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第8話 怪我が痛いなら、ヒーラーと組めばいいじゃない

「何で私が闘技大会に出ないといけないのよ!? というかあんた誰よ!」



 私は少年の訳の分からない要求にキレる。

 目の前の見知らぬ少年に向かって、貴族の嬢として教わってきた礼儀作法など一切忘れて感情をあらわにしていた。


 すると、少年は純粋な眼差しで答える。



「僕の名前はクローム・ノア。クロと呼んでください。この街で冒険者をしています」



 彼の身に纏う貧相な防具は、あちこちに修繕の跡が見える。

 安物の革鎧は摩耗し、膝当ては片方だけが不格好に固定されていた。

 剣の柄は手垢で黒ずみ、鞘には無数の傷が走っている。


 夢を求めて冒険者になったものの、なかなか稼げずに苦労生活を送っている新米冒険者といったところだろうか。


 どうやら身分の違いを分かっていないようだなぁ……


 私は背筋を伸ばし、胸を張って、クロと名乗る冒険者を見下すように顎を上げる。

 王族としての威厳を思い出し、声のトーンにも気品を宿らせた。



「そう、あなたの身分は分かったわ————私はマリナス・アンドレアス。この国の王女よ」



 私の自己紹介に、クロはポカンと口を開ける。


 どうだ。

 身分の違い、新米冒険者と王女という圧倒的な格差に恐れ慄いたか。


 私の名を聞いて膝をつき、顔を伏せるのはもう時間の問題だろう。


 クロはしばらく固まっていたが、やがて満面の笑みを浮かべる。



「やだなぁ冗談やめてくださいよ。こんな所に王女がいるわけないじゃないですか」


「いや信じろよ!」



 そこは信じろよ。

 確かにいきなり目の前に女の子が現れて、総理大臣の娘ですって言われても信じられないかもしれないけど、さっきあんたを助けてあげた私の言うことは信じろよ。


 思わず王女としての立ち振る舞いをまたもや忘れ、素のままの自分が出てしまう。



「あんたみたいな駆け出し冒険者が王女である私と喋れてるなんて奇跡なんだからね! あんたと私じゃ身分の違いが天と地の差くらいあるんだから!」


「いやいや〜〜マリナスさんは、雰囲気がそこら辺の街娘と全然変わりませんよ」


「私が貧乏くさいって言いたいの!?」



 合ってるよ。

 その通りだよ実はそれ。


 でもこの世界では、私はまごうことなき王女のはずだ。


 なんで信じてくれないのよ〜〜



「テレシーからも何か言ってよ〜〜」


「……なんでここで私に振るんですか」



 自分の身分くらい自分で示してくださいよ————というテレシーの言葉は無視して、私は縋り付く。

 観念したのか、テレシーは溜め息を吐きながら、冒険者クロの方へと近づいた。


 そして、懐から布きれを一枚取り出して、見せる。



「これは、王家の紋章です。この方は間違いなく、アンドレアス王国第一王女、マリナス・アンドレアス様ですよ」


「まさか……本当に王女様だったなんて————」



 クロは流石に言葉を失っているようだ。


 ふふーんだ。

 思い知ったか。


 これで私にひれ伏す気になっただろう。


 ふんぞり返ってクロの反応を待っていると、クロは私の方へバッと駆け寄ってきて————



「————まあ、王女だろうが村長だろうがどうでもいいです。僕と闘技大会に出てください!」


「いやなんでやね〜〜ん!!」



 思わず関西弁で突っ込んでしまった。

 全然関東出身なのに。


 今までの会話で分かった。

 この男、今まで出会った誰よりもマイペースだ。



「そんなことよりも、闘技大会ですよ!」


「話を聞けい!!」



 クロはそのまま自分のペースでゴリゴリ話を進めていく。



「僕の目標は、勇者様の仲間になることなんです! それで、この闘技大会で優勝したら、勇者パーティへの加入が認められるんですよ!」



 彼の目はキラキラと輝き、全く私の怒りを気に留めている様子がない。


 というか————私と同じ目標に向かっていたとは。

 もっとも、私は勇者の仲間になりたいわけではなく、勇者を手下にしたいのだが。


 だが、この子の言っていることには明らかに穴がある。



「あなた……さっき冒険者達にリンチされてたんじゃないの? それで大会優勝なんてできるわけなくない?」



 先程、冒険者の輪の中でうずくまっている姿を見ているので、何でそんなに自信があるのか分からなかった。

 彼の体には今も打撲の痕が残り、顔の横には擦り傷が生々しい。


 そんな実力で闘技大会だなんて、笑わせる。


 だが、クロは私の指摘を指を振って否定する。



「確かに、僕だけの力では優勝は難しいでしょう……でもマリナスさん! あなたがいれば、闘技大会は優勝できます!」


「いやいやいやいや」



 私は首をブンブン振る。

 私の髪が振り乱され、一瞬視界が髪で遮られる。



「いや無理でしょ。私のこの感じで喧嘩なんてできると思う? できないでしょ!」



 私は自分の華奢な腕を示し、絹のような上質な服を指差した。

 生まれてこのかた、戦いなど縁のない生活を送ってきたのだ。



「いえ、あなたは戦わなくていいです!」


「はい?」



 頭に特大のハテナマークを浮かべる。



「闘技大会は回復魔法が禁止されています。でもマリナスさんの治療なら、合法です。マリナスさんにヒールしてもらって、僕がずっと万全の状態で戦えばきっと勝てます!」



 治療はやり放題!

 こんな怪我もすぐに治ってしまう!


 もう無敵ですよ!


 クロは興奮しながらそう口にする。



 こいつは何を言ってるんだ?


 素人である私からしても明らかに無理があるというのが分かる。


 つまり、私は回復要員で彼が1人で2人の敵と戦うということだろう。

 彼の華奢な体つきと、さっきまでの惨めな姿を思い出せば、どう考えても勝ち目はない。


 あまりに非現実的。


 なんだか指摘するのも面倒になり、私は諦めのため息をつく。


 こいつには関わらない方が吉だ。

 こんな無鉄砲な冒険者と組んでも、ろくなことにならないだろう。



「呆れた……そんなんで優勝なんてできるわけないわね。ごめんだけど他を当たって?」



 私は冷ややかに言い放ち、その場を立ち去ろうとする。



「ええ!? 大丈夫ですよ! 僕達ならやれますって!」



 クロは慌てて私の袖を掴み、必死の形相で訴える。



「そんなにあんたを信用できないわよ! あなた一人で戦うって言うけど、矛先が私に向いたらどうしてくれんの!? 私、人を殴るどころかデコピンだってしたことないのよ!? 」


「マリナスさんには医療の心得があるから大丈夫です! 回復魔法無しでこんなに簡単に傷が癒えるなんて初めてです! 天才だ! だから大丈夫ですよ!」


「え? えっと……そうかな」


「そこ、簡単に(なび)かない」



 テレシーにピシャリと言われてしまった。

 私が突然の褒め言葉に狼狽していたのをよく見ている。



「とにかく明日! 地下闘技場で待ち合わせましょう! 待ってますよ!」



 クロは最後の言葉を残して颯爽と走り去っていく。



「いやちょっと待って! 私絶対行かないからね! 闘技大会になんか、絶対出ないんだから〜〜〜〜!!」




 *




 一夜明けて————




 地下闘技場は薄暗い松明の光に照らされ、獣のような歓声と汗の匂いが充満していた。

 天井から垂れ下がる鉄格子のランプが、不気味な影を壁に映し出す。


 目の前には、私の二倍ほどの体格がある筋骨隆々の戦士。


 隣には貧相な新米冒険者。


 周りを囲むのは野次を飛ばす観客たち。



 戦いの中心に、私は身を置いていた。



「ど、どうしてこうなるの~~~~!!?」



 私の悲鳴は、ゴングの音に掻き消されていった。

読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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