第十三話 ミッドウェー海戦
播磨、美濃の初実戦となった珊瑚海海戦の2週間前、昭和十七年四月十八日、突如B-25中型爆撃機が空母より発進し帝都を襲った。戦局を優位に進めるなかで許した奇襲に世論は沸騰、軍令部も米空母のヒットアンドアウェイ作戦を脅威に見て、米空母撃滅のための作戦を立案した。ミッドウェー作戦である。ミッドウェー島に攻略部隊を差し向けることで米空母を釣り出し、殲滅しようとする作戦であった。決行は6月上旬とされ、珊瑚海海戦から帰還したばかりの第四戦隊も機動部隊直衛に当たることに。真珠湾、インド洋、珊瑚海海戦と無敵の山口機動部隊が今度はミッドウェーに向かって出撃していく。
珊瑚海海戦を播磨、美濃とともに戦った翔鶴瑞鶴は艦載機の消耗が激しいことから再建のために内地でとどめ置かれることになった。
ミッドウェー出撃時機動部隊編成
山口多聞中将指揮
空母4
赤城(旗艦)、加賀、蒼龍、飛龍
戦艦6
播磨、美濃、金剛、榛名、比叡、霧島
重巡2
利根、筑摩
軽巡1
長良
駆逐艦10
ミッドウェー島攻撃圏内に踏み込んだ機動部隊。播磨艦橋トップの防空指揮所では見張りが目を皿にして敵機を探す。真横の空母飛龍からミッドウェー島に向けて早朝から攻撃隊が発艦していった。銀翼が空へ消えていくと同時に、珊瑚海でも見た憎いB-17が入れ違いで現れ、高高度から悠々とこちらを監視している。美濃が高角砲を撃つ姿が見えるが、当然当たらない。
誘蛾灯に呼び寄せられる蛾たちのようにB-17に引き寄せられて敵機が襲ってきた。艦橋から後方を振り返れば両舷4基ずつの12.7cm高角砲が火を吹き続け、珊瑚海以上に甲板に薬莢の山を作っていく。
珊瑚海で翔鶴に爆撃を許した反省から徹底して空母上空に弾幕を張ることを重視し、撃墜よりも爆撃阻止に重点を置くが、四方八方から五月雨式に襲い来る米軍機に対して幾分飽和気味である。
ミッドウェーへの第二次攻撃隊の準備中に、第一次攻撃隊から、「第二次攻撃ノ要アリ」という電文が届いた。播磨、美濃は金剛型とともにひたすら空母上空に弾幕を提供し続けることが仕事である。
焼けた砲身に水をかけ冷やしている空襲の一瞬の合間、空母が攻撃隊を発艦させ始めた。
5分、10分、15分、発艦のために直進する空母の横でジリジリと時計とにらめっこが続く。いつまた敵機が襲ってくるか。
来た!B-17の低空侵入編隊。戦艦6隻の高角砲が弾幕を張る。それを無視して突っ込んでくるB-17。胴体が開く。爆弾がバラバラと振ってくる。どうやら狙いをこちらに切り替えたらしい。
「取舵いっぱい!」艦橋に声が響く。艦が一瞬のタイムラグのあと、左に向きを変えながら遠心力で右に傾く。
衝撃、閃光、爆風
艦橋後部、左舷側に被弾。火災発生。
艦橋基部に大きなダメージ。
振り返ると空母加賀が燃え上がっている。どうやら同じように被弾したようだ。甲板にまだ残っていた97艦攻が誘爆している。艦後部は火の海だ。
誰かがつぶやく。「空母ってあんなにでかいのに燃えるのは一瞬なのか…」加賀は行き足も衰えだしたのか艦首の航行波が小さく見える。
しかし空には先ほど4空母が送り出した味方機が東に消えていく。生き延びた3空母の甲板にはまた艦載機が並べられていっている。第三次攻撃隊は敵艦隊に向かわせるのだろう。
再び敵機が現れた。今度は艦載機だ。高角砲、機銃で応射する。直掩の零戦隊が必死に追いすがり次々と落としていく。特に加賀隊は母艦を失った仇討とばかりに必死の防空戦を見せる。次々と追い散らしていく零戦隊。バスデーターを追って低空に降りておく。圧倒的防空能力である。バタバタと敵機が落ちていく。
「空母上空!敵機急降下!!」
艦隊の目は零戦隊に蹴散らされる雷撃機に集まりすぎていた。その隙をついて高度を取って侵入してきた急降下爆撃機。まばらに対空砲が弾幕を張るが間に合わない。
一瞬の隙を突かれ赤城、蒼龍に爆撃機が殺到。赤城は至近弾のみで回避したようだが、蒼龍はその船体を煙に包まれて爆煙を吐き出すだけの存在となってしまった。
それを境に空襲は一段落したようで、のこった赤城、飛龍から再び攻撃隊が飛び立っていく。播磨艦内では、何とか消火に成功したものの、負傷者の移送や応急手当に追われている。高角砲も2基が損壊し、対空火力も低下しているが戦艦としての機能に支障はない。被弾炎上中の空母を駆逐艦とともに残して赤城、飛龍とともに戦艦6隻が突き進む。
夕刻に差し掛かる14時過ぎ、再び東の空から敵機が現れた。先ほどよりも機数はずっと少ない。護衛対象が減った分濃密な弾幕と零戦隊が阻止に動いたものの、低くなった夕陽を背に決死の突撃を仕掛けてきた艦爆に突入を許してしまった。飛龍が被弾し、前方のエレベーターがめくれ上がって艦橋前部に立てかかっている惨状だが、艦載機を使い果たし燃料ものこっていないことが幸いして自力航行は可能のようである。
どうやら我が攻撃隊は敵空母を2隻撃破したらしい、という報告を受けたがそれ以上に、最強と頼んだ空母があっけなく炎上して戦闘能力を喪失する姿を眼前にしたことは大きな衝撃だった。加賀、蒼龍はもはや手を付けられない状態で、駆逐艦によって雷撃処分され海中へと沈んでいった。
またもや戦果の見えない、友軍の被害のみが目の前で出現する戦いで、美濃は無事だったものの播磨は敵の1000lb爆弾を一発被弾した。この経験はこれまでワンサイドゲームのみで楽観とした艦内の空気を一変させ、激戦の渦中へと、ますます厳しい戦場を予感させるものだった
ミッドウェー海戦
日本側損失
沈没 加賀、蒼龍
中破 飛龍
航空機120機
米側損失
沈没 ホーネット
大破 エンタープライズ
航空機168機




