第13話 眷属その2
閉じた傘を持ち、寿の背中に両膝を揃えてお尻を乗せた。やはり気持ちがいい。
突如、うわっ、という叫び声が聞こえた。頭が岩のように大きく目がひとつしかない妖怪二匹が私の張った結界に弾き飛ばされたようだ。
あれらが仁を襲ったのだろう。この野郎、誰だおまえは、と罵声が飛ぶ。だが結界に触れて痺れが走ったのか動けないようだ。
「早く去りましょう。行き先はどちらへ」
もう家に帰ろうと思うので住所を伝える。すると二匹はものすごい速さで駆け出す。
落ちてしまいそうになったので、上半身だけ覆い被さるようにして胴をしっかり掴んだ。
「追いかけてくる気配はありませんね。乗り心地はいかがですか」
「最高」
雨粒が顔に当たるが、風を切るので気持ちがいい。駆け抜ける景色もとても綺麗。
静子様に紹介しよう。帰ったら仁と寿を綺麗に洗って、それから、ご飯を作って。
仁と寿はなにを食べるのだろう。
力を使いすぎたせいで披露がピークに達し、寿の背中に前屈みに倒れ込んだ。
「千福様、千福様。目をお覚まし下さい」
頬にかかる息で目を覚ます。眠ってしまったらしい。気づくと家の門の前にいた。
仁が私を見つめている。
「ごめん。寝ちゃった」
「お疲れだったのでしょう。こちらが千福様の住処でございますか」
「ええ」
小雨になっていた。寿から降りると門を開け、庭に二匹を入れると簡単に私が生まれた事情と静子様の存在を話して、外で待たせる。
たらいとお風呂場にある石けんを用意して庭で仁と寿を一匹ずつ洗う。今度は仁も寿も気持ちが良さそうに寝息を立て始めた。
妖怪同士の闘争と、雨に濡れ続けて二匹とも疲れたのだろう。でももう彼らは妖怪じゃない。
いわゆる神の使いだ。いや、神モドキの使い? ま、いっか。よい関係を築いていかなければ。
洗い終えて二匹をよく拭き、リビングに招いてドライヤーで毛を乾かす。
「とても気持ちがよいです。このような贅沢をして宜しいのでしょうか」
寿が言う。
「身なりは大事。静子様もきっと許して下さる。他の神様にも失礼のないようにね」
「承知致しました」
ブラッシングをしていると毛が大量に抜ける。
それを見て二匹とも申し訳なさそうにしている。
「これも私のつとめだから気にしないで。部屋も空きがあるから、静子様が許してくれるところを使って」
「いえ。我々は千福様と共に寝ます」
「え」
それはちょっと息苦しくなりそうだ。