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第76話 戦線が崩壊するなら、一旦逃げるしかないじゃない

 地底深くに響く重い唸り声が、ダンジョンの石壁を震わせていた。


 想像を絶する巨躯の魔獣————エンシェントドラゴン。

 漆黒の鱗に覆われた体は、古代の神話から這い出てきた悪夢のような存在感を放っている。


 巨大な足音が一歩踏み出されるたび、ダンジョン全体が軋みを上げる。

 石の欠片が天井から剥がれ落ち、床に散らばった。まるで大地そのものが恐怖に震えているかのようだった。



『ォォォォォオオオオオオオオオオオ————————』



 そして次の瞬間、途轍もない質量を持つ巨体が、雪崩のような勢いで僕達に向かって突進してきた。



「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」



 それに対し、雷のような気合いが響き、ラウムが踏み込む。

 巨大な大楯を構えてエンシェントドラゴンの突進を真正面から受け止めた。


 金属と鱗がぶつかり合う凄まじい音。

 それでも彼の足は微動だにせず、まるで不動の岩山のような安定感を見せつけていた。



 その隙を見逃さなかったのが、このパーティのリーダーにして最強の勇者レックスだった。

 流れるような動きで剣を抜き放つと、銀光を纏った刃がドラゴンの巨大な胴体目掛けて一閃する。



『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ————』



 エンシェントドラゴンが咆哮を上げ、わずかに身を引いた。

 しかし、その漆黒の装甲からは一滴の血も流れていない。


 想像を絶する硬度の装甲。

 幾多の魔物を屠ってきたレックスの剣技でさえ、一撃でそれを貫くことは叶わなかった。



 それでも、長年の冒険で培われたベテラン二人の息の合った連携により、一時的にドラゴンの猛攻を退け、チームに少しだけ余裕が生まれた。



「クロ! マリーを連れて少し下がれ!」


「は、はい!!」



 そうだ。

 今僕にできることは、気を失ってしまったマリーを精一杯守ることだ。


 僕は彼女の体をしっかり抱きかかえ、エンシェントドラゴンの間合いの外まで下がった。



「来るぞ!! レオナ!」



 ラウムの警告の声が響く。

 エンシェントドラゴンは狩りの本能のまま標的を変更し、今度はレオナに向かって蛇のような首を伸ばしてきた。

 鋭い牙が陽炎のように揺れ、死神の鎌となって彼女を狙う。


 レオナは咄嗟に盾を構え、敵の攻撃を防御した。



「ぐうううっ……!!」


「レオナ!!」



 獲物を喰らわんとする猛烈な力に、レオナの体は後方に押し込まれていく。

 彼女の足が石床を削りながら滑っていった。



「こ、こんのっ————!」



 追い詰められた状況で、レオナは魔力を全身に巡らせる。

 その瞬間、彼女の盾が太陽のような眩い光を放ち始めた。



『カウンターボム』



 レオナの放ったカウンタースキルが炸裂し、ドラゴンの巨大な頭部を吹き飛ばした。


 レオナは魔力タンクであった。

 彼女は魔法使いのニカチカほどの魔力は持たないが、防御に特化した魔法スキルを扱うことができる。



「はっはー! 私が守るだけの女だと思ったら大間違いよ!」



 勝利を確信したレオナの声が響く。

 ドラゴンの頭部は無残に抉れ、原形を留めていなかった。


 明らかに致命傷だ。



 だが————



「え?」



 信じられない光景に、レオナが固まる。

 破壊されたはずの頭部が、まるで時間が巻き戻されるかのように一瞬で完全に再生したのだ。


 そして間髪入れずに、レオナに向かって再び攻撃を仕掛けてきた。



「————危ねえ!」



 その瞬間、武者丸が身を躍らせてレオナの前に飛び出した。

 レオナを弾き飛ばし、彼女を死線から退避させる。


 しかし、その代償は大きかった。


 エンシェントドラゴンの鋭い牙が、武者丸の肩を容赦なく貫いた。



「ぐああああああああっ!!」


「武者丸!?」



 武者丸の体が勢いよくダンジョンの石壁に叩きつけられる。

 鈍い音が響き、彼の血が冷たい石の床に広がっていく。

 赤い液体が暗闇の中で不気味に光っていた。



「武者丸!? ねえ大丈夫!? 武者丸!!」



 レオナが慌てて駆け寄るが、武者丸は激痛に顔を歪めて体をくの字に曲げている。

 呼吸は浅く、額には冷や汗が浮かんでいる。


 戦線が崩壊の危機に瀕していた。

 武者丸の負傷により、パーティの連携が完全に乱れてしまったのだ。



「レックス! どこでもいい! 負傷者を連れて一旦逃げろ!」


「ラウム!」



 レックスが名前を呼ぶが、ラウムは振り向こうとしない。



「このままジリジリ削られて、お前が戦えなくなるのが一番まずい。最強の勇者が————最後の希望だ」



 そう言いながら、ラウムの横顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。

 まるで自分の役割を分かっているかのように。


 大楯を構え直し、エンシェントドラゴンを迎え撃つ姿勢を取る。



「大丈夫だ。俺はそう簡単にやられねえ」


「————分かった……!」



 レックスは目を固く閉じて、苦渋の決断を下した。

 言葉を絞り出すように呟くと、ラウムを置いて後退することを決める。


 リーダーとして、最も辛い選択だった。



 そして————もう一人、その場を動こうとしない者がいた。



「ニカ! どうしたの!?」


「私がいないと————瘴気のバリアなくなる————私も残る————」



 ニカは強く杖を握りしめ、こちらに振り向くことはなかった。

 ただ、敵を見続けている。


 その瞳には、魔法使いとしての誇りと責任感が宿っていた。



「————お姉ちゃん!」


「行きなさい————チカ————皆を任せた————」



 ニカが最後の言葉を残し、二人はエンシェントドラゴンに立ち向かっていく。


 レックス達は身を翻した。

 エンシェントドラゴンから逃げ去る足音が、ダンジョンの奥深くに響いていく。



 二人の仲間を残して。

読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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