エピローグ ソロモンの海
夜は、重かった。
星は出ていない。
月もない。
ただ、黒い海と、黒い空が溶け合っている。
その闇を、二つの影が切り裂いていた。
戦艦 播磨。
戦艦 美濃。
二隻は縦に並び、後方に戦艦霧島を従えてあたかも一つの巨大な獣のように、静かに、しかし確実に、ガ島沖へ迫っていた。
「距離一万七千」
美濃艦橋。
電探員の声は抑えられているが、
その奥にある緊張は隠せない。
「敵戦艦らしき艦、二。」
誰も驚かない。
分かっていたことだ。
この夜
ここに来る艦は、撃ち合う覚悟を持った者だけだ。播磨艦橋では、艦長が夜の海を見つめていた。
目では、何も見えない。
だが、この艦はもう、
目で戦う艦ではなかった。
「電探、目標更新」
「方位一八五、距離一万四千」
その言葉は、
確認ではない。
宣告だった。
次の瞬間、
「主砲右砲戦、撃ち方、始め」
夜が裂けた。
播磨の主砲が、
4基12門の38センチ砲、一斉に火を噴く。
遅れて、美濃も応じる。
砲声は、
雷ではない。
地鳴りでもない。
これは、海そのものが壊れる音だ。
水柱が立つ。
その向こうで、
米戦艦の影が水柱の中に揺れる。
「命中……!」
美濃艦橋に、
一瞬だけ声が走る。
だが、誰も喜ばない。
米戦艦の砲撃が、
闇を切り返す。
巨大な閃光。
衝撃。
播磨の艦体が、
横から殴られたように震える。
「至近弾!」
「装甲、無事!」
艦長は、
短く頷く。
耐えた。
それだけでいい。
美濃は、
機関を震わせ
30ノットを絞り出して
さらに前へ出る。
夜は、
まだ日本側にあった。
米艦隊は、
だが、逃げてはいない。
海が光る
艦が激しく揺れる
「右舷高角砲被弾!損壊!」
まだ戦える
主砲が再び吠える
「敵戦艦に命中!」
闇が、再び閉じる。
砲声が止み、
ただ波の音だけが残る。
二隻は、
ゆっくりと進路を変えた。
その夜、
播磨と美濃は沈まなかった。
勝ったとも言えない。
だが、
この海で、最も危険な存在として、
確かにそこにあった。
そして、
この夜が示した可能性は、
後にこう評されることになる。
「戦艦は、
条件さえ揃えば、
まだ戦争を揺らし得た」
だが同時に、
こうも付け加えられる。
「その条件は、
二度と揃わなかった」
夜は、
やがて明ける。
そして物語は、
この二隻がなぜ存在したのかへと、
時間を巻き戻す。
カクヨムでも連載中
https://kakuyomu.jp/works/822139843896536034




