表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さくらとアネモネ  作者: サファイロス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/25

第18話 言い渡された現実と、櫻の知らない涙

アネモネの父の書斎は、重い空気に満ちていた。

 飾られた勲章と外交書類。

 まるで娘の人生まで管理できるとでも言うような部屋。


「お前は再来月、母の国へ行く」


 父の声は一切の情を排していた。


「は……?急に何を」


「急ではない。

 お前が日本にいるのは“仮”だったのだからな」


「そんな話、聞いてない」


「言ったところで反発するだろう」


「当然でしょ!!」


 アネモネの声が弾けた。

 父が一瞬、眉を動かす。


 


「日本に来たのは、母の提案じゃなかったの?」


「そうだ。

 だがもうお前には“こちら側”の役目を果たしてもらう」


「役目?私は道具じゃない!!」


「娘とはそういうものだ。

 “家”にとって価値あるように育てる」


「家のため?国家のため?

 じゃあ私はどれだけ犠牲になればいいの!!」


「犠牲などではない。

 選べる人生を与えているのだ」


「与えてる?奪ってるの間違いでしょ!!」



「日本で得たものに、何の価値があるというのか」


「ある!!」


 アネモネの右手が、父の言葉を遮るように掲げられた。

 指輪が鋭く光る。


「私には――大切な人ができた」


「その“日本人”か」


「……櫻は関係ない」


「関係あるとも。

 お前が迷っている理由のすべてだろう?」


「っ……!」


 言い返せない。図星だから。


 


「だが忘れるんだな。

 所詮、日本の子供だ。

 別れれば済む」


「――ッやめて!!」


 アネモネの瞳が燃えるように揺れた。


「櫻を侮辱しないで!!

 私の大切な人を、あなたの言葉で軽くしないで!!」


「感情的になるな。

 すべて切り捨てればいい」


「切り捨てられるわけない!!!」


 破裂音のような叫び。

 父の表情が一瞬歪む。


 


「お前は未熟だ。

 恋など一時の幻想に過ぎん」


「一時?

 あなたは恋をしたことがないの?」


「ある。だが国を背負えば変わるものだ」


「……かわいそうな人」


「なんだと」


「私は変わらない。

 櫻を大切に想う気持ちは、国や家より大きい」


「娘であることを捨てると?」


「違う!」


 アネモネは胸を叩きつける。


「私は――私を捨てない」


 



「私の人生は私が選ぶ。

 愛したい人を、愛する」


「愚かだ」


「愚かでもいい。

 櫻を失うほうが、何百倍も苦しい!」


 指輪を握りしめ、

 涙がポロポロとこぼれる。


「私の心を奪ったのは、国じゃない。

 家でもない。

 櫻だよ」


 


「……いずれ分かる。選択は私が正しい」


「違うってば……!

 どうして信じてくれないの……!」


「娘よ。お前は――まだ“子供”だ」


「子供でも、恋人を守れる!!」


 

 父は冷たい目で言い放った。


「ならば好きにしろ。

 だが時間が来れば連れ戻す。

 それだけは変わらない」


 背中を向けられる。


 アネモネは膝をつき、

 肩を震わせ――


声にならない泣き声を飲み込んだ。




 櫻の元に戻ったアネモネの笑顔は、

 ひび割れたガラスのように脆かった。


「アネモネ……?」


「櫻。大丈夫。

 まだ一緒にいられる」


「何があったの?」


「何も……ない」


 絞り出すような声。

 指輪に触れる手が震えている。


「今は、櫻の手を握ってたい」


「いいよ……ちゃんと握るから」


 櫻の温度だけが、

 アネモネの心を繋ぎ止めていた。


(行きたくない

 櫻のそばにいたい

 ここが私の家なの)


 櫻には聞こえない声で、

 アネモネは泣き続けた。


恋は想い合うだけじゃ守れない。


闘う必要があると知った夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ