第78話 無敵のドラゴンに勝てないなら、私達の目を使えばいいじゃない
あたりは、不気味なほどに静まり返っていた。
風一つない空間に、かすかな水滴の音だけが響く。
エンシェントドラゴン————漆黒の巨躯。
その異形の影は前方の広場に威圧的に鎮座し、周囲の空気までもが重く沈んでいるかのようだった。
辺りは静寂に包まれている。
ラウム達は————どうなってしまったのか。
いや、今は考えない。
思考を乱している場合じゃない。
私達にできることをやらなきゃ。
後悔だけは絶対にしたくない。
「おーい! このトカゲ野郎!!」
静寂を破る大声が洞窟に響き渡り、前線へとレオナとレックスが駆け出していく。
二人は恐怖を感じていないわけじゃないだろう。
それでも、それを吹き飛ばすほどの意志が、仲間を救いたいという一心が、彼女達の背中を押していた。
「私達はまだ諦めてねえぞ!!」
エンシェントドラゴンが天を揺るがす咆哮を放った。
重厚な重低音が大地を激しく揺らし、内臓まで震わせる。
だが、レオナは臆せずに突き進んだ。
その巨体から山のような爪が振り下ろされる。
レオナは紙一重で身を翻し、完璧なタイミングで受け流した。
正面から受け止めてカウンターを狙うのは、分が悪いと判断し、無理な力押しは一切しない。
そして————
「————ふんっ!」
レックスが低く、鋭く息を吐きながら、横薙ぎに剣を振るった。
斬撃を喰らったエンシェントドラゴンは金切り声を上げて、長い頭をばたつかせている。
だが、ドラゴンの傷口は見る間に肉が盛り上がり、瞬く間に完全に再生してしまう。
まるで何事もなかったかのように、ダメージを与えられてはいなかった。
「こんなもんか〜!? まだいけるでしょ!」
「もう一度来るぞ! レオナ!」
ドラゴンの執拗な攻撃を、レオナは巧みにいなしていく。
レックスの洗練された剣技と完璧な連携で、レオナの隙を的確にカバーしていた。
二人の息の合った動きは、まさに長年共に戦ってきた戦友のそれであった。
その姿を、私とクロ、そしてチカは後衛から見守る。
チカは、瀕死の武者丸から一歩も離れることができない。
呪いを受け、傷口が塞がらない彼の命を繋ぎ止めるために、休むことなく治癒魔法を送り続けている。
だから、私達の役目はチカの護衛と————
もう一つ————
*
「————お前達には、あのドラゴンの分析をして欲しい」
「分析……ですか?」
時は数分ほど遡る。
クロがレックスの言葉を繰り返すように尋ねた。
「はっきり言って、今のチームの状況で、あのドラゴンと戦うのは厳しい状況だ。このままでは、全滅もあり得る」
伝説の無敵のドラゴンに対し、今の私達はあまりにも戦力不足だった。
圧倒的な力の差を前に、絶望的な現実が私達の前に立ちはだかっている。
しかし、エンシェントドラゴンの討伐が扉の開放条件だとすれば、戦うのは避けられない。
逃げ道は完全に塞がれていた。
「だが、私はまだ命を諦めるつもりはない。だから、お前達の力が必要だ」
レックスの冷静でありつつも力強い言葉が洞窟に響く。
その声には、決して折れることのない鋼の意志が込められていた。
「凄まじい攻撃力、頭を吹き飛ばしても死なない生命力、伝説の魔獣という通り、無敵のように思える————だが、どこかに弱点があるはずだ。それを、お前達なら見つけられると信じている」
それは、レックスからかけられた、信頼の言葉だった。
この危機的な状況で、最も重要な役割を、私達に託そうとしてくれている。
皆の命を、私達の手に委ねようとしてくれている。
その言葉に、胸の奥が熱く燃え上がった。
「————やってやりますよ」
私は、声を振り絞って立ち上がった。
ふらつく体に鞭を打ち、荒い呼吸を何とか整えて、精一杯の笑みを浮かべる。
「王宮で鍛え上げた私の観察眼……これで、あのドラゴンの弱点を見破ってみせましょう!」
この体が熱いのは、体調悪化による熱のせいか。
それとも、皆を救いたいと巡り出す、熱い血潮のせいか————
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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