橋の司令部では電探の修復状況に一抹の不安を持ちつつも、帝国海軍伝統の夜戦にてその真価を発揮できたという自信にかき消されている。
十四日夕刻、出撃時刻。各艦は再び錨を揚げ、機関が唸りを上げて出港していく。いつものように高速で突入し、深夜に飛行場を打ち砕いて夜明け前に帰ってくるのが任務である。突然の遭遇となった反省を生かして掃討隊の駆逐艦を前に出し、本隊を守りながらガ島沖に侵入する陣形で進んでいく。二列縦隊で長良、川内がそれぞれ先頭で以下駆逐艦が続く。本隊は単縦陣で照月先頭に播磨以下戦艦、重巡と続く。
正面左にサボ島がぼんやりと見えてくる。月はもう落ちた。時刻は20時前である。ここまでは順調に来た。落伍艦も出すこともなく、隊形を維持したまま突入態勢である。目の前に行く照月、その向こうに見える駆逐艦の艦尾が見えている。前方掃討隊のなかで若干隊列の混乱があったようだが大したことはないようだ。サボ島西から侵入する主隊と長良以下、サボ島東から先行警戒にあたる川内、浦波、敷波、綾波の4隻と二手に分かれて警戒してくれている。
21時半頃、島の向こうから砲声が聞こえてきた。同時に川内から「敵戦艦2、駆逐艦4を発見、交戦中」と報告が上がってくる。空に発砲炎が反射して光っているのが見える。いよいよ敵戦艦のお出ましである。真珠湾であらかた旧式艦は沈めたことから出てきたのは播磨と同世代の条約型戦艦だろう。つまり戦力は互角、退く理由はない。ここで敵戦艦と雌雄を決すると全艦に告げると歓声が上がった。戦艦乗組となった日から、帝国海軍軍人として待ち望んだ瞬間である。
速力30ノットに増速し、サボ島を左に見ながら駆け抜ける。主砲は徹甲弾装填済み、主砲左砲戦を命ずる。右に旋回して島影から出現する米艦隊と同航戦の姿勢。4基12門の38センチ砲が鎌首をもたげ、破滅をもたらすべく狙いを定めている。
21時55分、いよいよ敵戦艦の姿をとらえた。昨夜の反省から敵味方の識別のために播磨、美濃、霧島に探照灯照射を命じた。探照灯を点灯させている戦艦=味方、付けていない艦は敵艦、と事前に水雷戦隊にも通告済みである。光のなかに浮かび上がった敵戦艦は川内の通報通り2隻。先頭艦は主砲の門数が多く見える。4連装砲か。敵2番艦は3連装砲を3基備え塔型の艦橋、籠マストではない。新型だ。先頭をノースカロライナ型、2番艦をサウスダコタ型と識別。
「主砲、撃ち方始め」の号令とともに主砲が発砲する。同時に敵艦の主砲が光った。ほぼ同時の発砲。敵艦手前に弾着。即座に修正の号令を砲術長が出している。
敵初弾がくる。右舷側に水柱がたつ。まだ遠い。
第2射発砲、ノースカロライナ型の装填が早い。こちらはだいたい30秒で装填完了するが向こうは25秒ほどだ。2番艦サウスダコタの狙いはこちらの2番艦美濃のよう。
こちらの砲弾が命中。破片が宙に舞う姿が見える。敵弾は外れた。練度もこちらが上。
第3射、互いに1発命中。船体に当たった。後方の非防御区画だ。敵艦中央にも命中。艦内にその様子を中継してやるとまた歓声が上がる。報告にあった敵駆逐艦がいない。回り込まれては困る。警戒を重巡に命じながら砲撃続行。
第4、第5射、互いに2発ずつ命中。艦が激しく揺れる。電探室からの報告が来ない。応急手当のケーブルでは持たなかったか。敵ノースカロライナ型の後部砲塔に命中、天蓋が飛ぶのが見えた。手応えあり。砲撃戦は武士の切合の様相を呈しながら続く。
少し時間を巻き戻して軽巡川内、駆逐艦浦波、敷波、綾波の4隻の警戒隊は21時20分過ぎ、前方に単縦陣で横切る艦影を捕捉、一瞬本隊かと疑ったが米艦隊と判断し増速、右に転舵。。左砲雷撃戦を命じ、サボ島南を東に抜けながら同航戦を仕掛ける。敵からの砲撃はまだない。先制を取った。
先頭の敵駆逐艦にパッと火の手が上がる。ようやく向こうも応射してきた。川内に火災が起こるが全艦撃ち続けながら魚雷発射。敵駆逐艦2番艦が水柱とともにガクッと行き足が止まる。魚雷命中!残る2隻も我が4隻の袋叩きで次々と炎上していく。綾波が炎上して穴だらけになっているが敵前衛の駆逐艦4隻をみごと葬った。
サボ島南の戦艦対戦艦の殴り合いはいよいよ決着の時を迎えつつある。




