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第76話 夏の終わり

東京大神宮には気高いご神気が満ちていたのに対し、こちらは独特で、独自の雰囲気を感じる。


というよりあの時お会いした晴明様の気をビシビシと感じる。


左側には晴明様の銅像が飾られている。私はその銅像をまじまじと眺めながら、感謝の気持ちを込めて深くお辞儀をした。


そして拝殿へ向かい、再び謝辞を述べる。


晴明様は私たちを助けて下さったばかりか、初めて私を神と認めて下さった。


感謝してもしきれないおかただ。ご尊顔を拝謁することはできなかったが、気配を感じる。本日はこの場に鎮座されている。


私はこれまでのことを報告し、本格的に神となるとお伝えする。


すると、静かな空間の中ではっきりと声が聞こえた。


「見違えるほど大きくなったな。どこかでまた会うこともあるだろう」


嬉しくなってはい、と応える。


晴明様はちゃんと人々の心のうちを聞いて下さっているのだ。


「どうしたの。なんか笑顔だけれど」


静子様が言う。


「晴明様からお言葉が返ってきました」


「素敵ね」


「静子様はなにか感じられますか」


静子様は少し考えるように天を見上げられた。


「そうね・・・・・・多分見守って下さっているのだろうと。私が以前お伺いしたとき、ちゃんとお願い事も聞いて頂けたみたいだし。だからこうして千福がいる。きっと晴明様ってお優しいかたなのかもしれないわね」


「はい」


晴明様に話したいことはたくさんあったけれど、他の参拝客の邪魔にならないように私は一礼し、静子様と晴明神社をあとにした。静子様の表情には疲れが浮かんでいた。


「軽食、とりましょうか」


体調を心配し言う。静子様は頷く。


軽く食べると、京都から花松町へと舞い戻る。


限られた時間の中、静子様もなんとか私の願いを叶えようとして下さっている。


静子様は翌々日、銀次さんとの約束をまた断って成子天神社や五條天神社へ共に行っ

て下さった。銀次さんは静子様の話をしっかり理解していらっしゃるようだ。私と過ごす時間を大事にと話して下さっているらしい。


七福神様達は気を遣ってか今日はお姿を現わさない。


そうして五條天神社でもあの時のように大己貴命様や少彦名命様をお見かけすることはなかったけれど、静子様は熱心に祈りを捧げていらっしゃる。


きっと命を助けて頂いたお礼を述べておられるのだろう。その祈りが、最後。祈りを終えて、静子様は私に微笑む。私は微笑みを返した。


全ての願いを短期間で叶えて頂いた。


これ以上我儘を申し上げるわけにもいかず、帰り道を大切に大切に、静子様と歩いた。


あれだけ生い茂っていた上野公園の木々も、今では夏の日光を浴びすぎて枯れ始めている。

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