転生したら水能力者でした!
目を覚ますと、そこは見知らぬ森だった。
空は鉛色、湿った土の匂いが鼻を突く。体に違和感を覚えながら立ち上がると、手から水のような青い光が漏れているのに気づいた。
「……え?」
その瞬間、目の前の池の水が勝手に動き、手を差し伸べるように波打った。恐怖と混乱の中、私は理解した――自分は水を操る者になってしまったのだ、と。
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森を抜け、村にたどり着くと、そこには怯えた表情の人々がいた。
「あの者が来た……水を呼ぶ者が」
彼らの視線は私に突き刺さる。手を振ると、川の水が盛り上がり、まるで蛇のように這い回った。
最初は制御できなかった。ほんの少しの感情の揺れでも、水は暴れ、村の井戸を逆流させ、屋根から水が滴り落ちた。人々の悲鳴が耳に焼き付く。
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夜になると、水の怪が現れた。
湖面から生えた無数の手、黒く濁った水の塊が、私の心の奥底に触れる。悲しみや怒りの感情を増幅させ、理性を奪う。
「やめて……!」
叫んでも、声は水に溶け、体は震えるだけだった。
それから日ごとに、村の水は私に従うようになった。井戸、川、雨、すべてが手の延長。触れるたびに、水は生命を奪うように暴れた。
近くの村人は次々と行方不明になった。井戸に落ちる者、川に飲み込まれる者、雨の中で溶けて消える者。
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ある夜、鏡の前で自分を見た。
水のように流れる自分の手、透き通った皮膚の下に渦巻く青い光。声が聞こえた。
「もっと……もっと水を集めろ」
私の意志ではなく、世界の水そのものが命令しているようだった。恐怖よりも先に、指が勝手に動く。村を、森を、河を、湖を操り、すべての水が私の周囲に集まった。
水が私に囁く。
「孤独だ。孤独でいてくれ」
気づくと、私は森の中心、巨大な水の塊の中に閉じ込められていた。意識はあるが体は水に同化し、自由に動かせない。恐怖と孤独だけが、体を包む。
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最後に、夜空に雨が降る。降る雨は私の涙ではない。
世界の水が、自らの意思で私を監視する。
この異世界で、水を操る能力者として生きる――いや、もはや生きてはいない。水に飲まれた意識だけが、永遠に渦を巻くのだ。