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第49話 大山咋命様

私は今、負の思考に支配されて憎しみのあまりこの神域の中で堕ちそうになっていたのだろうか。


なんと愚かなことをしようとしていたのだろう。数秒目を閉じ心を無にする。


目を開けると影が差していた。


ゆっくりと顔を上げる。そこには、上品な紫色の和服を身にまとった丸顔の男性のお姿があった。お優しそうな顔で私を見ている。


そのお顔を拝んだ瞬間、渦巻いた憎しみが一気に浄化された。


「黒い気が放たれておったぞ。まずは立ち上がり息を整えるとよい」


謝り、言われたとおりにする。そうして見上げた。


身長は百六十五センチくらいだろうか。見た目は人間年齢では五十代くらい。


だが、お優しいお顔の中にもとても長い間生きて世の中を見てきたかのような貫禄がある。


「大山咋命様でございますか」


「いかにも。そなたの必死さが伝わってきた。そして静子が事故に遭ったことも知っている」


緊急事態だからお姿を見せて下さったのだろうか。


「はい。一体どうしたらよいのか皆目見当がつかず・・・・・・」


二つの影が、長く神社の石畳に伸びている。


「私も静子を助けたい。毎日毎日祈りに来るその姿が愛しくてな。この地へ引っ越してきてからは、静子は仕事で大事があるとき以外は欠かさず来てくれていたのだ。だからいつも見守っていた。が、あれは生まれながらにして強力な不幸体質を持っておる」


「一体なぜ・・・・・・なぜ静子様は災難ばかり」


「災難というならば、それは亡くなった家族皆のほうではないか。生き残ったほうは考えようによっては運がいい、そうは思わぬか」


確かにそれはそうだ。


「ですが、家族を全員亡くされ残されるほうも、深い傷が刻まれるかと思います。残された者が生涯背負っていかなければならない傷があるのなら、それはそれで災難です」


「まあそれも一理ある。希にそういうものが生まれてくるのだ。これまで数多の人々を見てきた。そして不幸体質である人間は一定数いる。先祖が己の利のために魔と契約していたか、神社仏閣で無礼を働いていたか、先祖の祟りにあっているかのどれかが多いな」


では静子様のご先祖様がその昔、なにかしたのだろうか。


「魔と契約すると子々孫々まで影響が及ぶと・・・・・・」


「さよう。契約は何百年、何千年と無関係な子供達まで行き渡る。なにかしら搾取される」


魔を魅力的に感じてしまう人間もいるのだろう。神が聞き届けない願いを、魔はなにかを代償に叶えてしまうこともあるのだ。


「一刻を争います。どうかお力を貸して下さい」


「私は万物発展の守護が得意だ。例えば仕事の成功を力添えすることはできても病には太刀打ちができない」


神様には神様の得意分野がある。大山咋命様ではお助けできない。


ああ、私はまた他の神様のお力に縋ろうとしている。


「ではどうすれば」


「上野にある五條天神社を当たってみよ。医薬の祖の神がおられる。静子に流れる血

――あれについては、私よりなにか知っているかもしれん」


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