第18話 眠れない
時刻は午後十時四十分。
「仁、寿。私達ももう寝ようか」
「はい」
「でもその前に」
「なんでしょう」
仁が言うと、私はにこりと笑った。
「撫でさせて!」
仁と寿を撫で回した。洗ったあとだから撫でると本当に気持ちがいい。
胴に顔を埋めると、寿はびくりと体を動かす。
「千福様、もうその辺で。勘弁して下さい」
「えへへ、もう少し」
撫で回されて既にへばっている仁と寿を、構わず堪能させて貰った。
静子様のためにできることはしたい。静子様の起きる前に準備をしなければ。
それに今日は疲れている。私も早く寝て心身を回復させよう。
う。眠れない。
仁と寿はぐっすり眠っているが、部屋に全長五メートルほどの狼が二匹もいると圧迫感があってやはり息苦しい。
部屋は既にぎゅうぎゅうで、寿の胴は扉を開けて廊下まで出ている。やっぱり部屋は別にして貰おう。
仁と寿に背を向けて少しでも早く眠れるように心がけるものの、神経が冴えてしまって出窓のレースのカーテンを眺めているうちに空が白みだし三時半になってしまった。
仁と寿はまだ寝ている。起こさないようにそっと部屋を出てリビングの明かりをつけると、朝食の準備をした。
スクランブルエッグにソーセージ。静子様から教わったことのあるレシピだ。
あとは昨晩のご飯の支度をしているときに余分に作っておいたサラダ。仁と寿には頂いた鰯を焼いて、食べやすいように細かく砕く。
私自身色々なかたから福を分け与えられているけれど、仁と寿も新たに加わって、静子様の経済の負担にならないだろうか。それがちょっと心配だ。
「いい匂い」
静子様が四時少し前に起きてきた。
「準備をしているのでお待ち下さい」
「寝ていていいのに。私がやるから」
「眠れなかったので。それに、私がやりたくてやっていることですので」
「ごめんね、いつもいつも」
「気に病まないで下さい」
仁と寿が慌てたようにやって来て、私のもとへ立った。
「主より遅く目を覚ますなど不覚をとりました。どうか罰して下さい」
「私より遅く起きたからって罰したりしないよ」
仁と寿のご飯を置く。なんだか家庭内に奇妙な序列関係ができてしまっている気がする。
私は静子様に敬意を払う。そして仁と寿は私を主として、畏怖でも抱いているかのような行動をとる。静子様に普通の砕けた口調で話すのも気が引ける。
どうしよう・・・・・・。まあいいか。しばらくはこの調子でいこう。
「ごちそうさま」
静子様は五分以内に食べ終え、支度をするとあとはよろしくねと言って家から出て行く。
今日も静子様が無事でありますように。
「私たちも、氏神様のもとへ行こうか」
夏の朝の、四時か五時頃の澄んだ空気の中には、魔がいない。強烈な太陽の光で浄化されてしまうのだ。だから神社へ行くのにはもってこいの時間帯だ。
「かしこまりました」
街はまだ静かだ。