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第88話 彼が私を守ってくれるなら、その動きに合わせればいいじゃない

「でやああああああ!!」



 鋼鉄を裂く鋭い音と共に、クロの剣がモンスターの黒い鱗を斬り裂いた。

 常に私の前に立ち、私にモンスターの手が届かないように立ちはだかっている。


 脳裏をよぎった記憶の中で、彼が口にした通りに————


 作戦のこと、分かってる?

 私達が本当に守らないといけないのは、レックスさんだよ?


 それなのに、私を守るだなんて。

 権力争いからも、過酷な戦いからも、遠ざけたいだなんて。



「————好き勝手言って……!」



 クロはいつもそうだ。

 マイペースで、人の気持ちも知らないで。


 初めて会った時からそう。

 私の言うことなんて聞かずに、突っ走って。


 私に、新しい世界を見せようとしてくる。

 閉ざされた鳥籠から外の空へと誘うかのように、私の知らない景色を次々と教えてくれる。



 敬語で礼儀正しいと思いきや、全然そんなことない。

 表面的な丁寧さの奥で、彼は常に自分の思いを、ただまっすぐ私にぶつけてくる。


 飾り気のない、剥き出しの感情をそのまま投げかけてくるのだ。



「敵の動きを見て!」


『敵の動きを見ろ』



 頭に響く声と、クロの声がリンクする。

 向かってくるモンスターの動きをよく見て、上手くいなした。


 相手の癖を見抜き、攻撃の軌道を予測して、躱し、カウンターをする。



「次は右に! 敵の攻撃を誘います!」


『誘った後はカウンター。敵の急所を狙え』



 二人の連携は加速する。

 私達の動きは一寸の狂いもなくシンクロし始めた。

 互いの思考を読み取りながら流れるような動作で敵を翻弄していく。



「あとはあのドラゴンです! 僕についてきてください!」


『あいつの背中についていけ』



 クロの逞しい背中が、私の視界の中央に映った。


 いつも、私が追いかける背中。

 預けている背中。


 その背中は、何があっても私を守り抜くという意志の強さを物語っている気がした。



『あいつは強くなった』


「————知ってる」



 私は無意識に、頭に響く別人格の声に答えていた。


 クロは、以前よりも比べ物にならないほど強くなっている。

 剣技も、判断力も、そして何より戦う意志の強さが。



『ただお前を守りたくて、強くなろうとした、馬鹿野郎だ』


「本当にバカ、だよね」



 最初は、何の戦闘能力もない私を闘技大会に誘った。

 その後も、根気強く私に寄り添い続けて、一緒に強くなろうって。


 王女という重荷を背負った面倒な存在。


 こんな私なんか放っておけばいいのに。

 その方が、もっと楽になれたかもしれないのに。



 それでも一緒にいてくれる。


 一緒に、戦ってくれている。



「行きますよ! マリー!」


『叩き込め————』



 二つの声が重なり合い、私の全身に力が漲った。

 血液が全身を駆け巡り、剣を握る手に熱い鼓動が伝わってくる。


 それがクロの剣と連動し、倍以上の力になって唸る————



「「はああああああああああああっっ!!!」」



 全身全霊を込めた渾身の一撃が、まるで一本の剣から放たれたかのように完璧に同調した。

 二人の剣が、エンシェントドラゴンの巨大な右足に深々と食い込む。


 鱗が砕け、鮮血が噴き出し、洞窟全体に響く断末魔の叫びが轟いた。



『ギャアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』



 エンシェントドラゴンは激痛に身悶え、バランスを崩して大きく体勢を乱した。

 予想外の攻撃に完全に虚を突かれ、完全に無防備になる。



「————よくやった」



 静寂を破ってレックスの落ち着いた声が響いた。

 エンシェントドラゴンの正面から、まるで重力を無視するかのように軽やかに宙へと舞い上がる。


 その手に握られた聖剣を、神々しい黄金の光を放ちながら大上段へと掲げた。



 私とクロの必死の攻撃によって怯まされたドラゴンには、もはや反撃する術も、身を守る手段も残されていない。


 聖剣が放つ神聖な光が徐々にその輝きを増し、洞窟の闇を押しのけながらエンシェントドラゴンの巨体を包み込んでいく————

 まるで天から降り注ぐ裁きの光のように、すべてを浄化する力を秘めて。



『セイバー・アポカリプス』



 勇者の口から発せられた必殺技の名が、洞窟の隅々まで厳かに響き渡る。

 そしてレックスは、聖剣を迷いなく振りおろした。


 それと同時に、目を開けていられないほど眩い光が、ダンジョンの隅々まで照らし出し、すべてを白い世界に変えていく。



 閃光の中で、私はクロと目が合った。

 彼の瞳に映る私の姿が、まるでスローモーションのようにはっきりと見える。



 ああ————


 分かった気がするんだ————



 きっと私、クロのことが————

読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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