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学校を卒業して18歳になった。不戦勝のままアルヴィン様と今日、結婚する。
最初は仮の婚約者だったのに、何故かずっと囲われ、そのうち一緒にいるのが当たり前になった。
今更、新たな人といちから関係築くのも面倒かなと思ったり、アルヴィン様に不満もないし、アルヴィン様もわたしで楽しんでいるから、まぁいいかっていう感じでゴールしてしまった。
8歳の時、変なスキルを授与されて泣いた日もあったけど、ようやくここまで来た。
お父様もお母様もルーカスお兄様もヒューゴお兄様もフレイヤお姉様も、一度もわたしの変なスキルを“金の生る木”扱いしなかった。
貧乏脱却はアスタのお陰だって言ってくれていたけれど、休める時にはちゃんと休みなさいって言ってくれていたし、何よりわたしの安全を第一にしてくれていた。わたしが変なスキルのせいで目立たないように、攫われて搾取されないようにと大事に大事に目立たないようにと育ててくれた。本当に感謝しかない。
「アスタ、チョコレートくれ。」
「はいはい。アルヴィン様は結構チョコ好きだね。」
「披露宴の後は、パレードだからな。少し腹の中にいれとかないとな。」
「え?パレードって何よ。」
「パレードって、領都の中を馬車でお披露目かな。」
「そんな目立つことするんだー。」
「結婚するまでは、アスタが目立たないようにって守ってきたけど、もう解禁だしな。アスタおまえ、辺境伯領では“豊穣の女神”っていうことになるから、領民はみんなアスタを見たいんだよ。」
「え、何?その“豊穣の女神”って!」
「合っているだろう。アスタが辺境伯領に与えてきた恩恵ってすごいんだぜ。領民全員が飢えてない。みんな明日が来るのが楽しみな土地ってそうそうない。アスタのお陰だよ。」
「そんな大層なことはしていないよ。毎日農業ゲームをしていただけなのに。」
「アスタは大層なことしていないつもりだろうけど、子爵領やうちの辺境伯領、ご近所の寄り子の領地、どこもアスタのスキルのような実験農場が広がっていて、そこからどんどん豊かになってきているんだ。アスタが自分だけ良ければいいっていう考え方じゃなくて、みんなで幸せになる方法を模索してきたから、豊かさが広がったんだよ。アスタはスキルのみが凄いと思っているんだろうけど、スキルはあくまでもきっかけに過ぎない。お前が皆を幸せにしたいっていう気持ちが、今、ここに繋がっているんだぞ。」
「わたしは、お父様、お母様、ルーカスお兄様、ヒューゴお兄様、フレイヤお姉様が幸せであって欲しいっていう利己的な願いで動いてきたんです。豊かさが広がったのは、辺境伯様のお陰ですよ。」
「そのお爺様が、アスタ女神説をこの結婚に合わせてご披露してしまったんだよ。」
「えー。辺境伯様―。」
辺境伯様から女神扱い!前世のわたしなら激しく拒絶していただろう。
でも、いま、愛され続けたわたしは、それに報いたいと思う気持ちが大きい。
女神だろうが、やってやろうじゃないのって、変なやる気が芽生えてきたかも。
「いいんじゃないか。子爵家から辺境伯家に嫁入りするための箔付けもあるだろう。婚約していた時から、“なんであんな子爵家の娘が辺境伯家へ”とか言われなかったか?」
「あー。少しだけあったかな?でも、たいていは、“あの強面のアルヴィン様とよくご婚約されましたね!”という驚きの方が多かったわ。」
「あー。俺のせいか。いや。俺がいい働きしていたんだな。さすが俺。」
「ははは。ほんと、さすがアルヴィン様だね。今まで守ってくれてありがとう。」
「ああ、大丈夫だ。これからも守る。」
「ありがとう。わたしこれからも面白い嫁で頑張るわ。」
「アスタ、頑張らなくていいぞ。おまえはそのままで。無理しなくてもいいし、なんなら目立ってもいい。ここは天下の辺境伯領だ。誰ももうおまえを害するものはいない。スキルも毎日頑張りすぎなくていいぞ。一部の嗜好品、チョコレートはまだ商品化できていないけど、アスタだけが頑張らないといけないような運営してないからな。休みたい時は休めよ。」
そうか、辺境伯領に嫁に行くっていうことは、もう何も我慢しなくてもいいっていうことなんだ。やっと“目立つな危険!”が解禁なんだな。名声はいらなかったけど、何でもかんでも辺境伯様経由で、自分から何かをする時は息を潜めてっていう感じだったもんね。
へんてこなスキル授与から始まった領地の立て直しだったけど、今、それを楽しめている自分がいる。
前世ぼっちで萎縮して味方は自分しかいなかったけど、今はたくさんの人が助けてくれている。
幸せだなってしみじみ思う。
何やってもいいって、シルクを作るため蚕の飼育を領地に広げようか、紅茶用の茶木も植えてみようかな。あ、小さな子たちの学校も整備したい。ゆで卵と麺つゆで味玉作れたから、ラーメンも作ってみたい。いっそのこと中華料理もどんどん作ってみたい。魔の森をもっと整備してどんな恩恵があるのかも調べてみたい。陶器の藍の染付も軌道に乗せたい。
自分が好きに領地に直接働きかけてもいいなんて、ちょっとわくわくする。
カカオは実験農場に結構たくさん植えているのよね。アルヴィンのお母様がチョコにはまって再現を夢見ておられる。
「チョコレートは料理長とモルテンさんに頑張ってもらいましょう。あの2人仲いいからやってくれるんじゃないかな。」
「料理長とモルテンは凄いからな。辺境伯家のエリート集団のトップだよ。自慢の人材だ。」
「うん、小さい頃から辺境伯家にはずっと助けてもらってきた。エリート集団の方々が目立って下さったから、わたしは自由でいられた。ずっと頼ってきた。辺境伯領さまさまだった。だから、これからもよろしく。アルヴィン様、頼りにしています!」
「おお、任せておけ。この領地を一緒に幸せにしていこう。俺もアスタと出会ってからの10年間凄く楽しかった。これからも楽しい日々を過ごそう。」
「一緒に幸せになりましょう。子爵領の家族だけではなく、辺境伯領もアルヴィン様のご家族も身近なところからみんな幸せになりますように。」
「さぁ。アスタ、披露宴に行こう。みんな待ってるぞ。」
「はい。アルヴィン様。望むところです。」
終