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「お父様、お母様、ルーカスお兄様、ヒューゴお兄様、フレイヤお姉様おはようございます。」
「「おはよう。アスタ。」」
「アスタ、昨日はごちそうさま。ハチミツ酒、とても美味しかったよ。」
「ほんと!良かった。」
「アスタ、ハチミツ酒はどのぐらい作ったんだい?」
「20小樽ぐらいかな。でも、館で働くみんなが預かってくれているからよくわからないのよね。キッチンには5小樽残っています。」
「ん?預かってくれているとは?あげたのではなくて?」
「たくさん作りすぎて、キッチンに置いていると邪魔になったので、ダグとか預かってくれるっていうのが、他の人にも広がって、皆親切で預かってくれたの。」
「ふーん。親切ね。まぁいいか。アスタ、ハチミツ酒はもっと作れるのか?」
「まだまだハチミツあるし、今も作っているから大丈夫よ。小樽の方が足りるのかというのと、置き場所がないぐらいかな。」
「小樽と置き場所は確保しよう。無理のない範囲で増やして欲しい。美味しかったからね。あと、ダグをはじめ、ハチミツ酒を持っているものと持っていないものがいたら、不公平だから、いったん全員に1樽渡そう。先日の収穫祭の手伝いのお礼だな。セバスに全員集めてもらおう。」
「はい。お父様わかりました。もう少し仕込んでおきますね。」
ということで、館で働く人がホールに全員集まった。その数20人。従者、執事、侍女長、侍女、メイド、料理人、馬番兼御者、庭師、下働き等となる。みんな何故集められたかわからないままで、きょろきょろ不安げだ。
「集まってくれて感謝する。今、アスタからハチミツ酒を預かっていないものは前に出てくれ。」
執事と侍女長、下働きの3人が前に出る。ほう。他のものは既に持っているんだね。
お父様がその5人に小樽を渡す。
「先日の収穫祭の手伝い、感謝する。領民が凄く喜んでくれた。皆のお陰だ。そこで、アスタが作ったハチミツ酒を全員にお礼として渡すことにした。皆、ありがとう。」
それを聞いて、何か悪いことがあるんじゃないかと思っていた皆は歓声を上げた。
「旦那、飲み終わったら、またもらえたりするんですか?」
「ダグ、もう飲み終わった後の話か。今回のものが飲み終わったら、そうだな。在庫があればアスタから買ってくれ。」
「えー。次は買うんですか?アスタお嬢、高くつきます?」
「ハチミツは500gが44リルで、ブドウは一房19リルです。後は小樽の値段と、ブルーノに干しブドウ作ってもらうのと、アンナへの手間賃ぐらいかな。」
「それなら買えます!アスタお嬢。予約します。仕込み手伝います。小樽持っていきます。」
俺も俺もと皆、手をあげる。まだ最初のひと樽も飲んでないよね。どれだけ期待値高いんだ。
「念のためだが、飲むのは仕事が終わってから、そして次の日の仕事に支障がない程度で。つまみはキッチンの誰でも使えるマジックバックの中に入っているものならば食べて良い。」
「旦那様、キッチンの誰でも使えるマジックバックの中って、ほとんど野菜ですよね・・・。」
「チーズと、枝豆が入っているから簡単なおつまみはできると思う。トウモロコシ焼いてもいいしね。野菜スティックにして食べるなら、マヨネーズも入れているし。」
「あ、そうか。チーズがあった!塩ゆでの枝豆も良いな。」
「仕事の後に食べるおつまみ用に、塩ゆでや野菜スティックをアンナに作ってもらいたいなら、ちゃんと対価を払うようにな。アンナに無理はさせぬように。」
「卵も茹でて、入れておきます。ゆで卵は塩でもマヨネーズでも美味しいですよ。」
やったーという声もあり、無事に説明終了。
この後、皆、飲み終わった小樽を綺麗に洗っては再利用し、44リル支払ってハチミツを受け取り、干しブドウを入れてせっせと自分で仕込む人が続出した。
秘密の配合の干しブドウは、ブルーノに作ってもらい、その対価としてブルーノはハチミツと干しブドウは無料だ。ブルーノの【風魔法】のレベルが凄くあがったと聞く。
この後、ブルーノに19リルでブドウを買ったメイドが干しブドウにしてもらい、おやつに食べることが流行ったとか。そのブルーノとメイドが仲良くなったとか、まぁいろいろあったそうだ。知らんけど。
「アスタ!焼きトウモロコシ!」
「ヒューゴお兄様、なんですか?」
「アスタ、焼きトウモロコシの屋台を出したいんだ。」
「ヒューゴお兄様が焼きトウモロコシの屋台出されるんですか?」
「いや、違う。俺のだちの兄ちゃんたちだ。」
「うーん。ヒューゴお兄様、焼きトウモロコシのタレは醤油と砂糖を使っています。砂糖は解禁になりましたが、醤油はまだスキル産以外では作っていません。外にまだ出せないんです。」
「あああ。あれ、アスタのへんてこスキルのものか!」
ヒューゴお兄様、へんてこなスキルって何よ。へんてこだって思っていたんだ。
「スキル産のものだから、辺境伯様が研究して作り上げてくれるか、自分で作るしかないですよね。」
「作れるんか?」
「材料は大豆と小麦と塩です。現物の醤油はあるので、それを上級鑑定士の方に見てもらえれば作り方はわかります。出来上がるまで結構時間かかりますが、魔術師がいれば後押ししてくれると思います。それか、錬金術師に作ってもらうかですね。」
「時間かかるって、どのぐらいだ?」
「たぶん、1年半から2年ぐらい?」
「そんなにかかるのか・・・。ん-。外に出せるようにするには、ちゃんと一から作らないとダメだろうな。地道に作るのと、錬金術師に作らせるのとどっちも平行作業でいけばなんとかなるか。」
うわぁ。ヒューゴお兄様がまとも。
「アスタ、焼きトウモロコシ以外に、醤油を使った、美味しいもの作れるか?」
「まぁ醤油なら、なんとか。」
「じゃ、醤油を使った試食会しよう。」
「え?なんで?」
「錬金術師に心当たりはあるんだ。でも、醤油を作ってくれるかどうかわからない。そこで、美味しい醤油を使ったものを食べさせれば、作ろうっていう気になるんじゃないか。」
ヒューゴお兄様天才!なんとかは紙一重とかいうが、お兄様の日頃の能天気さを知っているだけに、欲望を叶えるためのお兄様はひらめきが凄い。
「ヒューゴお兄様、準備がいるので、少しお時間いただきます。」
「どのくらい必要?」
「うーん。1週間ぐらい?辺境伯家に依頼して欲しいもの取り寄せたいの。」
「そうか。じゃ、1週間後、俺もだちに声掛けとくわ。」
「何人ぐらいになりそう?」
「だちが5人と、その兄ちゃんたちが2人で錬金術師が2人かな。」
「了解!」
「じゃ、アスタよろしく!」
醤油を使った料理はいくつか思いついた。男性ばかりなので、がっつりいきたいところ。醤油は美味しいって知らしめたい気もしている。頑張ろー。アンナにも頼まないと。
セバスにも頼んで、冒険者ギルドに依頼を出してもらった。辺境伯家への定期便にも手紙を書いた。セバスに1週間後裏庭で試食会をする旨を伝え、あ、お父様にも了解を得なければ。ヒューゴお兄様は絶対連絡していないと思うから!
そして、試食会当日、辺境伯家から何人もやってきた。何故?いつもの定期便の使者のお兄さんだけじゃなくて?アルヴィン様もいる?何故に?
「アスタの手紙で、醤油を使った試食会するって書いてあったから、食べにきた。面白そうだしな。ああ。それだけで来たんじゃないぞ、お婆様が“醤油はまだ研究している暇がなかったから、手をつけていない。どんなのか調べてきて欲しい”ってコナーに頼んだんだ。コナー1人じゃ感想が偏ったらダメだろう。だから俺も来た!」
何故に自信満々なんだ。アルヴィン様が来ないといけなかった理由になってないぞ。コナー様というのは、お婆様の秘書のような仕事をしている方らしい。何でも屋ですと挨拶されていたけど。後は護衛が2人と侍女が1人だ。いつもの定期便の使者のお兄さんもいる。人が増えたな。大丈夫かな。
とりあえず、トウモロコシ茶でも飲んでいただいて休憩してもらっておく。お兄様のお友達が来たら全員裏庭に集合してもらうようにセバスに頼み、辺境伯家より届いたものを下準備しにいく。
さぁ、本番だ。
今日もアンナを筆頭に、従者のボリスとカール、ダグとダンに、御者のブルーノがお手伝いだ。
焼きトウモロコシ、きのこのバター醤油焼き、イノシシ肉の生姜焼き、辺境伯家より届いた貝の浜焼き(ほたてとはまぐり)、それと串焼きと干し肉。
準備してマジックバックに入っていたのを取り出す。じゃーん。
がっつりいったよ。
「さぁどうぞ。お好きなものを食べて下さい。全部味付けに醤油を使っています。」
ヒューゴお兄様のお友達とそのお兄さんと錬金術師の人には、醤油は辺境伯家より購入していることになっている。その醤油を使っての料理の試食会なんだということで納得してもらった。
「アスタ!なんだ、これ。肉が上手い。いやトウモロコシもうまいし、きのこもうまい。全部うまいぞー。」
口の中にいっぱい詰め込んだヒューゴお兄様が驚いた顔で食べ続けている。そうでしょ。そうでしょ。渾身の作品!
「ボリスたちも焼きながら適当に交代して食べてね。」
「うぉい。」
あ、もうダグの口の中に何か入っている。返事が変なわけだ。
お上品に一品ずつ侍女に取り分けてもらって、食べていたアルヴィン様だったけど、途中から自分で皿に取りに行ったり、串から直接食べている。上品だから叫んだりしていないけど、目は驚きで見開いている。
ヒューゴお兄様のお友達、そのお兄さん、錬金術師さんは最初声も出ないほど感激してくれていたようだったけど、途中からは、うまい。うまい。うまいぞー。と、それ以外の単語が出てこないようだ。
あ、ダグがどこからか樽を持ってきた。エールかハチミツ酒だな。
みんな自分で食べたいものを焼きだしたし、飲みだした。
もちろん、お父様も率先して飲んでいる。え?いつの間に参加されたんだろうか。辺境伯家のお孫様がいるんだから顔出すのも当然か。
アルヴィン様にはハチミツレモンを出す。飲んで少しびっくりしている。
「どう?少しすっぱいけど、すっきりするでしょう。」
「ああ、美味しいね。この飲み物も、食べ物も全部。俺、今日来て良かったよ。」
「それは良かった。お醤油って美味しいでしょ。」
「とても美味しい。お婆様にうちでも研究は進めるように進言しておくよ。」
アルヴィン様がものごっつい良い笑顔で答える。幸せそうだ。
「アスタ!これ。これはなんだ!」
「ヒューゴお兄様、それは干し肉ですって。」
「そんなわけないだろ。干し肉は堅くてがちがちで塩辛いんだ。これは柔らかいし噛めば噛むほど味が出てくるし、塩辛くないし、上手い!」
「これは、ほら、先日ヒューゴお兄様が、ボリスたちと狩った大きな魔物のイノシシのお肉ですよ。それを醤油とお砂糖とはちみつとショウガとハーブ類を入れた漬け汁につけてから、干して作ったんです。だから干し肉ですよ。長期保存もできます!」
「アスタ嬢、この干し肉のレシピは辺境伯家にいただけるのでしょうか?」
「コナーさん、大丈夫ですよ。今日のお料理も全種類、レシピもお料理も持って帰って下さい。これで醤油の研究が進めばわたしも嬉しいです。」
コナーさん、なんだかほっとされている。辺境伯家が噂の出所にならないとうち危ないですから、どんどんなんでも公表してください。
「アスタ様、今日はありがとうございました。すべて素晴らしい料理でした。わたし感動しました。ヒューゴ様にお誘いいただきました時には、しょうゆというものがよくわからず、そんなわからないものを作るのは抵抗があったのですが、今日のこの料理を作るための調味料だったと聞き、俄然やる気が出ました。ヒューゴ様とわたし頑張ります!」
少し酔っぱらった錬金術師のお兄さんの決意を聞く。ヒューゴお兄様のお友達のお兄さんたちは、“焼きトウモロコシが最高に美味しいと思っていたのに、なんだきのこも貝も串焼きも、干し肉もああ全部うまい。何の屋台をすればいいんだ”と悩まれている。
好きなものにして下さい。単価が安くて手を出しやすいのはやっぱり焼きトウモロコシだと思うけどね。スキル産だと10個で30リルだもんね。東の実験農場でも育てているし、ただし、醤油と砂糖はスキル産を直接買えば安いけど、現在流通しているお値段になると少し高くなるかな。
まぁその辺はお父様とヒューゴお兄様にお任せしよう。
こうして大盛況のうちに試食会は終了した。
ダグが干し肉を服のポケットに詰め込めるだけ詰め込んだのを見たけど、まぁ許そう。余った干し肉はキッチンの誰でも使えるマジックバックに入れておくつもりだし。
ヒューゴお兄様はこの後、醤油作りに邁進したし、屋台はやっぱり初志貫徹ということで焼きトウモロコシとなった。連夜大評判だと聞いている。収穫祭で食べた味をもう一度っていうところだ。結構お腹にたまるし、小腹が空いている時にはいいのかもしれない。
ヒューゴお兄様のお友達5人も試食会に感動し、東の実験農場で働くようになってトウモロコシや大豆を育てたり、醤油作り手伝ったりと協力している。辺境伯様にスキル産の醤油はお土産にたくさんお渡ししといたので、辺境伯家の上級鑑定士さんメンバーが頑張ってくださるだろう。醤油を使った料理が村で流行るのもあと少し。
きのこはしっかり鑑定してから料理してねと試食会のメンバーには後からしっかり念を入れた。きのこは本当気をつけてね。冒険者ギルドに美味しいきのこ(鑑定済)を依頼して良かった。
この時、辺境伯家の方々が持ってこられたマジックバックの中に以前にあれば欲しいとおねだりしていた天草が入っており、寒天が作れた!コーヒーゼリーだ。
牛乳とシロップを作り堪能した。美味しい。
コーヒーゼリーはお父様はそのまま食べるのが気に入り、お母様、ヒューゴお兄様、フレイヤお姉様はわたしと同じでミルクとシロップをかけて食べた。
【氷魔法】持った人が身近にいなくて非常に残念!
でも、いい夏の思い出になった。辺境伯様ありがとうございます。
ご機嫌で帰られた辺境伯家一行様からは、また金貨が押し付けられたが、アルヴィン様から“どれも美味しかった。ありがとう”とお礼の手紙をもらい。可愛い小鳥のブローチも一緒に入っていた。マミーナ様の入れ知恵だろうか。でも嬉しい。前世も含めて初めての異性からのプレゼント。大事にするね。
【今日のスキル】
レベル 28
畑 87面
栽培できるもの 小麦 トウモロコシ 大豆 カボチャ サトウキビ 菜の花 きゅうり 人参 綿花 ジャガイモ トマト 玉ねぎ
工房 飼料工場…鶏の飼料、牛の飼料、ミツバチの飼料 小麦加工工房…パン、食パン
サトウキビ加工工房…砂糖 牛乳加工工房…チーズ、バター 肥料工場…肥料
製糸工房…青い糸、青い布 製油加工工房…植物油 大豆加工工房…醤油
卵加工工房…マヨネーズ
牧場 鶏の飼育所…卵 牛の飼育所…牛乳 養蜂施設…ハチミツ 釣り場…魚
果樹園 リンゴ ブドウ コーヒー イチゴ 桃