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第4話 幸福神のお仕事

さて。今日の夕飯はなににしよう。


ご飯作りは私がいつもしている。家計も預かっている。


今日は静子様のお好きなグラタンにしようか。それとも暑いから冷やし中華がいいかな。


でも冷やし中華だといくら夏とはいえ静子様の体が冷えてしまう。冷えは万病の元なのだ。野菜サラダをたっぷり作って。 


人間の――静子様の栄養を考えるのも私の役目だ。


街に困っている人はいないかと散策していると、ベビーカーを押しているお腹の大きい奥様が目の前を通り過ぎようとしていた。


三丁目の団地に住んでいる寶田たからださんだ。アスファルトの路上で赤ちゃんはぐずっており、寶田さんは立ち止まってあやそうとしている。


赤ちゃんには耐えがたい湿度なのかもしれない。 


すぐに駆け寄り、赤ちゃんにいないいないばあをすると、赤ちゃんは急にきゃっきゃっと笑い出す。純粋無垢な笑顔にはこちらまで癒される。


「まあ、ありがとう、千福ちゃん」


寶田さんは笑顔で言う。


「この子は何歳になりますか」


「一歳半。この前走れるようになったのよ」


「もうお兄ちゃんですね。ベビーカー押しましょうか」


「大丈夫」


寶田さんはお腹をさすった。


「そろそろですね」


生まれてくるのは多分男の子だ。そういうのはなんとなくわかる。二人とも男の子。


人間が男の子二人を育てるのは体力的に大変だと町内の人から聞いたことがある。ただ育て甲斐もあるらしい。


「流石、わかるのね。千福ちゃんのおかげで元気な子が生まれそう」


「きっとそうなります」


赤ちゃんが生まれるのは楽しみ。


「名前、なにがいいと思う? 主人とずっと考えているのだけどなかなかいい案が思い浮かばなくて。千福ちゃんにつけてもらったら元気に育ってくれそうなのだけど」


「考えていいのですか」


「ええ、もちろん。男の子の場合と女の子の場合両方」


赤ちゃんの名前を私が考えてもいいなんて、とても嬉しい。


「そうですね。男の子が生まれるから・・・・・・」


あら、と寶田さんは口元を両手で押さえる。


「お医者様に聞かないようにしていたのに」


しまった、と思った。


「すみません、すみません。言っちゃいけませんでしたか」


何度もお辞儀をして寶田さんを見上げる。仕方がないといったようなおおらかな表情で笑っておられる。


「神様はなんでもお見通しね。もうじきわかることだしいいわ」


「すみません」


「大丈夫、大丈夫」


名前、なにがいいかな。男の子と言ってしまった代わりにすぐ考えよう。


「季節も今六月ですし。夏生まれになるから・・・・・・」


夏のパワーを存分にもらえそうな名前。元気に育ちそうな名前。


「夏樹君はいかがでしょう」


言うと風が吹いて街の中の木々が一斉にざわついた。これは大丈夫と言っている証拠だ。


「名前はシンプルなほうが邪気を寄せ付けません。それに夏という季節が後押ししてくれて、木々が生い茂るように、すくすく成長するかと存じます」


寶田さんは微笑む。


「寶田夏樹か。いい名前かもしれないわ。ありがとう。ならこの子が生まれたら千福ちゃんに産土神になってもらおうかしら」


他にもベビーカーを押している五丁目の奥様が通り過ぎていった。顔見知りではないのか、特に寶田さんもその奥様も反応しない。


「ムリです」


「ええ」


残念がらせてしまった。


「私はまだお社を頂けていないので、産土神にはなれないのです」


「そうなんだ。そっか。まだ修行中だものね」


「なにか他に手伝うことはありますか」


「いいえ。これから友達に会うだけだから」


「楽しんできて下さい」


「はーい」


寶田さんは笑顔で手を振り去って行く。明るいお人柄だから、友達も多い。


そうだ。神様がたと人脈を作ってみよう。街から出て神社巡りをしていけば、いつかきっと、どなたかが姿を現して下さるかもしれない。


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