第16話 お守り
静子様は二匹を見て目を丸くされている。
契約関係にあるから見ることができるのだろう。
紹介すると二匹とも頭を下げ、静子様に名乗った。
「今日から私の使いとなりました」
「よかったわね。へえ、大きい。けど可愛い。毛並みふさふさ」
静子様は二匹を撫で回している。
仁も寿もくすぐったいのか、尻尾を振りつつも首を縮めていた。
「ここに置いても宜しいでしょうか」
「もちろんよ。使いができたなんて本当にすごい」
自分のことのように喜んで下さってから、手洗いを済ませ食卓に座る。私は仁と寿に刻んだ鰹を皿に盛って、床へ置いた。だが、口をつけようとはしない。
「食べないの」
「千福様が先に食べてからでございます」
「気にしなくてもいいのに」
「いいえ」
序列社会は本音のところ嫌いだ。気を遣われるのが煩わしい。
「食べてね?」
言うと私の発した言葉の強制力に縛られたのか、仁と寿は恐らく意識に反して食べ始
めた。私は静子様がハンバーグを口にするのを待ってから、箸を持つ。
「美味しい。それで、今日はなにがあったの。聞かせて」
「はい」
今日一日の出来事をお話して、ふと思い出した。
「そういえば仁を治すときに、私の手から金色の光が出たのでございます。あのような不思議なことは初めてでした」
あれはなんだったのだろう。
「それは多分、千福の神通力が上がっているっていうことじゃない。日々誰かを助けているでしょう。今日だって妖怪を助けた。それが少しずつあなたの力となっているのかもしれない。金色って、いい色よね。千福はそれだけ神様の資格を備えているっていうことよ」
「私の通力が強くなっていれば宜しいのですが・・・・・・」
仁と寿は食事をしながら静かに聞き耳を立てている。
「経験値を上げれば、神通力もあがるんじゃないかな。なにより助けたいっていう思いが力を強くしたのかもしれない」
そういうものなのかな。
「あ。明日から七月ね。晴れて暑くなるそう。梅雨も早く明けそうね」
「それは楽しみです」
春と初夏、夏は大好きだ。夏はうだるくらいに暑くなるけれど、空は青く、人々が活気づいて生き生きとする季節。生命が萌えいづる時期だ。夏草の匂いも大好き。
「明日も神社巡りをするの」
「いいえ。明日は茶ノ木様からの頼まれごとがあって、そのおつとめをして参ります」
「私も力になりたいけれど、明日から出張なの。急に依頼が入って」
「どちらへ」
「奈良、京都へ四泊五日」
「三ヶ月くらい前にも京都へ出張に行かれましたよね?」
「それとは別件。お取引先が京都と奈良にいくつかあるのよ。会社の内装を二件ほど、チームを組んでコーディネートしに行かなくちゃならないの。新幹線が早い時間帯のものしか取れなくて四時起き。だから明日は氏神様のもとへ一緒に行けないけれど、留守を任せられる?」
「大丈夫でございます」
「手伝いができない代わりに、京都へ行ったら、空いた時間に神社へ行って千福のこともお話しておくわね」
「ありがとうございます。あ、そうです」
濡れないように必死に胸元で守っていた出雲大社六本木分祠のお守りを渡した。お守りを入れて頂いた紙の袋はやはり大分湿っており、しわができている。お守りも湿っている。
出張ならば交通安全のほうがよかっただろうか。静子様になにかあったらいてもたってもいられない。でもきっと大国主様が守って下さる。
「ありがとう。早速鞄につけさせてもらうわ」
静子様は笑顔で嬉しそうにお守りを鞄に結んでいる。