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第十一話 日米開戦への道

 昭和十五年十一月、呉の港に、新たな艦影が静かに滑り込んだ。長崎三菱造船所にて建造された播磨型戦艦二番艦「美濃」である。度重なる設計修正と装備更新を経て、ついに竣工の日を迎えた。遠目には播磨と見分けがつかない。細く伸びた艦首、前甲板に並ぶ二基の三連装主砲、塔型艦橋、湾曲した煙突、そして艦尾に構えた後部主砲群。

 だが、近づくほどに違いは明確になっていく。対空兵装は配置の見直しと、増設を前提とした余地が確保され、艦内の動線も改良されている。主砲は播磨と同じ、十五インチ三連装砲四基十二門。

 美濃の就役と同時に、艦隊編成が改められる。

第四戦隊。

旗艦:播磨

僚艦:美濃

高速戦艦二隻による新編成。

 金剛型に代わる、新世代の高速戦艦。機動部隊と速度を合わせ、空からの脅威に備え、必要とあらば水上戦闘にも参加する。

播磨、美濃の艦内には、静かな緊張と期待が満ちていた。

二隻揃って初めて、この艦型は本来の役割を果たす。だが、その完成を祝う時間は長く続かなかった。

 昭和十五年、欧州では戦争が急速に拡大する。ドイツ軍はポーランドを瞬く間に降伏させ、返す刀で電撃戦によってフランスを打ち破り、欧州の勢力図は一変した。

 この瞬間、ワシントン・ロンドン海軍軍縮条約は、事実上その効力を失った。条約は平時を前提とした制度だった。戦争が全面化した世界において、もはや現実的な拘束力を持ち得ない。英国は生存のために建艦を急ぎ、米国は中立を保ちつつも海軍力の増強に踏み切る。フランスは敗北によって、その前提条件を失った。

 日本もまた、同じ現実に直面していた。もはや条約など破棄されたも同然で、効力を主張することはできない。

 その象徴が、金剛型戦艦の現役復帰である。播磨型の完成とともに退役し練習艦となるはずだった旧式艦である。しかし高速で、扱いやすく、即応性が高い。

なにより、今すぐ使える。

金剛は練習戦艦から戦艦へと艦種変更されて再武装化の工事に入った。榛名も美濃竣工に伴う退役予定がキャンセルされ、整備にドック入り。現役の比叡霧島と共に第三戦隊を編成した彼女は再び第一線に呼び戻され、

 播磨型と並び立つ、あるいは後方から支える役割を担うことになる。

「新しい艦が足りなければ、古い艦を使うしかない」

それは、戦時下ではあまりにも自然な判断だった。一方、アジア情勢は静かに、しかし確実に悪化していた。

 中国戦線は依然として終わりが見えず、補給と治安維持に膨大な資源が吸い取られていく。正面では中国軍を打ち破り続けても、英米の隠れた補給によって中国軍は何とか持ちこたえている。

 昭和十六年、日本は決断する。フランスの降伏によって帰属が宙に浮いた南部仏印進駐である。

 名目は治安維持と援蒋ルート遮断。中国への支援物資の息の根を止めなければ中国の戦争を終わらせることはできないからだ。

 だが列強、とりわけ米国は、それを明確な南進政策と受け取った。米国の反応は、迅速かつ苛烈だった。

対日資産凍結。

石油輸出の全面停止。

 それは外交的圧力ではない。もはや難癖である。日本への対抗心、妨害の意図、野心を隠さず露骨に圧力をかけ無茶な要求を強める米国。

海軍省、参謀本部、大本営。

連日の会議で、同じ問いが繰り返される。

「備蓄は、どれほど持つ」

「一年か、半年か」

 数字が並び、沈黙が落ちる。交渉で解決できるか。それとも、動くしかないのか。選択肢は、急速に狭まっていった。第四戦隊もまたその渦中で、播磨、美濃は、連日の訓練と警戒航行に投入される。

 空母部隊との合同演習、対空戦闘訓練、夜戦演習。

 播磨の艦橋で、若い士官が呟く。「欧州の戦争は、向こうの話だと思っていました」

それを聞いた美濃の副長は、短く答えた。「戦争は、隣に来るまで遠いものだ」

昭和十六年十一月。

 ついに、日本は対米開戦を決意、北太平洋に展開する山口多聞率いる第一航空艦隊に「ニイタカヤマノボレ」の暗号電が送信された。第一航空艦隊はハワイ北方より真珠湾を奇襲し米艦隊を一掃するべく秘密裏に侵攻する。世界初の空母打撃群である。

第一航空艦隊

空母

赤城(旗艦)加賀

蒼龍、飛龍

翔鶴、瑞鶴

戦艦

霧島、比叡


 第四戦隊は南遣艦隊(小沢中将指揮)に組み込まれ、マレー攻略作戦支援にあたることになった。旗艦は重巡愛宕に置かれ、後方に付き従う新鋭播磨型の2隻。

 いよいよ対米戦の火蓋が切って落とされた。

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