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第53話 束の間の休日なら、バディと過ごせばいいじゃない

 時は遡り————その日の午前中。


 雲ひとつない蒼穹が街を見下ろし、陽光が石畳の道を優しく照らしていた。

 微風が頬を撫でる、心地のいい日だ。



「ごめんね。せっかくの休みの日につき合わせちゃって」


「いいんです。マリーの頼みならなんでも聞きますよ」



 軽やかな足取りで前を行くクロの背中に向かって、私は声をかけた。

 彼の返事は相変わらず優しく、その温かい口調が胸の奥を静かに撫でていく。



「どうしても、クロに紹介したい人がいるんだ……」



 私は自然と笑顔を浮かべる。

 振り返ったクロもまた、穏やかな笑みを湛えて応えてくれた。



 試練をクリアした私とクロは、晴れて勇者の仲間になることができた。


 だが、ここが私達のゴールではない。

 勇者達と共に、グランドクエストを達成しなければならないのだ。


 それに向けての準備を進めていく必要があった。



 ただ、今日は束の間の休暇だ。

 ちょうどいいと思った私は、クロを呼び出してみたのである。



「グランドクエストに向けての鍛錬、ついてこれてますか?」


「もうしんどいわよ〜〜、クロがいなかったらとっくに挫折してるわ」


「あはは、でも最近————マリーの動きがどんどん良くなっている気がしますよ!」



 率直に褒められて、素直に嬉しさを感じる。



「ありがと……でもいいことばかりじゃないわよ? 鍛錬で筋肉ついたり、体力つけるために食べる量増やしたりすると、服とか入らなくなっちゃうし」


「確かに、マリーの腕が初めて会った時よりもドンドン太くな————いったい! 痛い痛い! ちょ、そんな蹴らないで!」



 普通に失礼なことを言われそうになったので、無言でクロに蹴りを入れる。

 クロは後頭部を掻きながら、再び前を向いて歩き始めた。


 何気ない、クロとのいつものやり取りだった。



「……」



 歩きながら、無意識のうちにクロの背中を見つめている自分に気づく。


 怒りではない。



 ただ————彼の肩幅、歩く時の僅かな癖、風に揺れる髪の毛。

 ここ最近、クロのことを見ると、胸の奥から湧き上がる不思議な衝動に支配されるのだ。



(クロに……抱きつきたいなぁ……)



 クロに抱きつきたい。

 背中に手を回して、ぎゅっと体を密着させたい。


 この想いは日に日に強くなっていく一方で、どうしようもない切なさを伴っていた。



 クロに抱きつくと、言いようのない安心感と幸福感でいっぱいになるのだ。

 彼の匂い、温もり、鼓動————すべてが頭から離れなくなってしまった。



 なんでこんなにドキドキするんだろう。



「あれ? どうしたのマリー?」



 クロが振り返り、不思議そうな表情で私を見つめている。

 その眼差しに見つめられた瞬間、かあっと頬に熱が走った。



「な、なんでもないわよ!」



 慌てて顔を逸らし、クロを追い抜いて歩きを早める。

 足音が石畳に響く中、胸の高鳴りは一向に収まる気配を見せない。


 自分の心に宿ったこの感情の正体が分からずにいた。



 この気持ちは、なんていう名前なんだろう。



読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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