まどろみオペラ
こんにちは
ソーダ茶です
こちら現在2026年 1月21日おやつ時の15時03分ごろよりお送りしています
今回は「お菓子」をテーマにした短編の4つの案のうちの1つ、『まどろみオペラ』をお届けします
一応、計画としては全4編(今の案のうち)で他に『桜のチョコレート』、『ゆらゆらシフォン』、『秋雨のカステラ』(タイトル名)を予定しています
拙いですが、楽しんでいただけたらと思います
「お前のこと待ってたんですけど」
我が幼馴染みのふてくされた低い、圧を含んだ響きが私の耳に落ちる
やってしまった
ノート上でうたた寝から目覚めたとき終わったと思った
目の前のアナログ置時計は今も忙しなく針を進めている
短い針も長い針も私の予期しなかった目盛りに堂々と鎮座している
電話、そうだスマホ
急いでスマホを手に取りロックを解除する
着信履歴へ移動する
同一人物の名前からの夥しい着信履歴が表示された
タップして、すぐに折り返しのコールをする
ワンコールで出た
「お前のこと待ってたんですけど。…快眠でしたか?」
まずい、非常にまずい
皮肉を多分に含んだ低音がスマホから放たれる
「すっ、スミマセン。寝落ちしてしまい、マシタぁ…!」
暫しの沈黙が両空間を支配する
「…はぁ、…わかってましたよ。そんなことだろうと思ってましたよ。えぇ」
投げやりな言い方をわざとしてくれている
彼の思いやりの形だ
私はそれをずっと前から知っている
「今からそちらに向かわせていただくことは、可能で、ショウカ?」
外も暗いのでお伺いを立てる
「えぇ、構いませんよ」
「直ちに、そちらへ、向かわせていただきマス!」
「ハーイ、どうぞ。近所だけど暗いんだから、気をつけて来てよね」
「はい!」
「準備始めとくから、ゆっくり来なよ。…転けたりしないように!わかりました?」
私の質を配慮する圧が勝り始める
「承知しましたァ!」
「…じゃあ、後でね」
すぐに通話の切れた音がした
本当にやらかしたな
というのも、今回の約束を取りつけた張本人は私だったからだ
自分から約束を取りつけておきながら寝落ちで遅刻とか、面目ないどころでは済まされない
転けるなとは言われたが、急ぐに越したことはない
手早く手櫛で髪を解かし、ハンガーからコートをかっさらう
マフラーは、いいか。多分走るしね
自室の扉を少し乱暴に開け、階段を駆け下りる
急がねば
今日は雪も雨も降ってないけど、それなりに寒い。冬なんだからしかたない
走っていたら寒さを感じる間もなかった
自分の息が上がって行くのを感じながら足を進めた
こんなに息が上がった状態で人のお宅のインターホンを押す光景は傍から見たら不審に映ってもなんらおかしくないな
そんなことを考えつつボタンを押す
まだ、息が整わない。ばれるんだろうとは思う。それでも、遅刻の罪は変わらない
「…ハイ」
「小波です、来ました!」
「今開ける」
ちゃんと確認するあたりがやっぱりしっかり者だなと思う
ドアの開く音がガチャ、と音を立てた
「こっ、この度は…」
「入って」
続く前に遮られる
「あ、ハイ…お邪魔します」
「ドーゾ」
明るい玄関からリビングへ誘導される
「荷物も席も、どこでもドーゾ」
「失礼します…」
部屋のドアに一番近い椅子に席をおき、左下に手荷物の鞄を置くことにした
「コート、そこのハンガーにかけていいから」
「あ、はい。お借りします」
謝罪の隙が、ない
上がる前に逃したら、いつするのがいいんだ
どこだ、どのタイミングだ
「手洗いしたら、こっち来てよね」
「キッチン?」
「そう」
手をくまなく洗っていても落ち着かない
最適解を持たぬままキッチンにお邪魔する
「飲み物、チョコレートミルクにするけど、チョコレートどれくらいがいい?」
オペラを食べようの会、だったよね?
「え、えっと。食べるケーキ、オペラで合ってますかね?」
「…は、合ってますよ?まだ眠い?」
合ってる、私何か忘れてる?
「ごめん、理由とかって…ある感じですかね」
「…ハイ、ありますよ」
きっと私が何か言ったに違いないのに、思い出せない
「今日は何の日ですか?」
今日、…バレンタイン?
「バレンタインデー、ですかね」
「はい」
え、それが?なんだ
「お前が言ったんでしょ、本当に覚えてないわけ?」
「…ハイ、すみません」
「チョコレート」
?
「お前が、チョコレートに溺れたいとか言うから」
私そんなこと言ってたんだ
「バレンタインにひとりは寂しいだとか、友達いなくて一緒にチョコレート食べてくれるの俺しかいないとか言うから」
え?そんなに赤裸々にバレンタインを語ってたの?私が?
「…確かに、チョコレートに溺れたいとは、言った…かも、しれないです」
「…になった?」
?
「な、何?」
「やになった?」
「何が?」
「俺とチョコレート」
何を言ってるんだろう
「そんなわけ、楽しみだった、デス…」
「…そ」
「うん」
まずい、なんか怒ってるんじゃなくて悲しそうな気が、しないでもない…
「えぇっと、私何も嫌になんてなってない、…よ?」
ちょっと間が長いな
「…かと、思った」
?
「っお前が!…誰かに告白、…とかされて、俺との約束、…なかったことにされたんじゃ、ないかと…思った!」
え?
「ないよ!」
「…だってお前!メッセも電話も全然返ってこないから、…さぁ」
!
あぁ、私が寝過ごしたばっかりに
「っご、ごめんなさい。本当に、この度は!」
「ほんとだよ。あんなに!スタ連も、鬼電もしたのに!…普段レス早いくせにさぁ…!」
「ごめんって、嬉しいよ。一緒にチョコレート」
「…!あっそ、…ソーデスカ」
「チョコレートミルク、甘さおまかせしてもいい?」
「激甘にしといてあげる」
「え?あんまり甘すぎるのは…ちょっと」
「何?おまかせでしょ?」
「っハイ」
「よし」
どうやら元気は戻ったみたいだ
ひと安心、うんうん
「オペラ、冷蔵庫だから。お皿に出しといて」
「はーい」
冷蔵庫、失礼しまーす
…?おや、おっと?
「ねぇ、…このオペラって」
「お前の幼馴染みの手作りですけど?なんか文句でもあるんですか?」
覗いた横顔が少しふくれているように見える
「いや、そうじゃなくて…」
「じゃあ、なに?」
「ふふ…!」
やばい、口角が暴れて止まってくれない
「!?、…は?何笑ってんの?」
わかんないか
「ふふ!っごめん、嬉しくて!」
驚いた瞳が私を射止める
「っあぁ!良かったね!?こんなに優しい幼馴染みがいてくれて!!」
ほわほわ、ふわふわしてるみたいな頬が赤くって、すっごく美味しそう
とっても、かわいい
「うん!ありがと!」
嬉しい
楽しい
君とチョコレート
「っていうか、ガンダで来たでしょ?」
「えっ、そんな、ことは…早歩きですよ、早歩き」
「…迎えに行けばよかった」
本当にかわいいね、私のチョコレート
甘くて溶けそう!
〈END〉
閲覧ありがとうございます
楽しんでいただけたのなら幸いです
それでは




