第20話 真実の告白
週の半ば。
いつもの教室、いつもの席――なのに。
アネモネが上の空だという違和感は、
もう誤魔化せないほど大きくなっていた。
「アネモネ、ほんとに何もない?」
「ないよ。櫻の前では笑っていたい」
「全部見たいって言ったじゃん」
櫻が触れようとすると、
アネモネは少しだけ手を引いた。
「櫻は……優しすぎる」
「それが嫌?」
「嫌じゃない。
好きすぎて、苦しいの」
「ねぇ、櫻」
「なに?」
「手、繋いで。強く」
繋いだ指が震えている。
「怖いの。
櫻を好きでいる未来ほど、怖いものはない」
「なんで?」
「失うから。
いつか絶対に、失うから」
「失わないよ」
「失わせないって言って」
「失わせない。
絶対に」
櫻の即答に、
アネモネが泣きそうに笑った。
寮の部屋。
アネモネは突然櫻を抱きしめた。
「櫻。
もし……もし私がいなくなったら」
「いなくならない!」
「でも――」
「アネモネが離れていく未来なんて、ない!!」
櫻も抱きしめ返す。
涙が肩に落ちる。
「何があったの?話して。お願い」
「言えない。
言ったら、櫻が傷つくから」
「黙ってる方が、もっと傷つくよ」
沈黙。
アネモネは櫻の頬に触れ、
泣き笑いの表情で囁いた。
「私、来月……国に連れて帰られる」
「――っ」
その瞬間、櫻の世界から色が奪われた。
「逃げたい、櫻と一緒に。
でもそんなの許されない」
「許されないって誰が決めたの?」
「……父」
指輪が照明の光を弾いた。
「櫻、お願い」
「なに?」
「泣かないで」
無理な願いだった。
「嫌だ!!
嫌だよアネモネ!!
行かないで!!!」
櫻は声を震わせ、
アネモネを強く抱きしめた。
アネモネもまた、涙を流しながら囁く。
「生きてる限り、櫻を忘れない。
離れても……心はそばにいる」
「離れる前提で話さないでよ!!」
「だって――
もう決まってるんだもん」
櫻は嗚咽を漏らしながら、
アネモネの背中にしがみついた。
この夜、櫻は知った。
愛は奪われることがあると。
涙の味は苦くて、
でも確かに恋だった。
翌週。
放課後の寮へ戻った櫻に、
見慣れない封筒が手渡された。
「アネモネ宛てのお届けものだよ」
差出人:アネモネの父
朱の封蝋。重い印象。
「アネモネ……開けるね?」
「うん……」
震える指で封を切る。
紙にはきっちりした文字が並んでいた。
――退寮・退学手続き通知
移送準備を進めるため帰国手配完了
日付:2月14日
櫻の視界が滲む。
「……2月14日って……」
「バレンタインだね」
アネモネは笑った。
泣かないように、無理に。
「“日本の恋の日”に、私たちは終わるんだって」
「終わらない!!」
櫻の叫びは震えていた。
「私、戦う!!!」
「櫻にはそんなの無理」
「無理でもやる!!!
アネモネは私の恋人なの!!!」
櫻の手が、アネモネの頬に触れる。
「あなたは、私の居場所なのに……
どうして奪われなくちゃいけないの」
アネモネの肩も震えた。
運命なんかに従わない。
櫻は、奪い返す側になる。
二人の指輪が、
戦う覚悟のように光っていた。




