第67話 静子様でさえ
トクさんは私が見えた。
だが椙森さんは見えていない。
なぜ急にこれまで私の姿を見られていた人が見えなくなっているのだろう。
焦って何度も根気強く椙森さんに話しかける。
「いらっしゃ――おや。誰かと思えば千福ちゃん?」
十五分ほどして、椙森さんはやっと私に気づいた。というより私が見えるようになった。
酷く安堵して、笑顔を作った。
「そうです。千福です」
「こりゃ、えらく成長したな。もう千福さんだ。いや、本当は千福様といつも言っていなけりゃならないんだけど、ちょっと前まで小さかったからどうしても千福ちゃんと呼んでしまうな」
椙森さんは腕を組み、笑った。
「椙森さんが中心となってお社を建てることになったとトクさんからお聞きしまして、それでこうしてお礼をしに参りました」
「そりゃ、千福ちゃんのおかげだよ」
どういう意味かと思って続きを待った。
「いつか言ってくれただろう。『派手に使うな。仕事はいつも通りしろ』って。神様のお言葉だからそれを守って、当たった金はなにかのために使おうと思ったんだよ。そうしたら弟も、誰かのために使えって。それで、神社の建設を思い立ったというわけさ」
私の言ったことがこのような形で返ってくるとは。
「感謝してもしきれません」
「また宝くじが二等三等当たった。他にもいいことがたくさんあったんだ。だから立派な神様になってくれ。弟が今度、千福ちゃ――様に仕えることになるから」
「はい。その話もトクさんからお聞きしました。聞いた話だとこの街は恵比寿様も見守って下さっているようです」
「なに。本当か?」
「はい。見守っているだけと仰っていましたが恵比寿様のご加護もあるのかもしれません」
「なら、恵比寿様も同じ敷地内でお祀りしたほうがいいのかな」
「恐らく・・・・・・」
「わかった。なら、急遽、相殿としてお祀りしよう。あとで建築士さんに連絡を入れる」
はい、是非そうして下さい、と言うとメロンを渡された。
「もらってよ」
「いいんですか」
「福は福をもって還元していかないと」
メロンを持って、何度もお辞儀をして早々に家へ帰る。手足が裾から長く出てしまっている着物では落ち着かない。
いつか静子様が買って下さった、大人用の着物に着替える。
そういえば、胸も膨らんでいるような――。
以前浴衣や着物をしまいながら不安になった「行き着く先」の「先」がもう実現されようとしている。
七割嬉しく、三割寂しい。椙森さんが一時的に私の姿が見えなくなったのは、多分神様としてのゴールができたからだ。
そのうち、誰も私のことが視認できなくなるのだろうか。なら、静子様は?
メロンを冷蔵庫に入れると、いつもどおり街の少し困っている人々を助けることに奔走した。
私のことが見えなくなっている人も中にはいて、それでも手を貸すことはできたけれど、もうこれまでどおりにはいかないという感情がどこかで芽生えていた。
三割の寂しさが、暗い感情を伴って心の中を広がっていく。心はなにも変わっていないのに外見だけは成長してしまった。
夕方になってスーパーへ行く。夕焼けの寂寥感が私の心を揺さぶる。晩ご飯の支度をして、蝉の鳴き声から鈴虫の鳴き声が聞こえてくる頃に、静子様は帰宅なされた。
すぐに駆け寄る。
「お帰りなさいませ。私、こんな外見になりました」
素通りされて、心がつきんと痛んだ。




