第66話 想いを伝えたいなら、プレゼントを贈ればいいじゃない
「————できた……」
僕は一息吐き、作ったものを宙に掲げて見る。
遠くで小鳥が鳴いている声が聞こえてきた。
レッドアンバーのペンダント。
細い銀の鎖に丁寧に編み込まれた赤い琥珀は、まるで凍りついた炎のように美しく輝いている。
表面には微細な気泡が封じ込められ、光の角度によって内部の世界が万華鏡のように変化していた。
以前、深夜の図書館を探索した時に、マリーにもらったレッドアンバーの宝石をペンダントにしてみたのだ。
夢中になって作業していて、つい日が昇ってしまっていた。
僕の不器用な手でも、なんとか見栄えのするものができただろうか。
これを、マリーにプレゼントする————
「————のってどうなんだ……?」
これってプレゼントというより、もらったものを返しているだけなのでは?
ペンダントにしたから贈り物っぽくなってはいるけど、お金がかかっているわけでも、手間がそれほどかかっているわけでもない。
こんなんでいいのだろうか。
マリーに————「これ私があげたものじゃない!? こんなんでプレゼントって本気なのぉ!?」みたいなことを普通に言われそうだ。
でも————やっぱりこの宝石はマリーの方が似合うよ。
僕なんかじゃ似合わない。
見てみたくなったんだ。
これを身につけている君の姿が————
「さてと……」
僕は立ち上がり、支度をする。
いつもの服に着替え、歯を磨く。
いつもと同じはずのルーティン。
でもこれが、なんだか特別な気がする。
全てがいつもと違う風景なのだ。
髪はこんな形でいいのだろうか。
少し横に流してみた方が、普段と違っていいかもしれない。
冒険者装備も緑色のいつもの装備じゃなくて、違う色にしてみたい。
彼女の好きな色は、なんだろうか。
今まで、身なりにこんなに気を遣ったことはなかったのに。
少しでも君に、よく思われたいと思ってしまうんだ。
宿を出て、マリーの住む王宮に向かう。
朝の清々しい空気が肺に染み渡り、鳥達の囀りが街角に響く。
商人たちが店を開く準備をする音、遠くから聞こえる馬車の車輪音、全てが今日という特別な日の序曲のように感じられた。
僕は今日も、マリーに会いに行く。
まず、なんと声をかければいいだろう。
どんな話をすれば良いのだろう。
なんと言って、これを渡したらいいのだろう。
胸の奥の鼓動が、いつもよりも少し早い。
それなりの緊張感と、高揚感。
でも————嫌な感じじゃない。
レオナには昨日茶化されたが、否定はできなかった。
きっとこの思いは————
王宮への道のりがいつもより短く感じられる。
目に映る景色全てが、色鮮やかで、美しく見えていた。
空の青さも、雲の白さも、道端の花の鮮やかさも、すべてが特別な意味を持っているかのようだった。
この時までは————
「————え……?」
僕が王宮に着くと、大騒ぎになっていた。
普段の穏やかな雰囲気とは打って変わって、宮殿内は混乱の渦に包まれている。
使用人達が慌てて走り去る姿があちこちで見られ、悲鳴や怒号が飛び交っていた。
そして、令嬢、あるいは使用人の悲痛な声が聞こえるのだった。
「マ、マリナス様が、毒を飲んだわ!」
その言葉が僕の耳に届いた瞬間、世界が音を失う。
目の前に映るもの、全てが真っ白になった気分だった。
手に握りしめていたペンダントが、まるで鉛のように重く感じられた————
読んでくださりありがとうございます。
主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。
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