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第77話 絶望的に劣勢なら、僕達を使えばいいじゃない

 石壁に靴音が響く中、レックス達は息を切らしながらダンジョンの通路を駆け抜けていた。

 後方からは時折、エンシェントドラゴンの咆哮が聞こえてくるが、その声は次第に遠ざかっていく。


 ラウム達の犠牲的な行動のおかげで、あの巨大な竜が直接追いかけてくることはなかった。



「あそこに入るぞ!」



 通路の壁面に開いた細い横穴を発見した。

 追手から身を隠すには十分な隠れ場所だった。


 レックスの鋭い指示で、一行は迷わずその暗い穴倉へと身を潜める。



「武者丸!? 大丈夫!?」



 レオナの切迫した声が洞窟内に響いた。

 彼女は背負っていた武者丸を慎重に横たえ、その傷の深刻さに青ざめる。

 ドラゴンの鋭利な牙が肩を深々と貫いており、布地は血で真っ赤に染まっていた。


 チカが慌てて杖を握り直し、緑色の光を宿らせながら回復魔法を発動させた。


 だが————



「傷が————塞がらない……!」



 チカの困惑した声が震えていた。

 彼女が必死に緑色のオーラを武者丸の患部に押し当てているにも関わらず、傷は治癒しようとしない。


 まるで赤い何かが治癒魔法を阻んでいるかのように、傷口は不気味にひくひくと脈打っていた。



「————腐食の呪いだ」



 レックスが重々しく口を開いた。



「な、なんですか……? それは」


「敵に与えた裂傷部分の腐敗を早める呪い————一部の特殊モンスターしか持っていない固有スキルだ」



 解除するには、スキルの使用者を倒さなければならない。

 つまり、あのエンシェントドラゴンを討伐しない限り、武者丸の傷は永遠に治らないということだった。



「そんな……」



 レオナの声が絶望に沈んだ。


 それでは武者丸の傷は治らないことになる。

 時間が経てば経つほど、彼の命は危険に晒されることになる。



「————随分……戦える仲間が減ってしまった。どうするか……」



 流石のレックスも苦渋に満ちた表情を浮かべていた。

 冷静沈着な彼女ですら、この状況の深刻さを隠しきれずにいた。



「私が……油断したせいで……」



 レオナは悔しそうに俯いた。

 自分の一瞬の判断ミスが、仲間をこんな目に遭わせてしまったという自責の念に押し潰されそうになっていた。



「お姉ちゃん……」



 チカはいつもの無表情が崩れていた。

 普段は感情を表に出さない彼女の瞳に、初めて見る動揺の色が浮かんでいた。



 雰囲気は最悪だった。

 洞窟内に重苦しい空気が立ち込め、一行の士気は完全に下がっていた。


 アクシデントにアクシデントが重なり、皆平常心を保てていない。

 チームの結束も、まるで糸が切れたかのようにバラバラになってしまった。


 絶望感が洞窟内を支配する。

 松明の炎が壁に踊る影を投げかけ、まるで彼らの心の闇を映し出しているかのようだった。

 湿った石の冷たさが肌に染み渡り、希望という名の温もりを奪い取っていく。



 こんなんじゃ、無理だ……



 どうすればいい……


 どうすれば————




「————諦めないわよ……!」




 その時、僕の隣から力強い声が発せられた。

 マリーが目を開けて、こちらを向いていた。



「マリー……!」



 意識を取り戻したのか。

 だが、息苦しそうで、体調は万全とは程遠いところにいるように見える。


 それでも、諦めの色は微塵も見えなかった。



「ここに来るまでに……私……死に物狂いで頑張った……!」



 戦いとは程遠い立場にいたのに、冒険者になった。

 争い事なんて、彼女はきっと好きじゃない。


 それでも、レックスに認められるために、手の皮が剥けるくらいに剣を振った。

 二人の戦い方を模索し続けた。


 それから、勇者達の役に立つために、危険なダンジョンの中を必死についていった。

 決して安全な旅じゃなかった。



 それでも————自身の未来のために。


 そして、皆の夢のために。



 全力を注いできたのだ。



「私は皆の足を引っ張りにきたんじゃない……! 皆と一緒に、勝ちに来たんだよ……!」



 乱れた呼吸が洞窟内に響く。

 マリーの体はふらついていたが、それでも踏ん張って立ち上がろうとしていた。



「だから————私を使いなさい……! 最強の勇者!」



 マリーはレックスをまっすぐと見つめ、魂を込めて訴えかけた。

 その眼差しには、どんな困難も乗り越えてみせるという不屈の意志が燃えていた。



 そうだ。

 そうじゃないか。


 皆、勝つためにここにいる。



 僕はまだ何もしていない。

 守られてばかりで、仲間に頼ってばかりいた。



 それなのに、こんなボロボロの彼女に先を越されている。


 何のために僕はここにいる。

 ここで声を出さないで、いつ出すっていうんだ……!



「僕も————まだ戦えます!」



 皆で勝ちに来たんだ————


 だから、皆で生きて帰る。



 僕とマリー、二人の思いをレックスにぶつけた。

 重い空気を切り裂くように、それぞれの決意が響き渡った。


 レックスは静かに目を閉じた。

 そして、僕達の目を見て、何かを決めたように、口を開いた。


 その表情に、覚悟の色が浮かばせて————




「————二人に、頼みがある」



読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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