第51話 大国主様と少彦名様
「よし、これで縛りが解けた」
特に変化は感じられなかったけれど、大国主命様は突如大きな金色の打ち出の小槌を出現させた。念じれば具現化させられるものだろう。
「大己貴ではこれが出せんのだ」
小槌を大きく振り上げた。左の掌に緑色の液体の入った縦五センチほどの小瓶を出
す。
「打ち出の小槌・・・・・・大黒天様と同じ?」
「本来は持っていなかったのだ。わしと大黒天は本来別物だが大国と漢字が同じように読めるからと同一視する者もおる。そうした人々の信仰心からわしも持てるようになった。だがこいつの起源はもともと大黒天のもの。感謝しなければならぬ」
小瓶をそっと渡して下さる。
「それはわしと少彦名で数百年をかけて研究し続けた秘薬だ。人間が飲めば死んでも二十四時間以内であればたちどころに蘇生しなんの後遺症もなく元気になってしまうほどの貴重なものだ。死んでも喉を通るのだ」
「これを下さるのですか」
「国忍富の詫びも兼ねてな。そなたの主を助けてやれ。出雲分祠で守り札を買ったであろう? あの子は信心深くよくわしの名のある神社にも祈りに来ていた。だからわしも顔を覚え、そして以前より注目していた。守り札から気配を感じることができて、今朝静子の身になにかあったと悟った。あの子にかけられている祟りも、それが効けば溶けてなくなる」
「祟りとは、穢れのことでございますか」
「さよう」
やはりかつて先祖がなにかして、子孫に呪いがかかっているのだろう。
「静子様のご先祖様は一体なにを」
「静子の穢れは、子孫の繁栄を好まない先祖の祟りだ。母方の系譜にかつて父方の実家のほうから酷い目に遭わされた者がおり子々孫々まで祟り一家皆殺しにしてやるとすさまじい怨霊になっている者がいる。半ば魔物化しておるのだ。しかも普段は血液の中に巧妙に隠れておる。静子の両親は、先祖の因果が原因で結婚してしまったのだろうな」
巧妙に隠れているから力のまだない私には気配さえ感じ取れなかったのだろうか。
「その魔物がいる以上、穢れとなっているから我々も迂闊にあの子に手を出せなかった。だがおまえさんがいるおかげで、その魔の力は少し薄らいでいた。おまえさんがいなければ静子もとうの昔に死んでいただろう。ただそれも限界に来たようでな。おまえさんの影響のないところで、隙があれば静子を殺そうとしている。最後の一人だと喜びながら。本当は、出張中も危うく事故に遭いそうになっていたのだよ」
「まさか、それを助けて下さったのは」
「鞄につけていた守り札が働いた。縁結びの効力はあまり発揮しなかったがな」
「ありがとうございます・・・・・・やはり守って下さったのですね」
全てを見通しておられるかのように、大国主様は続ける。
「まあ過ぎたことはよい。今回は守り札も効かなかったようだしな。脳に溜まった血。あれは人間界の医学上名のつくものでも、祟りの仕業――いや、人間の怨霊が魔物化した仕業といったほうが正しいか。だからその薬はよく効く。飲ませれば浄化もできるであろう」
血に感じた邪悪さは祟りの権化。隠れるために血脈として存在している。なぜ子孫の幸せを願わない先祖などがいるのか。
しかし今は静子様のお命を優先させなければ。この貴重な薬で助かり、祟りや呪いや魔物が浄化されるというのならこんなにありがたいご助力はない。
が。
人間が飲めば失われた命を二十四時間以内に回復できるなら、半分くらいは亡くなった運転手に分けられないものだろうか――。そうすれば運転手も助かる。
「なにを考えている」
見通されたのかもしれない。少彦名様が問いかけられたので、私は思ったことを話した。
「半分に分け使うことはできぬ。それに運転手は生き返って幸せなのか」
「・・・・・・・・・・・・」




