第十五話 鉄底海峡~第三次ソロモン海戦第一会戦~
ガダルカナル島をめぐる戦いは一進一退の攻防戦が続いていた。両軍ともに増援を送り込み、増強するが均衡が崩せない状況が続く。日本側には増援が送るための条件が厳しかった。つまりヘンダーソン飛行場の陸上機、エスピリトゥサント島からのB-17と二重の敵に昼間は制空権を握られ、ラバウルからの長距離制空戦を挑んでもなかなか抑えきれない、という状況が続いていた。この制空権をとらない限り昼間にガ島接近と大規模揚陸は不可能だという現状を打破するには、戦闘機の大量投入か、夜間に艦砲射撃でヘンダーソン飛行場を破壊して翌日日中の航空作戦能力を奪うことの2つに1つしかなかった。そして夜間艦砲射撃のためには夕刻に米軍航空攻撃圏に突入して一定時間砲撃し、夜明けまでに圏外へ離脱できる高速性と砲撃力の両立が求められる。
十一月十四日を目標に陸軍第三十八師団のガダルカナル島投入が決定される。ということは前日深夜にヘンダーソン飛行場を無力化する必要があるということで、連合艦隊は南太平洋海戦で米空母を無力化したという判断のもと戦艦による夜間飛行場砲撃を決断する。使える高速戦艦と水雷戦隊ガ島砲撃隊を編成することになった。編成は以下の通り
ガダルカナル島砲撃部隊
戦艦4
播磨 美濃 比叡 霧島
軽巡1
長良
駆逐艦14
暁 雷 電
天津風 雪風
照月 朝雲
村雨 五月雨 夕立 春雨
時雨 白露 夕暮
十三日日中にラバウルから陸攻と零戦による空爆がガダルカナル島に対して行われたものの攻撃は不発に終わり、ヘンダーソン飛行場は依然その作戦能力を維持していると思われている。艦隊は前衛に村雨、五月雨、夕立、春雨を横列に並べ、南側に戦艦の単縦陣、北側に長良以下の駆逐艦10が続く陣形で南下していく。いよいよガダルカナル島にむけて突入する体勢である。
播磨艦橋では後方に続く美濃、比叡、霧島が見えている。先ほどの猛烈なスコールで速力を落とし調整したが、視界が回復しないので戦艦以外の所在は分からなくなってしまった。予定より遅れているがガ島砲撃に問題はない。懐中時計は10時40分を指している。「艦長、間もなく予定海域に侵入します」と報告の声に頷いた。電探室から悲鳴のような報告が入る。前方に複数の反応があるらしい。おそらくスコールで離れた長良以下だろう。艦橋要員には楽観的な雰囲気が流れていた。
夕立から敵艦発見の報告、なんてことだ、電探反応は敵艦隊か!右舷前方に発砲炎が見える。こちらの主砲には飛行場砲撃用の三式弾が装填してあるが、もはや敵は目の前、弾種を切り替える時間はない。探照灯照射を命じたが、後方比叡からも照射が始まった。敵艦隊は巡洋艦主体のようだ。左回頭、右砲戦を命じる。38センチ3連装砲12門の主砲が轟音とともに砲弾を打ち出した。仰角ほぼなし、外すはずのない至近距離での遭遇だ。敵巡洋艦に初弾命中、三式弾の炸裂で火災が起こったようだ。左舷後方から味方水雷戦隊が増速して突入態勢を取っている。
探照灯を照らしていることで敵巡洋艦の砲弾が盛んに飛んでくる。右舷側にはひっきりなしに鈍い金属音と爆発音が響いている。心臓に悪い。被害報告が次々と上がってくる。高角砲、機銃は相当やられている。それでも主砲は健在、敵巡洋艦を痛打し続けている。4斉射、5斉射、ここから徹甲弾に切り替わる。炎上する敵巡洋艦から目標を2番艦に変更し射撃、播磨の本領発揮である。敵2番艦も2斉射を浴びせたところで沈黙させた。後方を振り返ると赤々と燃え上がっている艦が見える。比叡だ。やはり探照灯を点灯させると集中砲火を浴びるのだ。我が艦も後部カタパルトが損壊し火災が発生している。主砲は引き続き吠える。美濃、比叡、霧島も主砲は衰えていない。
もはや陣形などない。辛うじて戦艦隊は縦列を保っているが、水雷戦隊は散り散りになってしまったようだ。船を見つけてもまず敵か、味方かを判別しなければならないため主砲の発砲頻度はどんどん下がっていく。しかし敵弾は変わらず飛んでくる。このサイズの船はわが軍にしかあり得ないという断定で撃ってきているのだろう。あちこちに火を噴いている艦が見え、煙幕と火災で視界も悪化していく。
炎上し沈黙した敵巡洋艦の横をすり抜けて前に出た直後、その陰から駆逐艦が飛び出してきた。本艦の主砲は反対舷を向いている。
敵か、味方か。
主砲が単装だ。
敵。
間に合わない。高角砲がまばらに発砲するが当たらない。
駆逐艦の魚雷発射管が見える。
向こうも驚いたのか、まだ旋回中だ。すれ違った。こちらは大丈夫だろう。
あっという間にすれ違って後方に離れる敵駆逐艦から魚雷が発射されるのが見えた。燃えている比叡がターゲットのようだ。水柱が比叡の左舷に上がる。やられた。
しかし比叡にかまう余裕もない。火災を鎮火作業させながら砲撃戦は続く。このままガ島沖で飛行場砲撃はもはや不可能なことは明白。戦艦隊は反転、サボ島北から撤退を指示する。しかし敵艦はまだまだいる。友軍の所在もよくわからないままだ。主砲も打ち続けている。駆逐艦に主砲を浴びせて沈黙させた。
混乱した状態のままサボ島沖北西で集合をかけると各艦集まってきた。傷ついた艦も多いが、大戦果である。サボ島沖夜戦で重巡隊が敗北したと聞いたときはわが軍の夜戦優位を一瞬疑ったが、やはり夜戦で強いと自信を深めた。集計すると少なくとも重巡5隻、軽巡3隻、駆逐艦5隻を撃沈し敵戦力殲滅に成功、わがほうの損害は暁、夕立が沈没、比叡は電源喪失し炎上中、何とか自力航行できるが10ノットどまりの中破。わが播磨も多少敵弾を受け右舷高角砲が3基使用不可となり後部カタパルト、クレーンが全損となったが戦闘航海に支障はない。ほかの艦も何かしらの敵弾を浴びており、機銃弾を浴びていない艦などなかった。比叡を置いてひとまず艦隊は敵空襲圏外に離脱を目指した。
なにより実戦で、しかも戦闘艦相手に戦艦ここにありと、新鋭戦艦の実力を存分に発揮できたことは我が艦の自信を深めた。第一斉射で敵軽巡を火だるまにし、重巡も徹甲弾で沈めることもできた。この戦争における戦艦の勲功一番乗りである。美濃も敵重巡を撃沈し、第四戦隊は新参ながら最大武功を挙げた戦艦としての誇りに満ちていた。




