第94話 勇者達を祝いたいなら、パーティすればいいじゃない
王宮の大広間では、今宵、盛大な祝賀パーティが催されようとしていた。
天井から吊り下げられた無数のシャンデリアが燦然と輝き、その光は宝石を散りばめた壁面装飾と共鳴して、まばゆいばかりの輝きを放っている。
夜の帳が降りているというのに、この広間だけは真昼の太陽よりも眩く照らされ、まるで光の宮殿のような幻想的な美しさを醸し出していた。
「す、すんご〜〜〜〜い!」
レオナが瞳を星のように輝かせながら、息を呑むような光景に見とれている。
普段身に纏っている冒険者装束とは打って変わって、鮮やかな黄色のドレスに身を包んでいた。
スカートの裾が歩くたびにふわりと舞い、胸元には小さなサファイアのブローチが控えめに煌めいている。
「ねえ見て! すごいよラウム! 全部キラキラだ!」
「ううむ……なかなかこの格好は慣れないな……」
ラウムは黒いスーツの襟元を気にしながら、どこか居心地悪そうに身じろぎしている。
彼の筋骨隆々とした体格には、このスーツは明らかに窮屈そうで、肩の部分が少しつっぱって見えた。
少し小さいのだろうか。
「似合ってるじゃん! ほら……武者丸も————ぷぷっ」
「ごるああっ! てめえ笑ってんじゃねえぞ!」
レオナの悪戯っぽい笑い声に、武者丸が顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げる。
彼もまた黒のスーツに身を包んでいるのだが、普段の戦闘服とは全く異なる装いに、本人も相当戸惑っているようだ。
「王宮の————グルメ————」
「全部————制覇————」
一方、ニカとチカの双子は既に会場の片隅にある豪華な料理の数々に夢中になっていた。
二人とも淡いピンクの子供用ドレスを着ており、フリルとリボンで飾られたその姿は、まるで人形のように愛らしい。
しかし彼女たちの関心はもっぱら目の前の美食にあり、周囲の華やかな雰囲気など完全に無視して、マイペースに食事を楽しんでいる。
「豪華なパーティだ。アンドレアス王には感謝しなきゃな。あとマリーにも」
「はい! そうですね」
レックスの姿は、ドレスと思いきやまさかのタキシードだった。
上品な黒のタキシードだった。
シルクのような光沢を持つ生地が中性的な美貌を引き立て、胸元の白いシャツとボウタイが洗練された印象を与えている。
でも確かに、ふりふりして女の子らしい格好よりは、こっちの方が似合っている。
そして、僕も慣れないスーツに身を包んでいた。
このスーツ自体も、マリーのメイドさん————テレシーさんの厚意でレンタルさせてもらったものだ。
こんな機会がなければ、一生着ることのない服装であろう。
わざわざ王国が、グランドクエスト達成をお祝いしてくれるなんて。
これもマリーのおかげだろうか。
そう思って、辺りを見渡してみるが、マリーの姿は見当たらない。
「最近、マリーとは話したのか?」
「え!? あ、いや————えと……」
マリーを探していたことがバレたのかと思い、クロはテンパる。
なんとか動揺を押し殺して、口を開いた。
「いえ……最近はあまり……彼女も忙しそうですし」
「————そうか」
最近、彼女に会えていない。
実際グランドクエスト達成の騒ぎで、お互いバタバタしているというのもあるが、どうにも彼女と顔を合わせるのを躊躇ってしまっていた。
胸がドキドキしてしまって、うまく喋れないのではないかと思ってしまうのだ。
彼女に会いにいくことを、恐れている自分がいる————
すると、レックスが前方に指を差した。
「ほら————噂をすれば、来たぞ」
重厚な大扉がゆっくりと開かれ、そこから現れたのは、まさに絵画から抜け出したような美しい光景だった。
数人の侍女を引き連れて、マリーが堂々とした足取りで会場に入場してくる。
彼女の纏うドレスは翡翠色のベルベット生地で仕立てられており、胸元と袖口には繊細な金糸の刺繍が施されている。
スカートの裾は床を優雅に滑るように長く、歩くたびに宝石をちりばめたティアラが煌めいていた。
まさに王女の名に相応しい、威厳と気品に満ちた姿である。
「すごい……」
「ああいう姿を見ると、やっぱりお嬢様なんだな〜」
レオナとラウムが感嘆の声を漏らしている。
確かに普段とのギャップがすごい。
なんだかすごく遠い存在な気がして、上手く話せる気がしなかった。
「皆さま、ご静聴を願います」
すると、重々しい声が、大広間の隅々まで響き渡る。
声の主は王宮の大執事で、その威厳ある佇まいが会場全体の注意を一点に集めている。
「このたび、この地方のグランドクエストを、伝説の勇者、レックス殿一行、そして、マリナス王女殿下が達成し、無事凱旋されました」
ざわ……と静かな感嘆が走る。
貴族や騎士、宮廷関係者など、集まった人々の視線が一斉に僕達のいる席の一角に集まった。
礼装に身を包んだ若き冒険者達————勇者一行の姿。
司会進行を務める大執事は軽く頷くと、続けた。
「命を賭し、仲間と力を重ね、クエストを達成したその勇気に、我らは心よりの敬意を表します。今ここに、我らが英雄達に、杯を掲げましょう————乾杯!」
勇者達を賛美する言葉と共に、今宵のパーティは始まった。
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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