第11話 櫻は、私の
夏の終わり。
セミの声が消えて、風が少し柔らかくなった頃。
櫻とアネモネは、手を繋いで登校した。
ほんの少しだけ、指を絡めたまま。
「今日も一緒に過ごそ?」
「当たり前でしょ。
櫻はどこにも行かせない」
いつもより少し強気なアネモネ。
それが嬉しくて、櫻は笑った。
「櫻ちゃん、夏休みどうだった?」
「髪伸びた?似合う〜!」
女子たちの気さくな声。
櫻は笑顔で答える。
「ありがとう、楽しかったよ」
「今日、一緒にお昼行かない?」
「……え?」
櫻が戸惑う間もなく、
腕を掴まれる。
「櫻は私とお昼食べるの」
アネモネだ。
その瞳は、笑っていない。
「え、あ、うん……」
「じゃ、行こ」
強引に連れて行かれる櫻。
周りの子たちは少し驚いた顔をした。
「ごめんね、急に引っ張ってきて」
「別に。櫻が謝ることない」
でも声はピリピリしている。
「みんな、仲良くしたいだけだよ」
「分かってる。でも……」
アネモネは箸を置き、櫻をじっと見た。
「櫻が笑ってるの、
私の知らない誰かに向けてるの嫌」
「嫌……?」
「嫉妬してるの。
言わせないでよ、恥ずかしいじゃない」
頬を赤くしながら、それでも真っ直ぐ。
櫻の胸は苦しいほど熱くなる。
「ありがとう。
そんなふうに思ってくれて」
「……喜ぶの?」
「うん、すごく」
「……鈍いんだから」
アネモネは櫻の手をテーブルの下で掴んで離さない。
まるで「ここにいて」と縋るみたいに。
「櫻、ちょっと来て」
手を引かれるまま、人気のない場所へ。
「……はぁ。
言おうか迷ったけど、もう言う」
アネモネは深呼吸して、
櫻を見上げた。
「私と櫻は、恋人」
「えっ――」
「違う?
ここ最近の、あれこれ全部。
友達にすることじゃない」
「……うん。違う。
恋人じゃなきゃ、やだ」
櫻の返事に、
アネモネの瞳がかすかに潤む。
「だったら言う。
櫻は、私の恋人」
「私も……アネモネの恋人」
その言葉が、
二人を結ぶ「名前」になった。
「……櫻」
「なに?」
「お祝い、したい」
「お祝い?」
「恋人になったお祝い」
アネモネは少し照れて、
櫻の頬にそっと指を当てた。
「キス……したいけど」
「けど……?」
「櫻が恥ずかしがるから、今日は手だけ」
アネモネは
櫻の指をゆっくり持ち上げて、口元へ。
軽く、触れるだけのキス。
唇じゃなく、
指先に。
「……これくらいなら、いい?」
櫻は真っ赤になりながら頷いた。
「櫻の初めては、全部私が欲しい」
静かな声ほど、
熱は強くなる。
「好き」より強い言葉があるなら、
今日のアネモネは、それを知っている。
恋に名前がついた瞬間、世界の光が変わった。
櫻とアネモネは、
正式に恋人になった。
9月の風が、
二人の未来をそっと押した。




