4
おはようございます。今日もメイが来るまでに、スキルの朝の作業を進める。刈り取って収穫して、工房で出来たものを一旦倉庫に移動させて、空になった工房に材料を投入して、畑に新たに植えていく。この辺はいつも同じ。朝起きたら農作物は全部収穫できる状態になっているし、工房も卵も牛乳も全部出来上がっているからいろいろ忙しい。メイが来る前に終わらせておかないと、時間ロスになるのがね“ゲーマーとして許せぬ”っていう感じで、早起きしてしまう。牛乳は貯まってきたので、少しチーズを作ろうかな。チーズも好きなんだけど、今世まだ食べたことないものね。牛乳加工工房に、牛乳を投入しておこう。
辺境伯様にお会いするにはうちから2時間馬車に乗らないといけない。お昼過ぎにお会いするお約束なので、朝食後すぐに出かけることになる。
ご飯食べてメイに綺麗に着つけてもらう。
「アスタ、準備はできたかい?」
お父様が声をかけてくれる。
もう一度自分の身だしなみを確認して、良し。
「お父様、大丈夫。準備できました。」
「じゃ行こうか。」
「お母様、ルーカスお兄様、ヒューゴお兄様、フレイヤお姉様行ってまいります。」
「うまくいくといいですね。結果楽しみにしていますね。」
「「アスタ、いってらっしゃい」」
「お父様、辺境伯様って怖い方ですか?」
「大丈夫だよ。見た目は怖いかもしれないけど、お優しい方だよ。」
見た目は怖いのか・・・。
今日もお尻が割れるかと思った。馬車の移動大変。でも文系だったわたし、異世界あるあるのように馬車の改造はわからない。サスペンションの原理はわかるけど、たぶん説明できないから作れる気がしない。次はクッションでも作っておこうか。
「大丈夫か、アスタ?」
「お尻が痛いです・・・。」
「アスタ、淑女は人前でお尻って口に出して言ってはいけないよ。気持ちはわかるけどね。」
お父様に笑われながら馬車を降りる。
辺境伯様の館は、辺境伯領の領都の真ん中にあるお城だ。ものすごく大きい。ずーんとか、どーんというような擬音が似合う。こんな中に入っていかないといけないなんて。
お父様の服の裾をぎゅっと握ってしまう。
お父様は苦笑しながら大丈夫だよと小さく耳打ちして手を繋いでくれた。
辺境伯様の執事さんが出迎えてくれて、案内してくださった。
どきどきで足がかくかくしている。
お父様が時々目を見て微笑んでくれるので、それだけを支えに長い廊下を歩いていく。
ようやく部屋に着く。ここもものすごく広い。奥の方に辺境伯様がいらっしゃった、大きい。辺境伯様ものすごく大きい!2メートルぐらいあるんだろうか、前世のプロレスラーのようだ。マッチョ。完全に筋肉ががっつりついていらっしゃる。本当に見た目が怖い。
「よく来た。オルランド子爵よ。今日は娘のスキルについての相談と聞いている。」
「お忙しい時間の中、ご面会していただきありがとうございます。今回8歳の娘が授与されたスキルが特殊過ぎるのでご報告に参りました。」
「オルランド子爵の二女、アスタでございます。」
「いかにして、どのようなスキルだ。」
「はい、農業系でございました。スキルの中で農作物を作ったり、スキルの中に工房を設置して農作物を加工したりできるものです。」
「スキルで農業ができると申すのか。」
「はい。そして作った農作物や加工してできたものを実体化することも可能でございます。」
「な。何?実体化だと!」
「はい、小麦をはじめ、トウモロコシ、大豆、カボチャ、サトウキビ、キュウリ、菜の花、綿花、人参、リンゴ、卵に、牛乳に蜂蜜、そこから加工品としてパン、飼料、肥料、チーズ、砂糖、糸などが作れるのです。」
「さ、砂糖まであるのか、にわかに信じがたいな。ここでそれらを実体化することは可能か。」
「はい。全部持ってきております。」
辺境伯様が、執事さんや使用人さんたちに何か指示をしている。
大きなテーブルが運ばれてきた。ここに出せというのかな。では出しましょう。
大きなテーブルの上に、小麦をはじめ、トウモロコシ、大豆、カボチャ、サトウキビ、キュウリ、菜の花、綿花、人参、リンゴ、卵に、牛乳に蜂蜜、籠に入れたパン、飼料、肥料、チーズ、砂糖、糸を10個ずつ【インベントリ】から出していく。飼料と肥料は嵩張るから2個にして机の下に置いたよ。
お父様が辺境伯様にこれがサトウキビですって紹介している。
「おお。凄いな。これがこの子のスキルか。あい、わかった。オルランド子爵がわしのところへ報告にきた理由がな。これは確かにほっとけないな。」
辺境伯様はサトウキビを真剣に見て、砂糖を少し舐められた。うむ。
また、執事さんに指示を出している。
外から4人の方が中に入って来られた。1人はとびっきりの美女だ。びっくり。
「マミーナはわしの嫁だ。」
「マミーナ様、お目通り有難く存じます。オルランド子爵でございます。」
「オルランド子爵の二女、アスタでございます。」
「オルランド子爵久しぶりね。こちらの可愛い子はアスタ嬢ね。よろしくね。」
「マミーナ。机の上を見てくれ。これ全部、このアスタ嬢のスキルから実体化されたものだ。」
「これ全部なの?これは凄いわね。調べさせていただくわ。」
「マミーナは【植物魔法】のスキルを持っているのだ。後は、うちの上級鑑定士と上級魔法師と庭師だ。サトウキビを鑑定し調べよ。」
「「ははー。」」
4人さんがサトウキビに群がる。みんな一本ずつ手に取って確認されている。
「どうだ。うちで育てられるか。」
「はい、これは新鮮ですので、水につけたら根がでましょう。根がでれば株で育てられると思います。」
「そうね。多分半年もあれば育てられるようになるわ。それにしてもサトウキビの実物が手にはいるなんて本当に凄いわ。南の唯一砂糖の産地のモーレ領は砂糖関連をすべて結界で囲ってスパイすら誰も中に入れないので、その正体は謎のままだったのに。」
「サトウキビは、基本気候の温かいところが向いておりますが、もう少し実物が手にはいれば寒冷でも育てられるように改良は可能だと思います。」
「そうか、アスタ嬢、サトウキビはもう少し実体化できるか。」
「はい。辺境伯様、サトウキビは、後200束は出せます。」
「おお、200束も持っていたのか、これはまた凄いスキルだな。200束大変だろうけど、この辺に出してもらえないか。」
と、部屋の隅を指さされたので、どーんと200束だしてみた。サトウキビ200束って小山だね。
辺境伯様、また執事さんに指示を出している。凄い勢いで料理長さんらしき方が部屋に入られた。
上級鑑定士の方が、料理長さんへ、砂糖の作り方を教えているみたいだ。上級鑑定士ともなれば、鑑定しただけで、いろいろわかるそうだ。
「どうだ、できそうか?」
「はい。これだけの量のサトウキビがあれば、砂糖は作ることは可能だと思います。」
「そうか。マミーナと上級魔術師、庭師は、すぐにサトウキビの栽培について取り組んでくれ。料理長はここにあるサトウキビで砂糖を作ってくれ。」
「「畏まりました。」」
恭しく頭を下げるみなさん。砂糖のことでいっぱいのようだ。
ん、砂糖、砂糖?そうだ!
「あ!プリン出すのを忘れていました!!」
「“ぷりん”とは?」
「はい、これなんですけど、スキル産の、卵と牛乳とお砂糖で出来ているお菓子です。この容器の下にカラメルを入れていますので、下までスプーンで押してお食べ下さい。」
わたしは机の上に、陶器の器に入ったプリンを20個並べていく。
辺境伯様は上級鑑定士に【鑑定】を依頼している。
「旦那様、これは卵と牛乳と砂糖を混ぜたものを蒸したと出ております。毒はございません。」
素早く、スプーンが執事さんから差し出される。
「うむ。うむ。美味い。これは美味いぞ。」
辺境伯様気に入っていただけて良かった。
いつの間にかマミーナ様も食べられている。声に出ないけど目が見開かれて顔がとろけておられる。
辺境伯様は料理長を手招きして、プリンを食べてみよと。
スチャと執事さんがまたスプーンを取り出している。いったいどこから?
「これは!なんという美味しさ。なめらかで口の中でとろけるようだ。甘すぎず濃厚で、これは美味しい。」
料理長さんも絶賛である。他の方がその声を聞いてサトウキビを机の上に置いて近づいて来られる。20個出したからまだ大丈夫だよ。執事さんがまたスプーンを差し出すからそっちが気になる。
今度はメイドさんがスプーンを持ってこられた。そうきたか。
みんなで仲良くプリンを食べだす。マミーナ様は二つめだ。
「お、美味しい。なんだ。初めて食べる。」
「この黒いのが少しほろ苦くて甘くて絶品だ。」
「これが“ぷりん”というものか。卵と牛乳と砂糖だけだというのになんていう美味しさ・・・。」
みなさん、うっとりされている。マミーナ様は無言で食べ続けておられる。
「アスタ嬢、プリンにはどのぐらい砂糖が使われている?」
「辺境伯様、お砂糖はこの1袋で300gあります。この300gでこの陶器の器の大きさのプリンならば、15個作ることができます。」
「1袋で15個か。アスタ嬢、あと、砂糖を何袋出せるか?」
「ええっと、100袋ぐらいでしょうか。」
辺境伯様また執事さんに指示を出され、使用人さんたちが大きな机を追加で持ってこられた。
「ここに出して欲しい。砂糖もプリンも、時期を見計らって王家に献上せねばならぬからな。」
あー。王家への献上か。てっきり辺境伯家で毎日プリン食べるのかと思った。それならばと、お砂糖を100個机の上に並べてみた。
どうやら、マミーナ様の【植物魔法】のスキルでサトウキビ栽培が可能になって、お砂糖も作られるようになった。という風に持っていくそうだ。貧乏子爵家の次女のスキルよりも、辺境伯様の奥様のスキルの方が外聞的に平和である。わたしのスキルだとバレたら即誘拐され奴隷のように働かせそうだものね。
マミーナ様の【植物魔法】ならば、持っている方も多いし、辺境伯様の奥様に何か仕掛ける人もいないだろう。
それでも、わたしに後ろ盾があった方がいいだろうと、辺境伯様のご長男様のお子様。辺境伯様のお孫様に当たる方と仮婚約をすることになった。
外向きには婚約だけど、内向きにはあくまでも仮のものという感じだ。
ちなみに辺境伯様はお父様の10歳年上の46歳で、ご長男様は27歳。次男様は24歳。三男様は20歳で、上お二人が既にご結婚されていて、ご長男様のところは8歳と5歳と1歳のお子様がいて、次男様のところは3歳と今奥様が妊娠中らしい。
その長男様の8歳のお子様と仮婚約らしい。
サトウキビ栽培がうまくいって、砂糖がざくざくと辺境伯様のところで作れるようになったら安心ということで、一番危ない、今を守るための保険だと聞いた。
仮ということで、今回はお孫様と会わずに家に帰ることになった。
お父様が言うには、サトウキビの栽培が軌道に乗るまでは定期的にわたしからサトウキビを購入してくださるらしい。今日のお砂糖も半分以上はお買い上げだったそうで、お父様はがっつり金貨の袋を押し付けられたそうだ。
他の野菜も上級鑑定士の方が最上級の品質ですって太鼓判押して下さったので、これもサトウキビと同じく定期的にお買い上げされるので、無理しなくていいので頑張れと。辺境伯様から時間停止、容量大のマジックバックを預かって帰ってきた。無理しなくてもいいから、これに入れろという圧を感じた。せっせと入れさせていただきます。
領地への小麦と肥料の配布は、辺境伯様からの支援という形にすることにしたらしい。これもわたしのスキルを悪目立ちさせない処理で、守られているなと思う。
ちなみに、小麦と肥料の追加も辺境伯様に催促されている。まずはうちの領地から~ということで、お願いしたらしいけど、小麦の種まきシーズンは1か月ぐらい。フルで頑張らねば。
お父様は無理しちゃダメだよって言って下さるけどねー。
宿題は先に済ませる方だ。残っていると気持ち悪い。
領民への配布が後4日後ということで、お勉強もお休みさせてもらって、せっせとスキルでの畑仕事を頑張る。小麦は5分で収穫できるのだ。あっと目を離したらできているので油断大敵。その合間に肥料を作る。肥料の材料となるトウモロコシとカボチャと大豆も作る。
もちろん、サトウキビで砂糖も作るし、ハチミツも増やしたい。途中、ランクアップもして、ブドウが作れるようになったので、30本ぐらい植えて置いた。いずれワインを作りたいが、前世ゲームの中では、ワインは作れなかった。スキルじゃなくても領地で作れたらいいな。いつかねー。
そうこうしているうちに、領地の人に小麦と肥料を配布する日がやってきた。領民には荷車を持ってくるようにってお知らせが出ているそう。
わたしのスキルだとバレないように、領民が来る前に、領主館の前の広場にどどーんと小麦と肥料を出して置いた。
結構頑張った。わたし頑張った。
肥料は農地持っている世帯に2袋、小麦は1世帯50束ぐらいを持って行ってもらう。そして渡した小麦を種籾にしてもらう。
それにしても、わたしの【インベントリ】って制限ないのかな。これらが全部入っていた。農業スキルに目がいくけど、【インベントリ】もなかなか凄い。
全部出したので、わたしは撤収。後はお父様とルーカスお兄様にお任せ~。
小麦と肥料の残りは、辺境伯様へお渡しするマジックバックへ仕舞っていく。辺境伯様からの最大の大きさのマジックバックにはどれだけ入れてもまだ入れられる。本当大容量だ。期待が重い。サトウキビも砂糖もその他の辺境伯様が欲しがった野菜、トウモロコシとカボチャ、大豆、人参、キュウリを入れる。うちでも食べたいし、領民にもいつか渡したいので、収穫できた野菜の半分ぐらいをマジックバックに入れておく。
野菜はそのうち、辺境伯様の支援だっていうことで領民に渡すっていう方向らしいけど、そのためにもせっせと貯めよう。
小麦と肥料の領民への配布は大盛況のうちに終わったらしい。お父様もルーカスお兄様も満足そうなお顔をされていた。無事に終わってほっとしている。
辺境伯様のお城に行ったのも併せてこの1週間怒涛のようだったよ。疲れたー。
この間、勉強もせずにスキルに集中していたので、レベルも6上がっている。新しいものも作れるようになったけど、小麦と肥料とサトウキビと砂糖の量産に新しいところまでついていけなかった。明日からは新しい作物楽しもう。今日はおやすみなさい。
【今日のスキル】
レベル 15
畑 48面
栽培できるもの 小麦 トウモロコシ 大豆 カボチャ サトウキビ 菜の花 きゅうり 人参 綿花 ジャガイモ
工房 飼料工場…鶏の飼料、牛の飼料、ミツバチの飼料 小麦加工工房…パン、食パン サトウキビ加工工房…砂糖 牛乳加工工房…チーズ、バター 肥料工場…肥料 製糸工房…青い糸、青い布
牧場 鶏の飼育所…卵 牛の飼育所…牛乳 養蜂施設…ハチミツ
果樹園 リンゴ ブドウ