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第58話 役割が分からないなら、チャンスを作ればいいじゃない

「僕達は……どこにいればいいんだ……?」



 マリーと慌てて視線を交わし合う。


 一体、どう立ち回ればいいのか。

 この激戦の中で僕たちが担うべき役割とは何なのか————


 頭の中で答えを探し続けるが、明確な指針が見つからない。

 焦燥感が胸の奥底からじわじわと湧き上がってくる。



「と、とりあえず、皆さんの援護に回りましょう!」


「分かった!」



 僕はマリーと呼吸を合わせながら、なんとか戦線に加わろうと試みる。

 僕達の最大の武器は、息の合った連携力のはずだ。


 二人で力を合わせれば、きっとみんなの力になれるはず————



 だが、そう自分に言い聞かせるものの、実際の戦場での立ち位置は想像以上に不安定で、どこか場違いな感覚が拭えずにいた。



 不安と焦りが心を支配し、呼吸が次第に浅く荒々しくなっていく。

 そして、前のめりになった気持ちに押し流されるように、僕は気がつけば戦線の最前線まで飛び出してしまっていた。



「クロ! もっと後ろに下がれ!」


「え————うわあっ!!」



 トロルの攻撃が目前に迫る。

 気づけば、タンク役のラウムとレオナの前に躍り出てしまっていた。


 ラウムが咄嗟に僕の体を力強く押しのけ、代わりにトロルの一撃を盾で受け止める。



「何やってんだ!? タンクの前に行くアタッカーがどこにいる!?」


「くっ……ご、ごめんなさい!」



 ラウムの厳しい叱責を受けながら、僕は慌てて後方へと下がる。



 どうすればいいんだ?

 アタッカーとしての正しい立ち位置は……?


 しかし、アタッカーとして既に完璧な動きを見せているレックスさんの邪魔をするわけにもいかない。



 そもそも僕はアタッカーなのか?



 僕にできることは————



 混乱の渦が頭の中を支配していた。


 ただただ焦燥感だけが胸の内で膨張し続け、大切な仲間たちの足を引っ張っているという感覚だけが強烈に募っていく。



 その時だった。



「————落ち着きなさい、クロ」



 マリーが僕の頬に手を添えて、顔を上げさせる。

 彼女のひんやりとした手のひらの感触が、熱を帯びていた僕の頭を心地よく冷却してくれた。


 隣に立つマリーが、澄んだ瞳で真っ直ぐに僕の目を見つめながら静かに語りかける。



「私たちの才能は『目の良さ』でしょ。それを活かせる場面が絶対にどこかにあるはず……私はクロの動きにだったら絶対に合わせられるから」



 マリーの言葉で、頭がどんどんクリアになっていく。

 美しく透明感のある瞳が焦っていた僕の姿を映し出し、浄化してくれるかのようだった。



「私達にできることを、思い出して」



 マリーが最後に優しく微笑む。



 そうだ。



 僕達には、僕達の戦い方がある。


 最強の勇者達の中でも、僕達の戦い方はきっと通じる。



 だったら————



「マリー、僕からもお願いです————僕を信じて、ついてきてください!」


「任せてよ!」



 僕達は再び立ち上がる。


 そして、倒すべき敵————トロルの方へと向かっていった。





 トロルの動きが激しくなり、洞窟を揺らす。

 レックスと武者丸による鋭利な連続攻撃によって着実に体力を削られたトロルは、野獣のような怒りに支配され、その破壊力はますます凶暴性を増していた。



「ぐっ……押される……!」



 パーティの盾となって戦うタンクのラウムとレオナが、トロルの圧倒的な力に押され始める。


 前衛が後退すれば、パーティ全体が後退する。

 必然的に劣勢に追い込まれることになり、戦況は悪化の一途を辿るだろう。


 どこかで、トロルの体勢を崩し、逆転の手を打たなければならない。



『グオオオオオオオオオオオオッ!!!』



 トロルが大きく足を上げ、まるでハンマーのような破壊力で踵を叩きつけようと構える。



「————耐えれるか? レオナ……!」


「やるしかないでしょ先生!」



 ラウムとレオナの二人が大楯を上に掲げて、受け止めようとする。

 途轍もない勢いで降ってくる鉄のような足。


 普通の人間なら一撃で体が潰されてもおかしくない、まさに必殺の威力だった。



 それでも————攻撃を防御し、チームを守るのがタンクの役目————



 だが、その緊迫した瞬間だった。



『オオオオオッ!???』



 トロルの足元が急にぐらついた。

 片足立ちだったトロルは体勢を保てなくなり、後ろに倒れ込む。


 ドンッと尻餅をつく大きな音。

 まるで重機が崩れるような衝撃だった。



「今だ! 一気に叩け!」



 この千載一遇のチャンスを逃すまいと、ニカとチカが同時に魔法の詠唱を完成させ、眩い光の奔流をトロルに向けて放つ。


 同時にレックスと武者丸が電光石火の速さで突進し、息もつかせぬ連続攻撃を繰り出していく。

 剣戟の嵐が巻き起こり、トロルの巨体に無数の傷を刻み込んでいった。



『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ————————』



 最後の断末魔が洞窟内に響く。

 この完璧な連携攻撃により、ついにトロルは完全に息の根を止められた。



「————なんとか倒した……」



 ラウムが肝を冷やしたように、ふうと一息つく。



「けど……なんであんな急に隙ができたの?」



 レオナがトロルの巨大な亡骸を見上げながら、首を傾げて疑問を口にした。



「————あの二人だ」



 レックスが戦場の前方に散らばる瓦礫の山を指差す。

 ガラガラと石が崩れる音がして、その隙間から僕とマリーが埃まみれになって姿を現した。



「ちょっとクロ! こかし方が悪くて、私、腰まで埋まってたんだけど!」


「す、すみません! でも……あの角度じゃないと倒れなかったんですってば!」



 僕が必死に釈明するが、マリーはぷいっとそっぽを向いた。

 けれど、その横顔には僅かに笑みが浮かんでいるのが見て取れる。



 そう、トロルに決定的な隙を作り出したのは僕達————



「敵の足運びを完全に見切って、崩れる瞬間を狙ってトロルの足を切ったんだ。そのおかげで、トロルは体勢を崩した」



 ゴーキとの訓練によって培われた、敵の動きを見抜く鋭い観察眼。

 それをフルに生かし、ここしかないと言うタイミングでトロルの足を狙ったのだ。


 無論、一人だけの力では、トロルを倒すまでには至らない。

 僕の動きに全くの狂いなく合わせてくれた、マリーがいたからこそ、成功したのだった。



「そうだったのか。あいつらに助けられたな」



 ラウムはガハハと豪快に笑った。

 レオナも納得したように、頷いている。



「なるほどねえ……それがあのバディの役割ってことね。いわば————」



 チャンスメイカー。


 そう————これが、僕達の戦い方だ。


読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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