最終話 進路室で誓う、二人の未来
三月。
吉備高原に、春の匂いが戻ってきた。
桜のつぼみはまだ固いのに、
二人の未来はすでに色づき始めている。
「ねぇ櫻。将来、何になりたい?」
アネモネが訊いたのは、
いつもより少し真剣な声。
「私……まだ分からないけど、
英語が好きになれたのはアネモネのおかげ」
「私の?」
「うん。アネモネの国の言葉、知りたい」
「もっと近づきたいから」
アネモネは耳の先まで赤くなる。
「じゃあ……
同じ大学、目指す?」
「え?」
「一緒に住んで、
一緒にご飯食べて、
一緒に眠って……
一緒に朝を迎える」
「夫婦生活みたいだね」
「疑似じゃなくて、
本物になりたい」
櫻の呼吸が止まった。
「櫻はどんな家に住みたい?」
「うーん……静かで、陽当たりがよくて……
アネモネが好きな海に近くて」
「櫻が先に疲れて帰ってきたら、
私が抱きしめる」
「じゃあアネモネが泣いた日は、
私が抱きしめる」
「……どっちも嬉しい」
将来の形を描きながら、
櫻は気づく。
「進路希望にはっきり書く。
“アネモネと同じ道へ”って」
「それ職員室ざわつかない?」
「ざわついてくれていいよ。
だって本気だもん」
アネモネは手を伸ばし、
櫻の指輪に触れる。
「なら私も。
櫻と同じ道を選ぶ」
「離れない?」
「うん。
未来まで繋がってたい」
その瞬間、
櫻はアネモネのことを
「運命」だと確信した。
「櫻、目閉じて」
「また?」
「うん。未来を信じる儀式」
櫻がそっと閉じると、
アネモネは唇を櫻の額に落とした。
ふわりと温かい音。
「これ、来年もする。
再来年も。
大学生になっても」
「じゃあ……キスの場所、増やしてもいい?」
「……どこに?」
櫻はアネモネの手の甲へ
ちいさく口づけた。
「これは、“ずっと一緒”のサイン」
「櫻……ずるい」
言いながら、アネモネも
櫻の指先にそっとキスを落とす。
「これは、“あなたしかいらない”の印」
指先が触れあうたび、
愛情が言葉より深く響く。
「来年も、再来年も、
私の隣は櫻」
「もちろん。
私の隣はアネモネ」
「櫻」
「うん?」
アネモネは布団をそっと持ち上げ、
櫻をやわらかく引き寄せる。
「ぎゅーってして。
大好きが全部伝わるくらい」
「任せて」
二人は抱き合ったまま眠りにつく。
指輪と指輪が触れ合う音だけが、
夜の静けさに溶けていった。
一年の終わりは、
二人の未来の始まりだった。
この恋は、
呼ばなくても恋人以上。
この愛は、
証明しなくても永遠。
二人は同じ夢を見た。
同じ未来へ歩む夢を。
――そして、二年生へ。
手を離さずに。




