第70話 仲間達の役に立ちたいなら、毒状態でも頑張ればいいじゃない
私が目覚めたと知り、レックス達も部屋に来てくれた。
私の意識がはっきりしていることを確認すると、安堵の表情を浮かべながら近づいてくる。
それまでの心配と緊張が一気に解けるような、まるで花が咲いたような明るい表情を浮かべていた。
「よかった……もう目覚めないかと思った〜〜」
「えええ!? レオナさん泣かないで!」
突然涙ぐみ始めたレオナが目元を手で覆い隠すのを見て、私は慌てて声をかけた。
随分と心配させてしまったみたいだった。
テレシーの話によると、私は毒を盛られて、数日間意識を失っていたという。
使用人の皆が寝る間を惜しんで看病してくれていたみたいで、なんとか意識を取り戻した。
ベッドサイドに置かれた薬瓶の数々や、皆の疲れ切った表情が、その献身的な看護の証拠だった。
私目線は一体何があったのか、記憶が曖昧だ。
断片的に蘇るのは、甘い香りのする飲み物と、その後に襲ってきた激しい目眩だけ。
でも、あの令嬢達にそんな直接的な危害を加えられるとは————
少し恐怖を感じたが、今は皆が近くにいてくれるから安心だ。
「本当に、体調は大丈夫か……?」
その時、レックスが眉間に深い皺を寄せ、真剣な表情で私の顔を見つめながら問いかけた。
彼女の瞳には、表面的な安堵の下に隠しきれない心配の色が滲んでいる。
「————はい、大丈夫です」
私は努めて平静を装い、できるだけ自然な笑顔を作りながら返答した。
自分の声に震えが混じっていないか、顔色が悪くないか————
正直に言えば、体調は元通りとは程遠い。
額に手を当てれば、まだ熱が引いていないのが分かる。
視界の端がぼんやりと霞み、立ち上がろうとすると軽い眩暈が襲ってくる。
体を起こしているだけでも息が上がり、背中に嫌な汗が滲んでいた。
それが、皆に気づかれていないことを祈るばかりだ。
レックスは私の返答を聞いた後、難しい表情を浮かべながら沈黙した。
部屋に重苦しい空気が流れ、時計の針音だけが響く中、彼女は慎重に言葉を選ぶように口を開く。
「明日、グランドクエストに出発しなければならない————マリーは、どうする?」
「……」
レックスは私に問いかける。
敢えて詳しい事情や選択肢について説明せず、私自身の意思を尊重して決断を委ねようとしてくれているのだ。
仲間達の視線が一斉に私に注がれ、誰もが固唾を飲んで私の答えを待っている。
今の私に一体何ができるだろうか。
こんなにもふらつき、息も絶え絶えな状態で、果たして足手まといにならずに済むのだろうか。
理性的に考えれば、ここで身を引くのが賢明な判断かもしれない。
いや————
今の私に、ここで断るという選択肢は存在しない。
「————私も行きます」
私はレックスの瞳を真っ直ぐに見つめ、迷いを振り切るようにはっきりと宣言した。
私の決定に、皆少なからず驚いた表情を浮かべる。
お父様に認められるために、私は冒険者になったのだ。
一番肝心なところで、逃げたくない。
それに————私がいなければ、これまでの皆の努力が無駄になる。
8人で連携を極めてきたのだ。
私がいなくなって、グランドクエストの攻略ができない事態になるのは、絶対に嫌だ。
「いいか? グランドクエストは本当に危険だ。私達も、マリーを必ずしも守り通せる確証はない。それでも————本当にいいんだな?」
「はい、それでも行きます。行かせてください……!」
レックスの厳しい警告にも関わらず、私の決意は微塵も揺らがなかった。
自分にできることは限られているかもしれないが、少しでも仲間達の役に立ちたい。
何度確認されても、この想いだけは変わらない。
レックスは仲間達と無言で視線を交わす。
そして最後に、心を決めたように力強く頷いて見せた。
「————分かった。君を信じよう」
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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