第45話 帰路
へえ、と美穂さんは仁を撫で回す。
続いて咲さんも同じように寿を撫でる。
毛並みのよい動物がいたら触りたくなるのは神も人も同じらしい。
二匹とも気持ちよさそうにしている。
「行きましょう。千福様の使いのかたもお乗り下さい」
父狐が外へ出ると、村をギリギリ埋め尽くすような大きなバスへと変化した。
街でよく見かけるバスよりも、全体的に丸みを帯びている。このような術を使えるのは流石に狐だ。
私たちは階段を二段登ってバスに乗る。中は二人掛けの座席が十五席ほどあった。
狐たちが集団でどこかへ行くときにいつも化けているのかもしれない。
美穂さんと咲さんは前から三番目の席へ座り、私はその後ろに腰をかけることにした。仁と寿は通路に座っているが少し窮屈そうだ。
「では行きます」
どこからか声が聞こえると、バスは木々をかき分けてものすごい速さで走った。
小さな木々が倒され、景色が流れていく。
「なんかアニメに出てくるバスみたい。乗り心地もいいし」
咲さんが少し感動した様子で窓の外を見ている。美穂さんも本当だねと笑う。
バスは体感時間にして十五分ほどで、紀伊勝浦駅へと着いた。降りると父狐が人目のつかないところで姿を元に戻す。
朝の光が爽やかだ。空気も澄んでいる。
「私が送れるのはここまでです。どうか無事にお帰り下さい」
「お世話になりました」
私が言うと、では、と今度は動物の狐の姿になって走り去って行く。
朝の静けさの中、美穂さんが呟いた。
「で、どうすればいいんだろ。あ、もう一度親に電話しなきゃ」
二人はスマホを持ち、電話をかけ始める。
咲さんはこっぴどく叱られているらしいが、必死に起きたことを話している。
「・・・・・・えっと紀伊勝浦駅にいるよ。警察に相談した? いや、人に攫われたんじゃないんだよ。天狗に攫われたんだよ・・・・・・本当だって。え? だから天狗。信じて。助けてくれた人がいるから今は無事。その人が送ってくれるって」
咲さんは今にも泣きそうだ。美穂さんのほうの家族はなぜか、天狗の話を信じているらしい。話してすぐに電話を切った。
「親御様になにも言われませんでしたか」
美穂さんに訊ねると、頷く。
「心配はしていたみたいで今日の夜帰ってこなかったら警察に届けを出す予定だったらしいけど、うちは先祖代々いろいろなものが見える人たちだから、あっさり信じて
もらえた」
美穂さんからは安堵した表情が読み取れる。
咲さんもなんとか説得ができたようで、電話を切った。二人はアドレスを交換している。
「帰りかた、駅員さんに聞いてみるね」
美穂さんは窓口へ行く。多分駅員さんは私の姿が見えない。この土地で、神様にご挨拶をしていきたかったけれど二人を送り届けることが最優先だ。私は巾着からお金を取り出す。
「これで切符を買って下さい。二人とも。私の分も買って下さると助かります」
「でも・・・・・・」
遠慮気味にして受け取らない二人に私は言った。
「お金がなくては帰れないでしょう」
笑顔で言うと二人はお辞儀をし、お礼を言って両手で受け取ってくれた。
咲さんと美穂さんは自由席の切符を買うとホームに立って特急が来るのを待つ。
仁と寿の切符代は、時間が経たなければ見つからないところに置いておいた。
午前八時過ぎ。
この時間なら名古屋行きの特急があり、そこから塩尻経由で茅野まで行ける。
三時過ぎに到着の予定だ。そして茅野からは乗り換えなしで東京駅まで行ける。
十万で事足りる。お金、余分に持ってきてよかった。




