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第51話 チャンスを掴みたいなら、差し返せばいいじゃない

「はあ……はあ……っ!」



 荒い息遣いが、戦場に響く静寂を破っていた。

 何度となく巨大な翼で吹き飛ばされ、装備はボロボロとなり、白い肌には無数の擦り傷が赤い線を描いている。



 それでも————諦めない。


 だって、隣で一緒に戦うクロは、まだ諦めていないから。



 クロは何かチャンスを探っている。

 それを私は信じる。


 その集中した横顔を見つめながら、私は彼への信頼を胸に刻んでいた。



 ドラゴンは遠距離攻撃は意味がないと察したのか、火球を吐かなくなっていた。

 威嚇をしながら、こちらの様子を伺っている。



「マリー、次が恐らく、最後の勝負です……!」



 そう言いながら、クロは私の手を握った。

 強く、熱い彼の手から、勇気が流れ込んでくる。



「怖いと思いますが……僕を信じて、動きを合わせてください」



 こんな状況でも、まず自分よりもマリーの心配をしてくれるクロ。

 その優しさに、マリーの胸は熱いものがこみ上げてきた。


 クロだってきっと怖いはずなのだ。


 だから私は————精一杯の言葉で返す。



「大丈夫……! クロと一緒なら、怖くないよ」



 二人の目線は宿敵————ドラゴンへと注がれる。



 戦場に張り詰める、研ぎ澄まされた緊張感。

 互いの間合いを測り合う、洗練された駆け引きが始まっていた。


 一歩でも踏み出せば、そこはデッドゾーン————お互いの攻撃が確実に届く、命のやりとりが始まる危険な領域だ。


 生と死の境界線上で繰り広げられる、最後の心理戦。

 時が止まったかのような静寂が辺りを支配し、風さえもその息を潜めているようだった。


 この永遠にも感じられる静寂の中で、私は改めて覚悟を決める。



 今こそ、試練を超える時だ。



「行きます!」



 静寂を切り裂き、二人は全力で走り出した。


 ドラゴンもまた重い体躯を持ち上げて動き出す。

 大地が振動し、空気が唸りを上げた。



 その時————



『敵の方が力が強い時、敵は攻撃をしてこない。攻撃を見極めて迎え討とうとするはずだ。でも、そこが狙い目————」



 クロと私は、まるで心が繋がっているかのように完全に同じタイミングで急停止した。

 ドラゴンの鉤爪は空振り、目の前の地面を抉る。


 そして————ドラゴンは大きな隙を晒した。



 絶好のチャンスだ。



『相手の置き技を見極めて、差し返せ————』



「「はあああああああああっ!!!」」



 二人の魂の叫びが一つになり、鋭く研がれた剣がドラゴンの両目に正確に突き刺さる。

 鋼鉄の切っ先が眼球を貫いた感触が、剣を通じて伝わった。



『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』



 天地を揺るがすような、途轍もない轟音の悲鳴がこだまする。

 ドラゴンは激痛に身悶え、巨大な体躯のバランスを崩して大きく怯んだ。



『そして————相手が怯んだら、それはチャンスだ。自分の最大コンボをぶちかませ』



 私とクロは同時に剣を構え直す。

 そして、これまでの訓練で培った技術のすべてを込めて、大きく振りかぶった。



「「でやああああああああああっ!!」」



 凄まじい連撃が、怒涛の勢いで繰り出された。

 左右から交互に、一瞬の隙も、迷いも許さず、二人の剣が雷光のごとくドラゴンの巨体に叩き込まれていく。


 まるで斬撃の嵐。


 途轍もないスピードで繰り出される攻撃の一つ一つが、ドラゴンの硬い鱗を切り裂き、深い傷を刻んでいく。



 二人で四六時中取り組んだ、真剣組手。

 あの厳しい訓練があったからこそ、今この極限状況で、二人の集中力は人間の限界を突破し、かつてないスピードで完璧な連携を見せていた。



 呼吸も、心拍も、すべてが一つになっていく。



「はああああああっ!!!」


「おりゃあああああああっ!!」



 そして————


 二人の剣は、ついにドラゴンの心臓を貫いた。



『ギャアアアアアアオオオオオオ———————!』



 ドラゴンは断末魔を残し、その場に倒れ伏した。

 召喚魔法によって呼び出されたそのドラゴンは、魔法の光となって、空気に溶けるように消えていった。


 ニカとチカが呼び出したドラゴンとの戦いに勝利し、私達は、試練をクリアしたのである。



「や、やった……!」



 震え声が、信じられないという思いと共に漏れ出た。

 すぐさま、クロの方を振り返る。


 クロもまた、同じように私を見つめていた。

 汗にまみれた顔には、安堵と達成感が混じり合った晴れやかな表情が浮かんでいる。


 この三週間の色々な光景が頭に浮かぶ。

 胸の奥から込み上げてくる熱いものが、感情となって心から溢れそうになる。


 もう我慢なんてできなかった。


 私は、衝動に突き動かされるようにクロに飛びついた。



「クロ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


「どわああああっ!」



 抱きついた私の勢いを受け止めきれず、二人は絡み合うようにして地面に倒れ込む。

 土埃が舞い上がり、二人の髪に降りかかった。


 だが、そんなのもうどうでもいい。



「勝った! 勝ったんだよ! 私たち勝ったんだ〜〜〜!!」



 私ははしゃぎながら、ひたすらクロを抱きしめ続ける。

 彼の温もりを、鼓動を、存在のすべてを確かめるように。



 とにかく、クロに伝えたかった。


 胸いっぱいに広がる、この言葉にならない感動を。



 距離をゼロにして、少しでもクロと分かち合いたかった。



 すると————クロも私の背中に手を回し、強く抱きしめてくれる。



「————ありがとう、マリー……僕を、ここまで連れてきてくれて……!」



 クロの震える声が、耳元で優しく響く。

 それを聞いて、私もまた涙がこみ上げてきそうになる。


 私達はしばらくお互いの熱を感じながら、喜びに浸っていた。

 時が止まったような、幸せなひとときだった。



 こうして、マリーとクロは、勇者として正式に認められたのである。


 そして————彼らが次に挑むのは、グランドクエストだ。


読んでくださりありがとうございます。



主人公がこの先どうなっていくのか、ぜひこれからも見守ってあげてください。

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