第8話〜裏譲並〜
円卓での緊迫した議論が続くその裏で――
とある“死にかけた都市”に、一人の少女が足を踏み入れていた。
ヴァーネ陣営のアジトのひとつ廃ビル群にヘイラが入る。
「本当にここ日本か?」
「って思うくらい廃れてるね…」
地図の端すらも塗り潰されている山奧の廃ビル群。
かつては日本の心臓ーその名も東京都ー
250年前に勃発した戦爭により、都市機能は崩壊し、人口の大半が立ち退きを
余儀なくされた。
終戦後、「善」によって始まったウロボロスの建國によって
都市圏の若い失記者、健常者の5割がウロボロスに移行したー
善の影響力の強大さは當時の日本社会の構造の根本から覆されたー
現在の首都は福岡に移行されている。
今は東京都ではなく、殘された地。
記憶の墓場と呼ばれているー
「…ただいま。」
ヴァーネの廃ビル群のひとつの一軒家に入る。
「おぉ!ヘイラ!どうだった?ジユは?殺せたか?」
右目に十字架の傷がある男がそう問いかける。
「ウカ。ダメだったわ。ジユは強大過ぎる。」
「平行世界に飛ばしてもなお、平気で帰ってくるのよ?有り得なさすぎる。」
「わはは!!それはおかしすぎるわ!!!」
「でもワシはヘイラが帰ってきて嬉しいぞ!」
「なんせたった一人の娘じゃからな!」
もう一人の男が玄関に入ってくる。
「ハァハァ…なんで変死死体を持って帰らなあかんねん…」
気弱そうな男がネガティブな発言する。
「おぉ!息子よ!帰ってきたか!救済の遺體も持って帰ってるの偉いぞ!!」
「うげ、、なんでこんなの持って帰んの…」
「救済はな…遙か昔、“絶対継承”の呪いを受け、それでもなおここに“還ってきた”。」
「たとえ先代の罪であろうとも…この呪いに応えねば、ワシが“生きる意味”がない。」
「ま、なんて言ってみたけどな!ただワシがやってみたいだけじゃ!」
「でも…バラバラにされてるんでしょ?復活とか無理でしょ。」
「なぁに。ワシに任せろ。」
バラバラにされた死體をひとつの肉體に結び上げる。
そしてウカは手に白いオーラを込めて救済の遺體に放つ。
眉ばい光が成る。
そしてー
デッデッデッデッデレーとどこかで聞いたような音と共に復活した。
「まてぃ!!!!!!明らかに水道管員の音に聞こえるんだけど!!!!」
ヘイラが強めのツッコミをかける。
「ジジ…」
「おぉ。復活したか!救済!ここはヴァーネじゃ!!」
「なんでジジ?僕ジジを呪いかけジジ人間が救う?ジジ」
「落ち著きな。ここに來たからにはもう俺たちは家族だ!」
「ヴァーネ組合人5万名全員家族じゃ!」
「ジジ…家ジジ…族…?そんな物は…ジジ…要らない…僕の…目的は……全ての魂の統合……ジジ」
「おぉおぉ、怖い怖い。でもそれでいい。それでこそ“救済”。」
「協力してくれるか?」
「ジジ…やる…」
ウカはニヤリと笑う。
その様子を見ていた息子と呼ばれてた人がぽつりと問う。
「父さん。愛の一族の引き抜きはしないの?」
「……あの一族は手に負えん。」
「短命すぎるしすぐ永久束縛の呪いの條件に満たして自滅するし。」
「先代のウカは…何を思ってあんな呪いをかけたのかのぅ……ほんま、笑えるわ!」
その倫理観の壊滅具合を面白がるように、ウカは喉を鳴らして笑う。
「――善が死んだ今、ウロボロスは“譲渡”に対する本格的な対策が出來ておらん。」
「しかも…善が先代を縛った“否譲渡の契”すらも、彼の死と共に消え去った……」
「ならば今こそが“攻め時”じゃ!!」
「でも、ウロボロスはヴァルキュリアの連携が強い。」
「警備も他の國に比べて強固よ?」ヘイラが問いかける。
「フフ…普通のやり方なら、そう感じるじゃろうな……」
「だが――ヘイラと息子の力、そしてワシの力を合わせれば……」
ウカの顔に、不敵な笑みが浮かぶ。
「“強固な壁”など、笑うほどに脆いんじゃ!!」
「題して……チキチキ!移民レースジャァァァ!!!」
――
靜寂が戻った闘技場の片隅のベランダで
セイムは、一人、項垂れていた――
タバコの火を付けようとライターをカチカチ鳴らすが、火がつかない。
「チィ…こんな時に…」
セイムの橫に別のライターを差し出される。
「ほれ。ライター。」
その人物は社医だった。
白衣の片隅に僅かなタバコのヤニ汚れが付いてたー
「社醫か…医者なのにタバコ吸うんか…」
「医者だからこそだよ。吸わないとやってられない、この業界は。」
「常に他者の生と死の巡り合わせだ。常人でさえ潰れる時も多いのに、失記者のカウセリングもあるんだ。常に勉強の日々だよ。」
「ワシを……茶化しに來たんか?」
社醫は何も言わず、靜かに煙を吐き出した。
その煙はまるで、返答の代わりに――
心の底の鬱憤をこぼしているようだった。
「それもちょっとあるけど…」
「本命は時宗とカノウのライムだよ。,セイムの心と身體が限界近い,とね…」
「余計なお世話だ…」
「真面目なほど、人は壊れやすい。……セイムさんも、そうだよ。」
「……空ちゃんが産まれる前の記憶、まだ思い出せてないんでしょ」
セイムは、何も言わなかった。
ただ煙だけが、晴天の空に溶けて行った。
「記憶を封じるほどの……重い過去が、あった。としか言えない。」
「時宗たちは、君に気を使って、過去を調べようとはしない。でも――」
「私は、知るべきだと思ってる。」
「それに君は、“魂の分離”までできる。
あれは魂の自己理解がないと扱えない応用技術だよ。」
「だからきっと、君なら……過去を受け入れられる。」
そして社医は、最後に煙をもう一度吐き出してから、
何も言わず、ベランダを後にする――
セイムは少しの間沈黙しー
涙を流したー
社医は遠くから見つめ、後にしようとした時ー
「あ!社医!!!セイムさんに言ってくれた!?ほんと私じゃあ気の利いた事が出来ないんよ!!ほんと助かった!!!」
時宗がセイムに聞こえそうなくらいの声量で話しかけてきた。
「待って!待って!!シー!シー!!聞こえちゃうから!!」
時宗は、いつも軽やかな口調で人を和ませる。
けれど、その内には火傷するほど熱い情を抱え、
人の痛みに寄り添い、影で支え続ける――
まさに、“人の上に立つ者”として、誰よりもふさわしい男だった。
つづく。
年末年始なので、30日〜1月3日まで毎日投稿します。




