第14話 依頼
時計を見ると午後三時を過ぎていた。
仁と寿には家の中で好きにしてもらって、商店街まで買い物へ行く。七夕が近いせいか、アーケードの端には大きな笹の葉と誰でも願い事が書けるようにテーブルの上にペン数本と短冊が置かれていた。
短冊に書かれた願い事を全て叶えられたら私も成長できるが、流石に無理だ。
今日は私の好きな夕食でいいと言われた。やっぱりハンバーグかな。
「よう、千福ちゃん」
魚屋の店主、茶ノ木さんが声をかけて下さった。私のことが見られる人がいるのは、やはり安心する。こうして人から声をかけてもらえるだけで元気の源となって疲れがとれていく。
「こんにちは」
「疲れた顔をしていないかい?」
「今日は色々なところへ出かけておりましたので」
「そうかい、頑張っているんだね。活きのいい魚があるよ。持っていきな」
鰹を二匹頂いた。仁と寿は魚を食べるそうだ。
ただ村を焼かれて以来長い間ろくな暮らしをしていなかったらしく、川まで行って自分で魚を捕るか、捕れない日は人間が出すゴミを漁っていたという。
魚の代金を払おうとすると、いいから、と言われる。
「サービスだよ。うちにも千福ちゃんのおかげで色々な幸運がもたらされているからね」
「それはどんなものですか」
「双子の孫が健康に生まれたよ。あとは、この七年ずっと商売が繁盛していてね。千福ちゃんと出会う前は店を閉めるか迷っていたほどだったのに。これも千福ちゃんの
おかげだよ」
「それは茶ノ木さんの努力もあったからですよ」
「そんなことはないさ。さ、持っていきな」
魚の入った袋を渡されるので、お礼を言って受け取る。
「あ、そうだ。ちょっと変な噂が耳に入ったんだけど聞いてくれるかい」
私を呼び止め、茶ノ木さんは真顔で言った。
「なんでしょうか」
「隣町の楠中学校に、かなり酷いいじめを受けている男の子がいるらしいんだ。目撃者もいるっていう話だ」
心が痛んだ。
「人間は誰も助けないのですか」
「こういうご時世だからね・・・・・・みんな無関心なんだよ。こういう問題って深刻だが誰も助けない。俺も助けたいが、こんなおじさんが学校をうろつけば通報されてしまう時代だ。けれど俺も話を聞いたら気の毒になって。だから千福ちゃんにお願いするよ」
私になんとかできるだろうか。
隣街にも私を視認できる人はいるけれど、大抵はご年配のかたでこの街ほどではな
い。
なにか仕込みを考えなければ私の姿を楠の中学生に見てもらうことはできない。
様子見も必要だ。あまりに酷かったら、仕返しの方法を考えてみよう。
「わかりました。茶ノ木さんの願い、承ります」
人間同士の揉め事とはいえ、きっとその子も助けを求めているに違いない。
「よし、じゃあもう一匹おまけ」
鰯も頂き、笑顔で立ち去る。そういえばお昼を食べていない。
おにぎり専門店でおにぎりをひとつ買って食べてから、再び買い物を続けて家に帰り、晩ご飯の下ごしらえを始める。
なんだか熱烈な視線を感じて振り返ると、仁と寿がじっと座って見ている。