第16話 その指に、私の名前を刻むみたいに
12月。
寮のホールは、赤と緑に染まっていた。
ツリーの光が揺れるたび、
櫻の胸も少しだけざわつく。
「ねぇ櫻。今日、楽しめそう?」
「うん。アネモネと一緒なら」
「……そんなこと言われたら、期待しちゃう」
ふたりは静かに微笑み合い、
いつもより少し近づいて歩いた。
「櫻、写真撮ろ!サンタ帽子似合いすぎ!」
女子が櫻の肩に腕を回す。
「えっと、ありがとう……?」
その瞬間、視界の端で
アネモネの表情がすっと消えた。
そして夜の冷たさみたいに、胸が痛む。
「櫻。こっち来て」
「アネモネ?」
手首を掴まれ、
ツリーの陰へと連れていかれる。
「今、ふたりきりになりたい」
声が震えていた。
「はい、これ。
櫻のために選んだ」
「開けてもいい?」
「もちろん」
櫻が小さな箱のリボンを解くと――
銀の指輪が現れた。
「……指輪?」
「うん。ペア」
アネモネは自分のポケットから、
同じデザインのリングを取り出した。
「左手の薬指はまだ早いから……
右手につけよ?恋人の指」
「アネモネ……」
「だって、言葉だけじゃ不安になる。
櫻はみんなに優しいから」
小さな嫉妬が、
痛いほど愛しい。
「これで誰が見ても分かる。
櫻は、私と恋してるって」
アネモネは櫻の手を取って、
そっと右手の薬指に指輪を滑らせた。
「ほら、きれい」
「ありがとう。
すごく嬉しい……」
櫻もアネモネの指に指輪をはめる。
指先が触れただけで震えた。
「櫻」
「なに?」
「大好き。
“恋の意味”で」
「……私も」
「離れない?」
「離れないよ」
「この指輪、嘘にならない?」
「ならないよ」
アネモネは
櫻の肩にそっと頭を預けた。
「怖いの。
幸せを持つの、慣れてないから」
「じゃあ、一緒に慣れていこう」
櫻は指輪をした手で
アネモネの髪を優しく撫でた。
独占じゃなく、証明。
指輪は恋の名前。
離れないための約束。
ツリーの光が二人の指輪を照らす。
それはまるで――
これからずっと繋がる未来を
そっと予告しているみたいだった。




