第93話 女王になるなら、冒険者は————
「次の王位をお前に託す」
「……」
お父様の宣言が、玉座の間に響き渡る。
王位の継承————女王の座の確約。
これは、私がずっと待ち望んでいたものだったはずだ。
この異世界で何にも困ることなく、贅沢で安定した生活を送るため。
そのために、女王の座を勝ち取ることが、私の悲願だった。
————数ヶ月前であれば、私は飛び上がって喜んだことだろう。
でも、今の私の願いは、違うかもしれない————
「お父様……私は————」
「その目、クセルに似てきたな」
何かを言おうとしていた私の言葉を、お父様が静かに遮る。
その表情には、どこか懐かしそうな色が浮かんでいた。
クセルって————お母様に?
「あれは、私の前ではいつも何かを考えていた。自分の立場、この国行く末、そしてマリナス————お前のこと。どの選択肢が正解なのかを、見極められる人間だった」
頭が良かったのだよ。
だから、わしはあれを妻に娶った。
少し意外だった。
今まで、お母様の話を、お父様から聞くことはなかった。
たった一人の正室を蔑ろにしているのではないかと、内心疑っていたくらいだった。
「お前にもきっとその才があるのだろう。それはこの国を引っ張っていける、お前にしかない才能だ。少し前はまだ頼りなかったが、この数ヶ月で一気に成長したな」
お父様の口元に、かすかな笑みが浮かんだ気がした。
こんなふうに褒められることなんて、今まであっただろうか。
温かい思いが胸の奥に広がり、この数ヶ月間の努力が報われたような気持ちになる。
ずっとお父様に認められるのを目標に、頑張ってきたのだ。
この人を振り向かせたいと、ずっと思っていた。
それが、今は私を見てくれている。
しかし————
「これで、クセルも少しは楽になるだろう————お前が王になってくれれば」
「……!」
声が出なかった。
喉元まで出かかっていた願いを、奥に押し戻さなければならない。
私は王女。
アンドレアス王の娘。
私の背中には、あまりにも多くのものが重くのしかかっている。
お父様、テレシーを含めた使用人達、この国に住む様々な人達。
そして————クセルお母様。
ずっと、病気に苦しみながら、それでも私を支えてくれていた優しいお母様。
皆の思いを、蔑ろにできない。
持ってはいけないのだ。
このまま冒険者を続けてみたいなどという、身勝手な願いなんて————
「————何か言おうとしていたか? マリナスよ」
「いえ……なんでもございません」
「そうか」
私は、ただ深々と頭を下げるだけだった。
心の奥で渦巻く複雑な感情を、必死に押し殺しながら。
「そうだ、夜は祝勝パーティがある。勇者の仲間達を招待しておいた。お前も出席したまえ」
最後にそう告げられ、私は足取り重く大広間を後にした。
廊下を歩きながら、拳をぎゅっと握りしめる。
言わなければならない。
仲間達に、そして、クロに————
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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