第74話 再会
ホテルに一泊し、花火の夢を見た。
たくさんの人々が笑っていて幸福を感じた夢。
静子様に起こされチェックアウトすると、名古屋まで行き軽く観光をしたあと一泊し、翌日紀伊勝浦まで行った。
あの時は天狗に攫われ、美穂さんと咲さんを無事送り届けることに必死だったから余裕がなかったけれど、今なら楽しんで景色を見られる。空気は変わらず澄んでいる。
「あれ」
声が聞こえて振り返ると、十三歳くらいの女の子と四十代くらいの父親と思える人が布の袋をぶら下げて立っていた。
「もしかして、千福様ですか・・・・・・大きくなられていますが気配が同じ」
言われて私もすぐに気配を感じ取る。別人の人間の女の子に化けていたので一見しただけでは全く気づかなかった。
「ヤエさん?」
「そう。私、ヤエです。こっちは父です。買い物帰りで」
笑顔でヤエさんに抱きついた。なんだろう、最近抱きつくことが多くなっている。こんな癖、昔はなかったはずなのに。
愛おしいのか、寂しいのか。ヤエさんはびっくりされていたが、強く抱き返し離れる。
「あれからどうですか」
「おかげさまでなにもなく無事です。天狗も一羽も見たことがありません。あのあとお二人は大丈夫だったのですか」
父狐がお辞儀をして訊ねる。お二人、とは恐らく美穂さんと咲さんのことだろう。
「はい。無事に送り届けました」
「それはよかった。その節は本当にありがとうございました。私たちは平和に暮らし
ております。それで今日は・・・・・・」
父狐は静子様と、私が手にしている大きな鞄を眺めている。
「旅行です」
静子様が言う。そうして静子様も私に変わってお辞儀をした。
「私は千福と一緒に暮らしております、小網静子と申します。天狗に攫われた折、千福がお世話になったようで、色々とありがとうございました」
父狐は両手を振った。
「いえいえ、助けて頂いたのはこちらなので。それで、どちらへ向かうのですか」
「那智大社のほうまで・・・・・・」
「ならば私がご案内致しましょう」
静子様が少しばかり私を見た。普通のバスで行くと三十分以上かかるし、仁と寿も恐らく父狐の化けるバスより窮屈を感じるはずだ。それに、静子様にも特別な体験をして頂きたい。
そうすれば、銀次さんとの話題も弾むだろう。
お言葉に甘えることにして私は頷く。すると父狐が人のいないところまで私たちを誘導し、ぶら下げていた袋をヤエさんに預けると例の大きなバスに化ける。
「すごい・・・・・・」
静子様は感嘆され、乗車口から静かに乗った。続いて私、仁、寿、ヤエさん。ヤエさんはどうやら私の隣に座りたかったようなので、私は静子様の後ろに座った。
「発車します。揺れますのでお気をつけて」
父狐の声がする。相変わらず景色がものすごい速さで流れていく。
後ろから見える静子様の横顔は、とても楽しそうだ。
「千福様、そのようなご立派なお姿になられたということは、神としてのお力にもますます磨きがかかったのでございましょうか」
ヤエさんが成長した私を見て不思議そうな表情をするので、お社を頂けることになったと話す。
「では、今度は私たちが千福様のもとへ参っても宜しいでしょうか。人の姿に化けていきます」
ヤエさんも一瞬誰なのかわからなかったほどだ。あれからきっと、化けるのがとてもうまくなったのだろう。練習を重ねたに違いない。
「お社ができたら是非来て頂きたいです。でも・・・・・・私は神になる全ての条件が整ったから、多分姿が見えなくなってしまいます。ヤエさんとこうしてお話しすることもできなくなるかもしれません」
「神社へ行っても千福様にお会いできないのですか」
「このようにお会いすることは。多分、私が一方的にヤエさんのお姿を拝見するだけの存在になるのだと・・・・・・」




