13
おはようございます。収穫祭の朝だ。秋晴れが気持ちいい。
いつも通りに、メイが来るまで、スキルの朝の作業を進める。刈り取って収穫して、工房で出来たものを一旦倉庫に移動させて、空になった工房に材料を投入して、畑に新たに植えていく。ふう。畑の面も増えたし、植える野菜も増えた。工房で出来ることも多くなったし、果樹園もある。果樹園は実るまで丸一日かかるが、たくさん植えているので、一気に収穫できる。ジューシーで美味しいのでうちの館でも辺境伯家でも人気だ。実験農場でも種を植えている。【植物魔法】のスキルを持つ領民が雇われていて、成長の後押しをしていると聞く。ほんとこの世界はスキルが便利に使われている。実験農場の果物も早く収穫できるといいな。
サトウキビと砂糖、小麦と肥料はお父様にお渡ししている。サトウキビ工場はうちの領でも作ったし、サトウキビの栽培もはじめているので、砂糖を売り出しても大丈夫になった。
砂糖そのものや、砂糖を使ったお菓子は村でも作る場所ができ、外で売っても人気でいつでも行列ができているらしい。メイに聞くとそれでもうちの館で食べるお菓子の方が美味しいらしいけど。
肥料や腐葉土も研究が進んでいて、土の環境も良くなってきているらしい。畑もまだまだ増えていっているそうで、お父様がいつも嬉しそうだ。
だから、今日の収穫祭はとっても盛り上がるだろう。不作だったから、お祭りは4~5年中止だったと聞く。久しぶりのお祭りだ。わたしは小さすぎて過去の収穫祭は覚えていない。初めての収穫祭だ。
昔のことを覚えているセバスに聞きながら、東村と西村のちょうど真ん中にある領主館の前の広場に飾り付けをしていく。
広場の中央に祭壇というのか大き目の木箱を並べて台を作り、カボチャやジャガイモをカッコよく積んでみたし、玉ねぎ人参、トウモロコシなどを綺麗に並べてみた。リンゴや卵にチーズ、今回豊作だった小麦も置いてみた。
なんだか収穫祭っぽくなってきた。
領主館のすぐ前ではスープの場所、焼きトウモロコシの場所、茹で枝豆の場所の隣はエールの樽を置く、そして少し離れたところにイチゴ飴の場所を作ってもらった。
だんだんお祭りらしくなってきてわくわくしてくる。
あ、そうだ。音楽。音楽はどうするんだろう?
「ねぇダグ、お祭りの時に音楽はどうするの?」
「アスタお嬢、楽器はないが、樽とかテーブルとか叩いたり、手を打ったりして盛り上がるぞ。後はみんなで歌を歌うな。俺らが小さい頃はそんな感じだったな。ここ数年、不作が続いて祭りも無くなって寂しかったから、今日は久しぶりに賑わうと思う。アスタお嬢、ありがとな。」
「え、わたし?いやいや。収穫祭ができるのはお父様の頑張りと辺境伯様の支援だから、ね。来年は何か楽器でも用意できたらいいね。」
確かにわたしのスキルもお役に立っているのかもしれないけど、そのスキルを活かしてくれているのはお父様であり、辺境伯様だ。
どれだけスキルが有能だろうが、8歳児にできることなんてたかが知れていると思う。
ただ、大好きな今世の家族に報いたい。それだけでこのほぼ1年頑張ってきたひとつの成果がこの収穫祭だと思うと、やっぱり嬉しい。
うん、今日はしっかり楽しもう。
【イベントリ】から、スープの入った鍋や、焼きトウモロコシ用の皮を剥いたトウモロコシ、塩ゆで待ちの枝豆、そしてキラキラ可愛いイチゴ飴を設置する。
二つの大鍋のスープは火にかけられ、いい香りがしてきたし、焼きトウモロコシの醤油のタレの匂いは暴力的に魅力的だ。タレの開発にアンナと頑張ったかいがある。
使用人や従者に依頼し、在庫の入ったマジックバックを渡す。それでも足りない時は声をかけて欲しいと頼んだ。
お父様が辺境伯様から買った上等なエールの樽も並んでいく。
このころから領民が少しずつ広場に集まってくる。
ヒューゴお兄様とフレイヤお姉様も館から出て来た時からテンション高い。
領主のお父様が開催の挨拶をする。
「皆さん、去年の秋からこの夏まで小麦の栽培やジャガイモ、カボチャと皆さんのおかげで東村も西村も大変な豊作だった。これもみんなの努力と協力お陰だ、ありがとう。今後もよろしくお願いしたい。この収穫祭が済んだら、また種まきだが、一緒に頑張ろう。今回の振る舞いは辺境伯様からの支援があった。寄り親の辺境伯様にも感謝したい。
今日は、大地の恵みに感謝し、これから冬に備え、たくさん食べてたくさん飲んで楽しんでくれ。では、これより収穫祭を始める!」
集まった多くの領民から歓声があがり、拍手が響いた。領民はお祭りのため少しでも良い服をと皆おしゃれをしてきていて、貧乏子爵領には見えない。豊作で余剰分を売ったりして小金が入った人が新しい服を新調したりしたんだろう。
お父様が紡績工房も染織工房も拡大するなど領主として資金を投入してテコ入れしたから、領民は今までより少し安く布が買えたり、その布を草木染できるようになってきたんだと思う。草木染はフレイヤお姉様の開発も入っていると思うけど、生成り色一色だった服装に色が入って、うきうきしている様子が手に取れる。みんな楽しそうだ。
お母様やフレイヤお姉様が広めた刺し子を刺した服を着ている人もいる。刺し子も広がって、ちょっと嬉しい。
振る舞いについていい匂いが漂うのでどの料理の前にも行列ができてきた。領民全員の器はないので、皆自分の器を持ってきている。広場に並べた台に使わなかった木箱に座ったり、家からも食べ物持ってくる人がいたり、宴会場のように人が集まってきている。
スープも焼きトウモロコシもエールと枝豆もどこからも“うまい!”という声ばかりが聞こえ大人気である。
子ども限定にしたイチゴ飴も物珍しさもあってずらりとかなり長い列ができた。
ヒューゴお兄様とフレイヤお姉様も家で試作品の味見をしたのに、並んでいる。家に帰ればまた出してあげるのに、みんなと並ぶのがいいのだろうか。ヒューゴお兄様は村の友達も多そうだ。
子どもたちはめったに食べられない甘い飴と、少し酸味のあるそれでも甘いイチゴに感激している。スキル授与で一緒だったエマとマシューもいる。イチゴ飴を食べながらこっちに気づいたのか手を振ってくれている。スキル産のイチゴは大変美味しい。味わって下さい~。
イチゴ飴はお子様がとりあえず全員に行き渡ったら、女性に解禁だ。お姉様方が群がるし、おばさんがたも負けてはいない。結構たくさん作ってきたので、けんかしないでね。
領民の声を拾いながら広場を回る。
もちろん一人で歩いているのではなくダグが後ろからついてきている。ヒューゴお兄様とフレイヤお姉様にもそれぞれボリスとダンがついている。一応領主の子どもだからね。
「アスタお嬢様、この度は収穫祭の開催ありがとうございました。西村一同心から感謝の気持ちを。」
お?この方は?
ダグが小さな声で、西村の村長だと教えてくれる。村長さんかじゃいろいろ詳しいかな。
「この収穫祭は、領民の皆さんの努力のお陰です。いろいろありがとうございました。村長さん、教えて欲しいことがいくつかあるのですが、良いですか?」
「ええ、わたしで答えられることであれば。」
「西村からだと魔の森が近いと思うのですが、魔の森に柑橘系、えっと少しすっぱいような黄色とかオレンジ色の果物とか見たことないですか?」
「黄色のすっぱいものはあります。でも物凄くすっぱくて食べられませんよ。」
「もし良ければ取ってきてもらっていいですか。ちゃんと代金はお支払します。」
「代金は別にいいですが、そうですね。若者が魔物に肉を取りに行くついでに明日にでも頼んでおきます。」
「ありがとうございます。美味しい飲み物になるかもしれないので楽しみです。」
物凄くすっぱい黄色の果実か、レモンだといいなぁ。
「後、ハチミツ酒の作り方をご存じの方はいらっしゃいますか?」
「ハチミツ酒ですか。長老のドノパン殿が、魔の森でハチミツを取ってきては仕込んでいたと思います。ドノパン殿はハチミツ取りの名人なんです。」
「そのドノパンさんを紹介していただけますか?」
「もちろん、それぐらいお安い御用です。ハチミツ酒は造られたらどうされるんですか?」
「内緒ですよ。お父様にプレゼントしようと思って。」
「おお。それはいいですね。是非ご協力させていただきます。」
本当はいつか自分が飲むように、今から作り方を習っておこうという作戦である。お酒の種類の少ない世界。ワインは今仕込み中だしたし、自分が大人になるまで頑張るぞー。
あちこちで聞こえていた、このスープめちゃくちゃうまい!なんだこのトウモロコシ、本当にトウモロコシかうますぎる!!塩茹での豆とエールの組み合わせ最高―!イチゴも飴も初めて食べたけど甘くておいしい!という声が少し収まってきた。
振る舞いがひと段落したみたいで、鍋も空っぽで、テーブルの上も網にも何も乗っていない。
すると樽やテーブル、木箱を叩いて音を出す人が増えてきた。それに合わせて歌を歌う人が出て、広場の野菜を並べた祭壇もどきの周りを踊りだす人が出てきた。揃っているようなばらばらのようなステップだけど、どの顔も嬉しそうで楽しくてたまらないという感じだ。お父様とお母様も一緒に踊っていらっしゃる。ヒューゴお兄様はお友達と、フレイヤお姉様もお友達と一緒に踊っている。みんながにこにこしているのを見ているわたしも嬉しい。
振る舞いがほとんど無くなったので、後にやかんに入れたトウモロコシ茶を置いておいた。これは好きな人が好きなだけ飲んでいいことにした。
エールも無くなって、喉が渇いた人がどんどん飲んでいるみたいだ。大きなやかん3個分にたくさん作ったからどんどん飲んでね。熱中症が怖いから水分補給は忘れないように!
ダグに踊らないんですか?と聞かれ、前世わたしは音痴だったので、少し尻込みしたが、こういうのは参加した方が勝ちなんですよと、なんだかわからない理論に後押しされてダグともども踊りの輪に入っていった。
踊りの輪はもう二重、三重になっていて、どこが起点かすらわからないけど、皆それぞれ好き好きに歌いながら踊っている。
前世で夏祭りの盆踊りで足が痛くても夢中になって踊った日を思い出す。なんだかとても楽しくなってきた。
とても幸せな一日だった。
【今日のスキル】
レベル 26
畑 81面
栽培できるもの 小麦 トウモロコシ 大豆 カボチャ サトウキビ 菜の花 きゅうり 人参 綿花 ジャガイモ トマト 玉ねぎ
工房 飼料工場…鶏の飼料、牛の飼料、ミツバチの飼料 小麦加工工房…パン、食パン
サトウキビ加工工房…砂糖 牛乳加工工房…チーズ、バター 肥料工場…肥料
製糸工房…青い糸、青い布 製油加工工房…植物油 大豆加工工房…醤油
牧場 鶏の飼育所…卵 牛の飼育所…牛乳 養蜂施設…ハチミツ 釣り場…魚
果樹園 リンゴ ブドウ コーヒー イチゴ