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第75話 熊野那智大社

ヤエさんは、私の手をそっと掴んだ。


「大丈夫でございます。私は千福様のことをずっと忘れません。妖怪は人よりも数十倍長く生きます。だから何百年先も、私は千福様のことを覚えていられます。たとえお姿が見えなくても、私はきっと先ほどのように千福様の気配を感じ取ることができましょう」


「ありがとうございます・・・・・・」


みんな優しい。みんな、綺麗な心で私と接して下さる。


バスは十五分もしないうちに、那智大社の人気のないところで停まった。降りると、二人はまた人の姿に戻る。


「では、よい旅を」


「ありがとうございました」


ヤエさんも父狐も、人の姿のまま去って行く。


「熊野那智大社って世界遺産なのよね。初めて来たわ」


「行きましょう」


静子様の袖を引き、共に大きな鳥居を潜り階段を登る。神域だ。即座にそう思う。


ここには何人もの神様がおられて、この土地をお守りしている。強くそう感じた。天狗になにもしなかったのは、穢れると放っておいたのだろうか。


まあ、神様達もお忙しいのかもしれないから、天狗などに構っている暇などないのかもしれない。


階段を登って登って登り切った先には、絶景が見渡せた。晴れた空に黒っぽい山々が見渡せ、なんだか飛んでいるような気分にもなる。静子様も見晴らしの良さに少し感動したご様子で、一礼をしてからデジタルカメラに納めていた。


鳥居を潜ると、熊野那智大社の拝殿が見える。


第一殿から順繰りに、事前に調べておいた神様の名前を呼び、自己紹介をしていく。大己貴命様は第一殿にいらっしゃる。真っ赤な建物にも、強力なご神気を感じられる。私は粛々とした気持ちで、何度も何度も日頃の感謝の気持ちと共に静子様のことをお守り下さるように頼んだ。


「やっぱり神様にお祈りすると心が鎮まるものね。特にこういう自然の豊かな場所だと」


静子様はどこか遠くを見つめてそう仰る。災難が続いたお若い頃に、何度も何度もこうして神様にお祈りしていたのだと思うと、苦しくなる。


どれだけの神様が、その祈りに応えて下さったのだろう。


大山咋命様や、恵比寿様、大国主命様は気にかけていらしたようだけれど、静子様の祈りを無視した神様も中にはいらっしゃるのだろう。


どれほどの思いが募って私を誕生させたか、その心中を思うとやはりこれからの人生はこれまでの人生を覆すくらい幸せなものになって欲しいと願う。


静子様は御朱印を頂くと言って社務所へ向かわれた。


待っている間、幸守りを買うことにした。静子様に幸福がたくさん訪れますようにとの願いを込めて。


「とてもいい場所でございます」


仁が言った。


「私もそう思います。千福様、本格的な神となられましても、私たちをこのような場所へ連れて行って下さいますか。妖であった頃は、私たちは廃神社にしか近寄れませんでした。ですのでこうした場所は私たちにはまだ経験が少なく・・・・・・」


寿が頭を垂れて言う。そうだ。神の仕事は忙しくなるのかもしれないけれど、この二匹と共に色々なところを連れて回らなくちゃ。 


「うん、そうするよ」


御朱印を頂いた静子様が私の前へやってくる。私はお守りを静子様に渡した。


ありがとう、そう言って微笑むと少し散策をして駅まで戻り一泊する。朝、今度は京都まで行ってホテルで一泊する。移動時間が長く、京都に着く頃にはもう日が暮れていた。


ホテルでのひとときを二人で楽しみ、翌日は早速晴明神社へと向かった。


晴明神社は独特な趣があり、鳥居には金色の五芒星が輝いている。


一の鳥居を潜る。旧・一条戻橋や式神の像を見る。この式神は、まだ具現化して晴明様にお仕えしているのだろうかと思う。


二の鳥居を潜って手水舎で手と口を清め、境内の奥へと進んだ。本殿は丸みを帯びた屋根に、歴史を感じさせる時代劇で見るお屋敷のような建物。


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