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第75話 ターゲットが現れたなら、どんな状況でも戦うしかないじゃない

「マリー!?」



 僕の切迫した声が洞窟内に響き渡ると、パーティーの全員が一斉に振り返った。

 血の気が引いた僕の顔色を見て、誰もが事態の深刻さを悟る。


 足音も荒く、僕は転びそうになりながら彼女の元へと駆け寄った。



「ゴホッゴホッ!」


「マリー……!」



 地面に蹲りながら、マリーは苦しそうに咳き込んでいる。

 彼女の顔は青白く、額には冷たい汗が浮かんでいた。


 このタイミングで限界が来てしまったのか……?



「そんな……もう大丈夫だって言ってたのに……」



 レオナがショックを受けた表情で言葉を絞り出す。


 ここに至る道中、マリーの体調が悪いのをずっと隠し続けていたが、こうなってしまうともう取り繕えない。

 どうやって皆に説明すれば……



 僕が何とか弁明しようとしたその時————


 いち早く異変に気づいたのは、レックスだった。



「————いや、違う! 全員息を止めろ!!」


「!?」



 レックスは口元を抑え、そう叫んだ。

 彼女の緊迫した様子に、パーティー全員が反射的に息を止める。


 空気中に漂う何かが、陽炎のようにゆらゆらと舞い踊っていた。

 生物が決して触れてはならないのが直感的に分かるもの。


 どうして気づかなかったのだろうか。


 僕たちがダンジョンに足を踏み入れた瞬間から、この場所は()()()()に満ちていた。



「ニカチカ!」


「承知————」



 その時、ニカとチカが同時に杖を天に向かって掲げると、翠玉のように美しい光が杖先から溢れ出す。

 その光は次第に広がり、僕たちの周りを包み込むように白いオーラの壁を形成した。


 すると、僕達の体の周囲に透明な膜のようなバリアが張られ、禍々しい瘴気がそれ以上中に入ってくることはなかった。



「毒や瘴気を遮断する魔法————とりあえずこれで————」



 その時だった。



 ズシン————————



 深く重たい足音が石の床を揺らし、ダンジョン全体に不気味な反響を生み出す。

 その振動は僕達の骨の髄まで響くようで、プレッシャーが何倍にも膨れ上がった。



 闇の向こうから現れたのは、想像を絶する巨大な影だった。

 鱗に覆われた漆黒の体躯は、まるで古代の悪夢が具現化したかのよう。

 翼を広げればダンジョンの天井に届きそうなその威容は、長い年月を生き抜いた証である。


 古龍————エンシェントドラゴン。


 圧倒的な存在感がそこにあった。

 血のように赤い瞳が暗闇の中で光り、その視線だけで魂が凍り付きそうになる。



『ウオオオオオオオオアオオオオオオオオオオオオオオオ————————』



 地獄の底から響くような咆哮が、ダンジョン中に木霊した。

 その音圧だけで石の欠片が天井から落ち、僕達の耳膜を突き破らんばかりの轟音が響く。



「レックス! 体勢が悪い! 一度ダンジョンにから出て————」


「いや、そうはいかないみたいだ」



 レックスは振り返ると、来た道を指差す。

 先ほどまで開いていた巨大な扉が、まるで意思を持つかのように重々しく閉まっていた。


 グランドクエストを達成しなければ、生きて返さないと言わんばかりに————



「ちくしょう! ここでやるしかねえのかよ!」



 ラウムが声を張り上げながら、愛用の大楯を背中から取り出し、両手でしっかりと構える。

 金属音と共に、他の仲間たちも一斉に武器を抜き、それぞれ戦闘態勢に入った。

 剣の鞘が擦れる音、魔法の詠唱が始まる静寂————戦いの前の緊張感が空気を支配する。


 僕は意識を失ったマリーの体を抱きながら、一人瞠目していた。

 絶望と焦りが入り混じった感情に支配される。



 これが、グランドクエスト————


 世界で最もクリアが困難な、最悪の試練————





読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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