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第60話 魚介スープを作りたければ、全部ぶち込んでそのまま煮込めばいいじゃない

 そんなこんなで、私はレックスと共にスープを作ることになった。


 味噌汁をご所望だったが、ダンジョンに味噌はない。

 メンバー達が野菜や魚を色々と取ってきてくれたため、具沢山なスープになりそうだ。


 早速、私がレックスに作り方を教えようとしたが————



「いや、最初は自分で作ってみたい。マリーの料理は何度も味わっているから、もしかしたらそれを再現できるかもしれないからな」



 ————と、自分で作ろうとしていた。

 今思えば、この時の私がもっと強引にでもレックスを止めるべきだったのかもしれない。


 気がつくと私は(なぜか)調理場から追い出され、勇者メンバーたちと共に木製のテーブルを囲んで待つ身となっていた。

 しかし、その場の雰囲気は異様なまでに重苦しく、まるで処刑を待つ囚人たちのような絶望感が漂っていた。



「むう……なぜだ……!? どうしてレックスが料理をしている……!?」



 普段は豪快で陽気なラウムが、額に汗を浮かばせ、いつになく苛立ちを隠せずにいる。

 他のメンバーたちも顔面蒼白で、まるで悪夢を見ているかのように身体を震わせていた。



「だ、大丈夫……いざとなったら武者丸を犠牲にすればいいから」


「は、はあ!? なんだ俺なんだよ!」



 レオナの発言に、武者丸が慌てたように声を上げる。

 事情を知らない私、そしてクロだけがぽかんとしていた。



「あの……そんなにレックスさんの料理って、ダメなんですか?」



 クロが純粋な好奇心から口を開いた瞬間、ラウムの鋭い視線が彼に突き刺さった。

 その眼光は、普段モンスターを見据える時よりもさらに険しい。



「ダメなんてもんじゃねえ! あれは————」


「できたぞ〜〜! お前達」



 ラウムの言葉が途中で止まった。

 調理場の向こうから、レックスの明るい声が響いてきたのだ。

 誰かが「ヒェ……」と悲鳴のような声を漏らす。


 振り返ると、そこには両手で大きな鍋を抱えたレックスの姿があった。

 ぐつぐつと煮えたぎる音が、この位置からでも聞こえる。


 ————てか、出来上がるの流石に早くないか……?



「結構具沢山で豪華なスープになったぞ。さあ、召し上がれ」



 レックスは誇らしげに鍋の蓋を開けた。


 鍋の中から立ち上る湯気は、どこか不穏な色をしていた。

 味噌を使っていないはずなのに、スープは泥水のように濁り、異様な臭いを放っている。

 しかも、具材はまったく切られておらず、魚は頭から尻尾まで丸ごと、野菜も土がついたままの状態で浮かんでいた。


 ————これは、()()()()()()や〜〜


 これは比喩とかではなく、鍋の中身はほぼ水槽に変わりなかった。



「あの……えっと————」


「さあ」



 レックスはただ無邪気な笑顔で促す。


 生唾を飲み込みながら、私達は匙を口に運んだ————



「————いや、まずい!」



 その瞬間、テーブルを囲む全員が激しく咳き込み、慌てて口の中のものを吐き出した。


 味というものを超越した何かが、舌と喉を襲ったのだ。

 それは食べ物というより、もはや毒物に近い代物で、飲み込んではいけないと本能が警鐘を鳴らしていた。


 塩辛さと苦味、そして得体の知れない酸味が混ざり合い、舌がしびれるような感覚に襲われる。



「こ、この液体はなんだ!? ジャリジャリして気持ち悪いぞ……」


「マリーの味噌汁がおいしかったから、味噌仕立てにしようと思ってこれを……」


「それ味噌じゃなくて泥だから! 味噌がないんだから、味噌汁から離れろよ!」


「と、というかいつも言ってるけど、なんで食材を切らないの……?」


「煮込めば柔らかくなって食べやすくなるだろう」


「いや煮込むってそんな万能な調理方法じゃないから! モンスターはスパスパ斬れるのに、なんで食材は切れないんだよ〜〜!」


「理解————不能————」


「ダーク————マター————」


「こうなったらやはり————武者丸の口に全部放り込め!!」


「え!? ちょ、まっ————ごぶふぅっ!!?」



 わちゃわちゃとレックスの料理を巡ってごった返す勇者達。



 数々の辛辣なクレームを一身に受けて、レックスの肩はみるみるうちに小さくなっていった。

 普段の威風堂々とした姿は影を潜め、まるで叱られた子供のようにしゅんとしてしまっている。


 こんな弱々しいレックスの姿を見るのは、私にとって初めてのことだった。


 確かに料理は失敗作だったが、ここまで言われるのはさすがに可哀想に思えてきた。



「みなさん————それくらいにしてもらいましょう」



 私は立ち上がり、毅然とした声で仲間達を制した。



「レックスさんは皆のためを思って料理を作ったんです。調理者に対するリスペクトが欠けています!」



 文句を言うなら自分で作れや、という話だ。

 私の言葉に、全員が気まずそうに黙り込んだ。


 私はレックスの元へと歩み寄り、彼女の肩にそっと手を置く。



「レックスさん、私が教えてあげますから、この人達を見返してやりましょう」


「う、うん……!」



 レックスの瞳に、再び希望の光が宿った。


 さあ、反撃開始だ————


読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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