第15話 策略
「どうしたの」
「なにか我々がすることはございませんか」
どうやら仕事が欲しいらしい。
私はふと考えて、一旦夕飯の準備を中止した。そうしてテレビ台の横に立てかけてあった自由に使えるB5サイズのメモ帳取り出すと、一枚一枚破いて走り書きを三十枚作った。
「酷くいじめられている子がいるんだって。だからこのメモを、隣町の楠中学校にばらまいて欲しいの。各学年四クラスくらいだとして各教室に一枚ずつ人目のつくところへ。音楽室、理科室、家庭科室、図工室、廊下の窓枠、調理室。なくなっても余ってもいいから置ける限りのところへ」
部屋に行き、以前静子様から買って頂いた近隣の地図を持ち出し、仁と寿に広げて見せて中学校の場所にマジックで赤丸をつける。
「しかしこのメモは・・・・・・このような自分を貶めること」
仁が内容を読んで戸惑っている。
「これも仕込みのうち。仏様は慈悲に奥行きがあって赦すこともあるし人々を救済するかたも多いけれど、日本の神様は怒らせると怖いと言うしね。私も怖い神になるかも」
「お戯れを」
仁は息をつく。私は笑って、いつか出会った如来様を思い出した。どちらの如来様なのか名乗っては頂けなかったけれど神々しく、お人柄も明るかった。
「慈悲は仏様ほど深くないよ。祟り神はいるけど祟り仏はほとんどいないしね」
「千福様も祟り神になると?」
「かもしれないよ」
巾着を引き出しから取り出しメモを中に全て入れると寿にくわえさせる。
「帰ったらゆっくり休んで。明日、付き合ってもらいたいところが二カ所あるの」
「どちらへ」
調理の支度を再開させ、お米をとぎながら伝える。
「氏神様のところへあなたたちを連れてご挨拶に。それから、楠中学へ本格的に乗り込むから。神社へ行く前までに心を落ち着けて、清らかな状態にしておいてね」
「かしこまりました」
仁と寿は清廉な心の持ち主であることはもう十分伝わっているが、それでも妖怪同士の縄張り争いに巻き込まれたばかりだ。積もる恨みもあるかもしれない。
心身が穢れていると、神様はたぶんサッと隠れてしまう。穢れを一番嫌うのだ。
人間の女性の生理すら嫌う神様もいらっしゃるらしい。私の場合は修行中だから、相手が穢れていようが精進するためには手を貸すこともある。だが、それは心根が腐っていない場合に限る。
仁と寿は楠中学へ行くために家から出て行った。
大体の下ごしらえをして家の中を掃除し、お風呂を沸かす。夜遅くなるから先に入っていいと静子様からお許しを得ているので、塩で体を洗って身を清め、温まる。
出てから調理の仕上げに入る。その頃には二匹は早速仕事を終わらせてきてくれた。
仁も寿も初めての仕事ができて嬉しいらしい。喜んだ表情を見せている。
午後七時が過ぎた。
外から玄関の鍵を開ける音が聞こえ、仁と寿が耳をピクリとさせ立ち上がる。
「ただいま。あら」