第6話 一人前になりたい
私の存在が、静子様に降りかかる災いを払いのけているらしいことは以前に聞かせて下さった。
だが、なぜか静子様は友達も恋人もおらず、圧倒的に孤独に思えるのだ。一人前になったら、今以上に静子様を幸せにできるのだろうか。
「神社、どこへ行く予定? 私は一緒に行けないけれど大丈夫」
「まずは近場から。東京のほうへ行ってみようかと思っています。天津神様のいらっしゃるところから回るのが礼儀でしょうが、多分そうした神様のお姿は見られないでしょう」
日本の神様にはざっくりと分けて天津神様と国津神様がおられる。
天津神様は天の高天原におられて、国津神様はこの地に足を降ろし国造りに貢献された神々だ。
きっと天津神様は気高く、誇り高いから私のような神モドキは虫けらみたいなものなのかもしれない。
でも頑張ろう。
「千福には苦労させちゃっているかしら」
「いいえ。苦労などなんのその、です」
静子様は微笑む。
「真面目で、素直に育ってくれてよかった。色々な神様とご縁ができるといいわね」
「はい。私もそれを期待しております」
「ところでこのグラタン、とっても美味しい」
顔を見てほっとする。料理を食べている間は幸せそうだ。
「日々暑いですが、グラタンでよろしかったでしょうか」
「もちろんよ。千福が作ったものならなんでも食べるわ」
「明日はなにになさいましょうか」
「千福の好きなもので」
「ではリゾットかハンバーグがいいです」
意気揚々と返事をしてしまった。私の好きな食べ物。
静子様が全て食べ終えたので、食器を下げる。
「お風呂も沸かしてあります。十分にお休み下さいませ」
静子様はふと口元を緩める。
「召使いじゃないのだからそんなことしなくていいのに」
「いいえ。これも修行の一つと考えています」
「本当は私が神様のためにやらなきゃいけないことなのに、つい甘えちゃう。だめね、私」
「構いませんって」
修行の一つ、とも考えているが静子様が少しでも心安らかになれるように、家のことも完璧にこなしておきたかった。
なぜなら静子様は夜、睡眠薬を飲んで眠っていらっしゃるから。
静子様が悲しい過去を忘れられるくらい、一人前になって幸せにするのだ。