第1話 健常失記者
僕は、幸せな一時を過ごしていた──はずだった。
コンビニのバイト、少ない収入、特に夢もない。
でも、彼女ができただけで、人生は一変した。
映画を観た帰り道。
笑顔の彼女と、なんてことのない話をしながら、
「このまま時間が止まればいい」とさえ思った。
……その瞬間だった。
視界が急に暗くなり、
何かが口を塞ぎ、腕を押さえつける。
声が出ない。呼吸ができない。
脳だけが、空の名前を叫んでいる。
「……空……おい……やめろ、誰だよ……!」
暴力。罵声。
そして──悲鳴。
彼女の叫びが、喉を焼くように響いた。
やめろ、違う……あの笑顔を返せ──
瞬きの間に、誰かが彼女の──
「……やめろ……っ……返せよ、空を……っ」
返事は、皮肉みたいな喘ぎと、
肉を打ちつける湿った音だった。
世界が、千切れた。
意識が遠のく寸前、確かに聞こえた。
「もう……だめ……みたい……あなたに、全てを……捧げる……」
……気づいたら、病院だった。
起きたはずなのに、誰かの人生が頭に流れ込んでくる。
白じゃない“誰か”の記憶。
体を起こすと、脳に杭を打たれたような頭痛が走った。
見たはずの記憶と、知らない映像が、頭の中に流れ込む。
……これは僕じゃない。
けど、そこに“白”がいた。
空と過ごした日々が、別の視点で見えてくる。
失記者──死亡時に、記憶を他者へ譲渡できる存在。
つまり空は……死んだということになる。
でも、空は失記者じゃなかったはずだ。
「空は……普通だった……だろ……」
なのに、なぜ。
なぜ? なぜ? なぜ? なぜ───???
なぬしむろもH~r)/(,hさなつころむ)らぬた??
をてりのーるゆれ?ゆゆる??る
胃の中が裏返り、吐き出す。
駆け込む看護師。血の気の引く顔。
医師を呼ぶ声が遠くなる。
嘔吐物が広がるベッドの上で、
僕の意識は、また──沈んでいった。
趣味で書いてる人です。
皆様に楽しんで頂けれたら幸いです。