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第9話 職業詐欺?

六本木の駅に着いたので人混みの中をすり抜ける。


九時を過ぎて、分祠についたときには参拝客が絶え間なくいらしていた。


階段を登ればもうすぐに煌びやかで立派な拝殿がある。ちょうど客足が途切れた合間を見計らって、二礼四拍手一礼をする。


うっかり二拍手しそうになるけれど出雲大社はこの四拍手が礼儀。名乗り、ご縁を頂けるように、この日本の人々が幸せになれますよう頑張りますとご挨拶をする。


少し待ってみたがやはり反応はなにもなかった。


落ち込み、一礼をして社務所の横を通り過ぎ数歩戻って立ち止まる。


お守りが並んでいたので静子様のためになにか買っていきたいけれど誰も見られないんじゃ買えない。お金だけ置いて帰るのも気が引ける。


でも色々な、色とりどりのお守りは見ているだけでも楽しい。どうしよう。


「あら。あなた・・・・・・」


二人いらした巫女さんのうち、一人が私をじっと見つめている。


一応振り返ってみるが、参拝客はそこにはいない。やっぱり私を見ているのだ。


視認してくれる人がいた。嬉しさのあまり笑顔になった。


「着物、素敵ね。お母さんはどうしたの」


巫女さんが出てきて私の前に立つと目線を合わせるためか屈み込んだ。


人間の子供だと勘違いされているのだろうか。


「ここへは参拝をしに? 一人で来たの」


もう一人の巫女さんがなにをしているのかという様子で私たちを遠目から眺めている。


「えっと」


この神域で神と名乗っていいものかためらう。しかしトクさんの「自信を持ったら」という言葉を思い出すと、それが言霊となって背中を押してくれたように感じた。


本当に背中が温かくなったのだ。大国主命様にもアピールするチャンス。堂々と名乗っちゃおう。


「千福と申します。幸福神として神様がたとご縁を頂けるよう尽力しているところです」


「神様?」


巫女さんは信じていないのかクスッと笑うが、もう一人の巫女さんが肩を掴んで「なにをしているの」と言ったところで我に返ったようだ。


「え、ここに子供がいるよね」


「いないけど・・・・・・」


「まさか、この子見えてない?」


「私にはなにも見えない。霊感あるんだっけ? そこに子供がいるの」


巫女さん達の間に妙な沈黙が生まれる。私が見えるほうの巫女さんは焦った表情になる。


「え。幽霊・・・・・・?」


「い、いえ。幽霊ではございません」


「なら本当に、神様?」


手水舎の水の流れる音が聞こえている。巫女さんは大層驚いた様子で何度も私ともう一人の巫女さんを交互に見る。


「私は花松町という土地から生まれた修行中の神でございます。お守りを頂きたくて」


「へえ。神様なんだ・・・・・・小さい・・・・・・へえ・・・・・・」


巫女さんはえらく感心したように私を見つめ、立ち上がると頭を下げた。


「神様とは知らず、大変な失礼を致しました」


「あ。いえ、大丈夫なので」


頭を下げることはあっても下げられるのは恐縮する。


「神様が神社のお守りを買うなんて珍しいですね。お守りはどなたに」


「私の大切な人に」


よかった。視認してくれる人がいたから静子様にお守りを買える。なにがいいだろう。


社務所に並べられているお守りの数々を見つめた。


「こちらの縁結びのお守りを頂けますか」


私なんかよりももっと大きな神様からのお力添えが静子様には必要だ。


過去を癒やすためのご縁。お友達を作ったり、会社の人々といい関係を結べたりするようなご縁、お仕事のご縁、神様とのご縁。


静子様と様々なご縁を繋ぎたくてオーソドックスな赤いお守りを買うことにした。千円を渡すと、私が見えるほうの巫女さんはにっこりと笑った。


「お名前覚えたから。あとで神様にも、知り合いにもお伝えしておきます」


「よろしくお願い致します」


お守りの入った袋を頂くと、巫女さんに手を振って神社を去った。


ひとつでもいいことがあればそれは私の幸せ。


でも神と名乗ったのは職業詐欺?

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